特ダネですっ_!
久しぶりに活動報告を更新しました。
よろしくお願いします。
通学鞄を片手に立ち寄った書店。時刻は午前8時15分を指示していた。
ただでさえ人通りの多い、この時間帯はいつにも増して賑やかだった。女子高生の話し声や行き交う自動車の雑音と言った、それもさることながら、今日は別の何かをプラスする形で騒がしく、雰囲気だけでも慌ただしいと感じてしまっていた。
目まぐるしさが飛び交うこの街中で止まっているのは自分だけの様な気がして、置いて行かれた気分だった。
取り出した、スマートフォンを意味も無く見つめていると、背後でバタバタと誰かが走ってくる足音が聞こえた。雪紗にしては品の無い、その地を踏む音。それでもって、重くはない重力が醸し出す、軽快なステップから察するに走っているのは女性だろう。もっと言うと、少女といったところだろうか?
「____朝から騒がしいな・・・・・・はぁ」
察しはついていた。だからこそ、溜息が出る。ゆっくりと懐に銃をしまう様にスマホをポケットに入れると覚悟を決め、振り返った。
「名取先輩、おはようございます!」
眠気を一気に吹き飛ばす勢いで話しかけてきた自称_記者の少女。
「はぁ・・・何でそんなに朝からテンション高いんだ?」
「【特ダネですっ_!】 それもとびっきりの!!」
瞳をキラキラと輝かせて、詰め寄る載記の圧に押され俺は後方へとじりじりと追いやられる。
「で、その特ダネって何なんだ?」
「それはですね・・・なんとっ! 《殺人事件》です!!」
「・・・・・・はっ?!」
突拍子もない事を大声で・・・しかも、軽々と言い放つ少女に俺は呆れと驚きの感情を同時に感じていた。もちろん、彼女のこれまでの動向を照らし合わせれば、この挙動も無くも無いと思った・・・。
「だーかーらっ! 殺人です! 人が死んだんです! スクープです!」
トンッ_!
「いてて・・・何するんですかぁ?」
「当たり前だろ・・・何、嬉しそうに物騒なことを言ってるんだ」
俺は小刻みにジャンプしながら、、《殺人》・《死んだ》と人聞きの悪いワードを口にする少女の頭に中ぐらいの力で手の縁を当てた。
「それに、そんなのとっくにニュースになってるだろ?」
「ふ、甘いですね? 私を誰だと思ってるんですか? 私は____」
「自称_記者の新聞部所属_一平載記」
早口言葉と同じ要領で彼女の簡易的な素性を口にする。
「あー、だから、それは言わないでくださいっ! というか、話の続きをします!」
「・・・・・・」
「・・・無言。 まぁいいです。 で、私が何故、ニュースになっていない事件を知っているかと言うのはですね・・・見てきたからです」
「見てきた?」
「はい、登校中に。 それがどうかしましたか?」
「いや・・・何で載記はその事件? 現場に言ったんだ?」
「道中だったから必然的です」
「あぁ、なるほど・・・・・・」
自分では自覚は無いが、ほぼ毎回の確率で事件に遭遇する主人公の漫画を俺は知っている。もしかしたら、この載記という少女もその特性を秘めているのではという、恐怖に満ちた直感が頭をよぎった。
「でも、《KEEP OUT》のテープが張ってあったんじゃないか?」
「はい。・・・・おかげで、写真は撮れませんでした」
「だったら、事件の内容も分からないなんじゃ?」
「そうですよ」
清々しいほどに数分前の会話を否定される。確かに彼女は殺人事件と言った。それも、飛び跳ねながら。《KEEP OUT》のテープが載記に事件の内容を補正させたことは否めない。だが、今のやり取りから分かるように載記は事件を知っただけで内容までもは知らない。
「じゃあ、殺人事件は?」
「あっ、事件と言ったら、殺人事件が王道だと思って____」
静かに怒りが込み上げる。朝のゆっくりとした時間を急加速させた1人の少女に瞳から光を消し、その原因に近づく。早とちりは誰にでもある。それ時は重々承知のはずだった。しかし、いざ自分がそれをされる側になれば話は別だという事を今、分かった気がした。
涙目になりながら、許しを請うかのような姿勢が余計にかき乱す。
「ご・・・ごめんなさいっ! 今回は私が悪かったです! だから____」
完全に2人だけの戦闘領域と化した、朝の通学路に不穏な風が吹く。悪戯をしてバレた時の絶望感を引っさげて少女は慌てふためいていた。その姿は普段の彼女からは想像できない程、弱々しく、俺はこの瞬間、載記の弱点を得た。
「おはよう、名取」
少女に取っての助っ人が朝の挨拶をしてきた。
「・・・・・・悪運強いな。____おはよう、雲雀」
