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ブラック・キャンバス 偽りのエミュレーター   作者: キット
散り逝きの翼
14/14

闇のシナリオ

《2075年 都内某所 大手***会社_本社ビル》

_____________________________________


 硝子ガラス張りの高層ビルが天を突く。


 「物語(シナリオ)には、それなりの仮構成(プロット)が必要だ。 でも、私にはそれよりも もっと前に大事な事があると思うんだよ」


 電気の消えた、空虚な一室で男が話す。


 「***だってそうさ。 作り手は、その動機を一番に忘れがちだからね。 端的に言うと、そうなるに至った動機とでも言うのかな。 触れた瞬間に感じた、娯楽こそが私を今に至らしめた」


 目を閉じ、見上げた天井がとうとい。


 「だからこそ、いつかの青年は、また次の青年の為の《作り手》、いや《担い手》になろうと思った」


 男は自身の語りように鼻で笑い、やれやれと両手を振った。


 「もちろん、それだけじゃない。 大切なモノが傍に居る、今ならね」


 席を立ち、湯気の消えたコーヒーに視線を落とす。黒味の中に微かに見え隠れする、豆の色。焦げ茶色の濃淡がゆらゆらと留まることを知らず、その中で今も____。


 「代わりの物を用意しました」


 そっとデスクに置かれた、それを手に取ると口に含み風味を感じる。五感の味覚を伝い感じさせた苦みとコクは紛れもなく本物で、それ故に偽物を感じたくなる。


 「話を戻そうか」


 背景にした一室を背に語りては窓から外の景色に思いを馳せる。


 「別に私は誰かに楽しんでもらう為に娯楽を生み出してはいない。 ま、公にそう言ったら、怒られそうだ・・・はは」

 「では何故?」


 禁断(タブー)に触れた質問が飛ぶ。


 「____()()()の時の為・・・・・・かな」


 男の俯いた表情が背後からでも容易に想像できた。決して、人には弱みを見せない、()()()の前では少しだけ弱い。


 「分からなくていい。 ____むしろ、一生分からないでいい」

 「____」


 泣き顔に笑顔を混ぜた様な、そんな掴めそうにない感情で振り返った人は歩みを寄せた。

 逆光が姿を曖昧にする。回り込んだ光が輪郭を微かにかたどる。


 「大切なモノが傍に居るって言ったけど、あれは少し違う。 私にとって____」



 ________大切よりも必要と思えることの方が何よりも大事なんだ。



 「だから、私から必要って気持ちを取らないでくれよ?」


 そう言って回された手が腰に触れた。物理的な拘束はもちろん、心体(からだ)的な拘束をもはらんだその指先。


 レンズ越しの眼差しが呼吸をさせてはくれない。

 平常心を保ってはいるつもりだった。けれど、目の前の人物に、それは通用しない。


 「____私にとって君が目の前からいなくなることが、【BAD END】よりも望まない結末だ。 あれは、救済の終わりが用意された前提で作られた、【BAD END】のまがい物に過ぎないからね」



 ________誰かが作った、シナリオの上で生かされているなら、それもいい。しかし、最も私が望まないのは、自らが改変したシナリオ_【闇のシナリオ】で生き続けることだ。



 「何故、私にそんなことを?」


 単なる興味本位だった。理由を聞きたいと思った。知りたいと思った。

 首を傾げたその人は静かに私との距離を取り、机に置いてあった、ノートパソコンを指差した。一体、()()()()()()にどんな意味があったのだろうか?

 続けざまの質問はさせてはくれなかった。


 あの人の仕事を邪魔するわけにはいかず、すぐに部屋を出た。多忙で忙しいあの人を____。


 今思えば、それが答えだったのかもしれない。安らぎすらも削る、そのライフスタイル。聞こえてくるのはマウスのクリック音とキーボードのタイピング音。せわしない日々であの人に声をかける者は数少なく返答はいつも、片手間の返事だった。

 けれど、私との会話にだけは雑音は無く。ただ、真っ直ぐにこちらを見てくれていた。


_____________________________________


 冷静沈着な面持ちの1人の男は先程のコーヒーを片手に記事を読む。休憩時間ではなく情報の補給と取る方が適切だろう。ありとあらゆる、事柄の中で有益なモノを優先的に。備え付けられた固定電話が鳴り響いても、聞こえていないのか電話を取る素振りは無く、数分間、鳴り響いたそれは呆れたように音を消す。


 モニターに映し出された、ファンタジー風の景色。青々とした草原に吹き抜ける疾風かぜが草木を揺らし、鳥のさえづりが心地良い。現実の何処かに本当にあるのではないかと思わされてしまうそれに、眼鏡を外した男は食い入る様に見惚れていた。


 「私は・・・・私は・・・絶対に・・・・・・・」


 類まれなる才能と天才的なまでのカリスマを備えた化け物《天才》。私をそう例える者がいた。作り手が化け物になってしまったら本末転倒だと鼻で笑った。刈り取る側を主にした***を作る、私が化け物だ何て____と。


 あの時の私はそんな些細な事でさえ、当たり前と思っていた。


 当たり前の様にそこに在り。


 必然の様に傍に居る。





 ____それから1年後、必要と思えたモノは不慮の交通事故で私の手から零れ落ちた。



_____________________________________

 


 失ったものは失ってから気づくモノ。


  大切なモノは失ってから、その大切さに気づくモノ。



   必要なモノは________



                 ________必要な時ほど手元に亡いモノ。


_____________________________________


 馬鹿だな俺は、そんな簡単ことに気づけていなかった何て____。


 

 笑えないシナリオだ。


 いや、鼻からこれはシナリオなんかじゃない。


 こんなものがシナリオであってたまるか。


 

 全てを失った気がした。力が入らない。能力チカラ行使(使い方)を忘れた。


 だから、神に頼んだ。



 《この現実を大きく覆す、変革者の登場を________》


 

 




 

 



冷たさを知っているのは


 温かさを知っているから。


温かさが懐かしいと思えるのは


 冷たさの期間が長かったから。


温かさを求めるのは


 冷たさの中に温かさが見え隠れしているから。


その両方を知っているのは心を通わせた相手がいるから。

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