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ブラック・キャンバス 偽りのエミュレーター   作者: キット
舞い降りた青
4/14

気持ち

 カチャッ!という音とに封を切った、缶コーヒーを片手に俺と雲雀ひばりは昼休みの休憩時間を使っていた。開放された学校の屋上には読書や昼食の弁当を食べに集まった生徒たちでにぎわっており、しゃべる話題の無い俺達は必然的に屋上の隅の方へと追いやられていた。


 「なぁ、雲雀はやりたいことってあるのか?」


 フェンス越しに校庭の様子を見ている、雲雀にどことなく尋ねた。


 「やりたいこと_____か。あるようで無いな。それに、俺は・・・・・・・」


 上の空まではいかないが、そう言った雲雀の声には関心や興味と言った、感情的部分が一切、含まれてはいなかった。


 「そっか_____。かという俺も、はっきりとした事は決まってないんだけどな」


 特に何かがしたいわけでもなく、何かに憧れているわけでもない俺にはその発言が一番しっくりきていた。ニュアンスは違えど、俺も雲雀と同様にその《何か》を探している道の途中なのだ。


 サッ____!


 宙に投げた中身の入っていない缶コーヒーの缶を雲雀は屋上に設置されていたゴミ箱へと投げる。軌道は申し分ないと思えるほど、的確で一寸の乱れも無かった。・・・・・・無かったのだが、なにぶん速度(スピード)が足りておらず、俺の計算だと、ゴミ箱の数メートル手前でそれは高度を落とし、カランカランと転がるだろう。


 カチャッ____!


 その時、風を切る様な擬音が耳に届く。光りの速さで取り出されたそれは、持ち手の意思をくみ取る様に機能を発揮し、一発の弾丸を放った。


 バンッ_____!


 カンッ_____!


 百発百中の命中率言うのはこういう事を言うのだろうか?雲雀は制服の内側に隠していた、銃を速やかに取り出し、缶の腹の部分に当てる、そうすると、落ちかけていた高度は無理やり引き上げられ、そのままゴミ箱の中へ・・・・・・。


 「・・・雲雀・・・・・・缶ごときにそこまでやるか?」

 「缶だからじゃないかな?それと、俺が放った、弾はBB弾とさほど変わらない」

 「・・・・・・なるほど。そう言うことにしておく」

 「俺には、名取。()()()の方が怖いけど」

 「?」

 「とりあえず、あのゴミ箱に一回でその缶を入れてみろ」

 「無理だって!雲雀でさえ、銃の助けがないと届かない距離なのに・・・・俺なんかが投げても・・・」

 「いいから_____」


 冷たくささやかれた声に俺は、そうするしか他は無いという強迫観念に囚われ、なかば諦め交じりに缶を投げた。


 サッ____!


 ヒューーーーー_______カラン・・・・・・・・・。


 カンッ________!


 サッ____!


 ゴトンッ____。


 「えっ____!?は、入った?」


 あろうことか、俺が投げた缶は数秒ほどの空中浮遊を行い、すぐさま地面についたものの、通りかかった生徒の足に当たり蹴飛ばされ、そのままゴミ箱へとゴールインしてしまった。


 「これだから、お前は・・・・・・一歩間違えたら、かなりの脅威になりかねないな?」


 溜め息を吐きながらそう言った雲雀の顔には、一見して分かる程に疲れが見えていた。


 「い、今のは本当に偶然だって!」

 「それ、ここの所、毎日聞いてるんだが?何かのスキルか・・・・それ?」


 呆れ声で聞いてくる雲雀に返答を考えた俺は気分を少し変えようと____


 「【未来永劫(インフィニティ・)の思い通り(ビギナーズラック)】かな」


 それらしいスキル名を思いつき口にする。


 「・・・は、まさかな?」


 鼻で笑う雲雀に俺は返す言葉もなく、中二病気質な一面を見せてしまっていた。


 「名取、そろそろ午後の授業が始まる。俺達も、ここを去ろう」

 「あ、あぁ」


 気が付くと屋上からは俺達以外の生徒がいなくなっており、髪をさらう風がただ、そっと吹いているだけだった。遠くを見つめる眼差しが儚いモノを見る様に細められ、自然と心が浄化されていく。そんな気分になった時、俺は()()()()()、それに応えるように隣の盟友に声をかける。 


 「でも、雲雀には今、やることがあるんじゃないのか?」

 「うん?どういうことだ・・・?」

 「ほら_____」


 俺は目配せで後方の方を示した。すると、そこには物陰に隠れ、こちらを見ている一年生と思われる一人の女生徒がいた。ショートヘアーの茶色がかった髪に小柄な体、一見すれば高校生とは思えないその少女は今も俺達の動向を監視する様に時折、視線を外しながら見ていた。