はぁっと、息を吐き、声を返した。
「うん? その人は?」
「1年の一平 載記。 まぁ、いろいろあって」
「珍しいな。 名取、お前が年下の子と付き合うなんて」
「付き合ってないっ____! それに俺は____」
この時、俺は何を言おうとしていたんだろう。直前までは確かにあった、言い返しの言葉。しかし、我に返った俺には続きを口にすることはできなかった。
「えーと・・・鶫谷雲雀 先輩ですね? 名取先輩とは別にそう言うのじゃないんで気にしないでくださいね」
「そうか。 なら、何故 一平 載記は名取といるんだ? 理由も無く一緒にいるには、少々不可解に感じるが?」
「それはですね。 取引です! 私の持っている情報と引き換えに名取先輩には助手として働いてもらっている。 それだけです」
「助手?」
載記の言った、助手と言う言葉が雲雀の疑問をさらに引き立たせる。
「はい、助手です! そして、まさに今、その初仕事を手伝ってもらおうとしたんです。 登校中に事件現場を目撃したので!!」
両手に握り拳を作り、「ファイトッ!」といった姿勢を作った少女は雲雀へと、その威勢の籠った眼差しを向け、そう言った。
首から下げられた一眼レフは正直、現在の彼女には見合ってはいなかったが、雰囲気だけは理想の姿を捕らえつつあった。
「なるほど。最近、殺人事件が多いな。 あながち、名取はその成果の報酬に興味を持ったといったところか?」
的確な推測を持ち出され、思わず息を呑む。雲雀の観察眼は今に始まった事ではなく、日々の高校生活の中でその能力が発揮される機会は幾度となくあり、俺はその光景を隣で見ていた。
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________だからこそ、俺はいつか出会うはずの少女の気持ちも理解できたのだと思った。
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「ま、まぁな・・・・・」
「それで、どんな報酬なんだ?」
聞きたい情報を最も聞かれたくない人間に聞かれる。
もし、ここで雲雀に載記との取引の内容を知られれば本末転倒だ。仮にメモに書かれていたことが些細な事ならば問題は無いのだが・・・・・・その逆があるのだとすれば、未来は見えている。
「それはですね、雲雀先輩の____」
ガシッ____!
「んっ?! んんんんんんんんっーーーーーーーー!!」
咄嗟に体が動いていた。雲雀の質問に素直に答えようとする、少女に焦りを感じ気づけば、載記の口を右手で塞いでいた。女の子の体に素で触れるのは恐らくこれが初めてだろう。しかし、こんな危機的状況下で初めてを経験するのには複雑な気持ちがあった。
「お、おい・・・名取・・・・・・」
「なんだ?」
「その・・・・・・」
珍しいことに雲雀から弱々しい声が届く。
「手・・・」
「手?」
「そろそろ、離してやらないと・・・・死ぬ・・・ぞ」
「えっ____?」
その瞬間だった。
ガブッ____!
激しい痛みと共に少女の顔から手が離れた。そうしてようやく雲雀の発言と痛覚を通して気づく少女の状況が合致する。不意に見つめた右手の人差し指に歯型がついていた。ズキズキと痛むその指を見ながら俺は載記の方へと目をやった。怒っているのか、怯えているのかさえも分からない彼女だったが、今の事でハッキリとしたことがある。それは、彼女自身に自己防衛本能は確かに備わっているのだと。
・・・・・・それが普通だが。
「あーもう! 何するんですか!? 私を殺す気ですか?! もし、そうなら私の記事に名取先輩の事、執筆きますからね!?」
ポニーテールの小さな記者に口うるさく小言を言われ続けた俺は内心、呆れ気味な顔を隠そうともせず、適当な返事を繰り返した。「もう、分かってるんですか?!」や「聞いてます!?」などの生真面目キャラ特有の定型文を軽く交わし、学校への道を歩み続けていた。俺と載記との後ろをついて来る雲雀はどこか上の空の様で景色を見つめるその瞳はもっと先を見ているようだった。
「____分かったよ。 それじゃあ早速、放課後からでいいか?」
「はいっ____!」
諦め気味に答えた返答に少女は嬉しそうだった。本当にこんなことが彼女の為になるのだろうか?ただの高校生に事件をどうこう出来るとは思えない。それに、可能性の中に《命の危機》があるかもしれない。そんな気も知らないで、目の前の少女は楽しげに笑う。
____明るくて無邪気でちょっと天然な、そんな《太陽》に俺は照らされていた。