 屋上と言っても、ここは殺風景なイメージ通りのモノではなく、花壇やベンチと言った、ちょっとした休憩場としての機能を果たしており、一言でいうなれば《屋上庭園》と言うのが適切だろう。


 「名取、お前はそう言った事にはよく気付くな・・・まったく・・・・・・」

 「逆に雲雀はそう言った事にはうといんだな。少しは人の気持ちに気づいてあげないとな?」


 やれやれと言いたげに息を吐き捨て、雲雀はその少女の方へと顔を向けた。大方、少女の目的は俺の隣にいる、【雲雀】目的だろう。何も今に限った事ではなく、()()()()()事例は幾度となく繰り返されてきていた。


 「____あっ」


 雲雀と目が合った少女は目視だけでも分かる、ただ一言を発し、同時に頬が少し赤くなった。そして、すぐさま目をらす。


 「雲雀、あの子どうするんだよ?どっちみち、お前が何か言ってやらないと、前に進めないんじゃないのか?」

 「よく言うよ。お前だって、人の事は言えないくせに。もし、俺じゃなかったら今日は家に来てもらうからな?」

 「_____分かった」

 「それじゃあ_____」


 いつもの様に_____。


 いつもの態度と心情で雲雀は静かに歩みを始める。それは、獲物を捕らえる蛇の様にゆっくりと冷徹に、それでもって、あざとく卑怯な眼差しで微笑みを零す。


 「え、あっ____!あの_____」


 突然の出来事に少女はしどろもどろになりながらも、何かを伝えようと必死だった。慌てる様子は目に見えて分かっており、それを見ているだけの俺には謎の申し訳なさだけが生まれていた。


 「悪いが俺は一つの事にしか集中できないんだ。別に君がどうとかってことじゃないから。それに、もし、俺が集中したいものが変わったら_____その時は_____」


 淡々と固定メッセージの様に紡がれる、言葉の一つ一つは当たりさわりのない、誰も傷つけない文章だった。だからこそ、少女達は勘違いしてしまう。雲雀自身、それを分かった故で言っているのかは定かではないが、もしその意図なしに発言しているのだとすれば、これほど罪深いことはないだろうと思う俺であった・・・・・・。


 「いや、その・・・・・・えっと・・・・・・お時間取ってしまいすみませんでした!それじゃあ、わ・・・私はこれで_______」


 顔を真っ赤にし目を泳がせた少女は雲雀の言葉を聞くや否や半狂乱におちいり、素早くきびすを返した。その際に足を滑らせてしまい態勢を崩しながらも、慌てて踏み出した足は止まることはなく、勢いよく走り去るようにしてその場を後にする。


 バサッ____!


 「あ、これ・・・・!」


 咄嗟の出来事に少女は気づいてはいなかったが、手元に持っていた《何か》を落として行った。

 しかし、そんな雲雀の呼びかけは少女に届くことも無く、地面には無造作に置かれた《手紙》だけが風に寂し気に吹かれているだけだった。


 「雲雀・・・だからその言い方は誤解されるからやめとけって言っただろ?」

 「あれが最も最善な言い回しだと思ってるんだけど。現にあの子を速やかに追いやれたじゃないか?」

 「それは、別の要因が重なったからだろ?」

 「と言うと?」

 「いい意味で勘違いさせてるってこと」

 「うん?」


俺の発言の意味を理解していないことが分かる顔で雲雀は眉をひそめる。学業や礼儀作法においては、英才教育を受けているのではないかと思わされるほど完璧な雲雀だが《人》という対人関係において《心》を使う場面には全く言っていいほど初心者(ビギナー)で俺との会話でさえも、ぎこちない時がある。それが今の彼を形成する経験という記録だろう。


 「いつか、分かる時が来るさ。雲雀にも・・・な?」

 「何だよ?言いたいことあるなら、最後まで言えばいいじゃないか?」

 「____別に、ただその手に持っている物に目を通さなくていいのかなって」


 逃げる様にその場を去った少女が落として行った、手紙を気づけば雲雀はそれを右手に持ち、そのまま会話をしていた。


 「なぁ、名取?お前、さっき俺に「人の気持ちに気づけ」とか言ってたよな?」

 「うん?言ったけどそれがどうかしたのか?」

 「____ふん、ちょっとこれを見ろ?」


 差し出された手紙に俺は視線を向ける。真っ白でシルクの様な材質の紙と封を止める為に貼られた、赤いハートのシール。一見すれば・・・いや、一見しなくても《ラブレター》と分かるそれを雲雀は逝くりと裏返した________。


 「____さっきの言葉、そっくりそのまま お前に返すよ」


 してやった言いたげな顔で《事実》を向けられた俺はしばらくの間、放心状態になった後、緊張感から乾いた喉を潤すために唾を飲み込み。もう一度、それに()を向けた。

 

 白く不透明な長方形の中心。インクのにじんだ、文字が四文字の名を刻んでいた。



 ________名取 絵人くんへ


 



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