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ブラック・キャンバス 偽りのエミュレーター   作者: キット
散り逝きの翼
12/14

弾痕

※今回に関してはレーティングをR-18とさせて頂きます。もし、読者の方の中にそう言った、耐性が無い方がおられる場合は気を付けて読んでください。

 照明の落ちた、薄暗い部屋に煙草タバコにおいが充満する。誘惑と絶望のうごめく、混沌が滞在するどこかの一室。助けを呼ぶ声も、当然の様にかき消され、捕らわれた《麗し》は《獣》のかてに成り下がるしかなく、その後の全てを奪われるのみ。


 両手をその特有の力で押さえつけられた、《麗し》は抵抗の余地さえも与えられず、ただ、じっと、快楽のはけ口としての役目をになう。


 張り裂けそうな体の痛みと込み上げてくる、炎の様な熱さ。


 それでも、まだましだと思える自分に気が狂いそうになる。


 幾ばくかの思いは今をって、台無しへと染め上げられてゆく。


 太ももにまとわりつく生ぬるいそれに、口元をけがす、温かみのそれ。


 吐き気よりも先に口から吐き出していたそれを視界に捉えた瞬間とき、自らのから《生きる意志()》が消えてゆくのを悟った。


 もう、これでお終い。


 もう、これで意味は無い。


 もう、これで________。



 ドンッ________!!


 

 心臓に響く程の衝撃音が耳に届いた。


 「なんだっ____! お前らは外の見張りでもしてろって言っただろうがよっ!!」


 野太い男の声が剣幕のある怒声と共に部屋中をおびやかす。

 フラッシュバックする、ほんの数分前の拷問にも似た行為が鮮明に脳裏に流れ始める。発狂しそうな精神を噛み殺し、現在の状況を必死に知ろうと気を保つ様に瞬きを数回繰り返す。


 でも、そんな気も1秒後には失せていた。


 ____どうせ、死んだも同然。


 心の中で冷たい声色が喋った。



 「い、一体・・・一体、お前は・・・・・・何なんだよっ!!」


 怒りに満ちた男の声には微かな震えが混じっていた。


 「外の連中はどうしたんだよっ!! お・・おい・・・・何なんだよ・・・それ・・・・・・・」


 コツ_コツ_コツ_コツ________。


 蛇口から落ちる水滴の様に透き通った靴底を踏み鳴らす音が聞こえる。ギギギィッ____と鈍い金属音を引き連れて近づく異様な何かに男は、おののきを隠せず声色からでも容易にその余裕の無さが伺えた。


 「く、来るなっ! それ以上近づいたら・・・」


 カランッ____!


 男は隠し持っていたナイフの鞘を乱暴に叩きつけ、ギラリとその先端を恐怖の矛先に向けた。だが、声からでも分かるように男の状況は否定のしようがない、不利そのものだった。

 最初に行動に出たのは男の方だった。


 ザッ____!


 右手を勢いよく突き出し体重をかけ風を切る。しかし、手ごたえは感じられなかった。むしろ、今の行動が男の命運を決定づけたと言えるだろう。


 ぐっ!


 ドサッ_!


 肉を潰す様な音と共にとなりに倒れ込んで来た、男。ベッドの上で大きくバウンドした、それを無関心に映し続け、次に起こるであろう何かを待った。このままでは自分も、その何かに殺されるのではないかと言う事柄はとっくに考え終えており、今はむしろ、楽に死ねるのではないかと言う期待が最後の願いだった。


 けがされ続けたこの身は潔白(リセット)出来ない。なら、死んだ方がマシ。むしろ、そうしたい。


 バンッ_!


 バンッ_!


 バンッ_!


 バンッ_!


 4回、鼓膜を破る様な酷い衝撃音がした。何も、聞こえてあのはそれだけではなく、比例する様に男の叫ぶ声も聞こえた。恐らく、この音は銃口から弾丸が放たれた際の音で標的は男なのだろう。


 もう、どうでもいい。


 ____楽にして。


 涙を浮かべ、真っ白を願う自分。

 ここで終わりなのは気がかりだけど、こんな()で生きるのは死んでいるも同然。

 だから、お願い。


 

 「____両手、両足。 どうだ、お前がそこの女にやった事と同じことだ。四肢の自由を奪い。 嫌がる事を無理やりする。 ま、お前の場合は楽しんでいたようだけど」


 若い青年の声がした。敵は無く、殺意は恐ろしい程にある、そんな声が____。


 「ぐぇっ! ひゃ、ひゃめろっー!」


 一体・・・・一体何が起こっているのだろう。ガチャリと音がしたと同時に男の声が曇り、言葉遣いにも違和感が生まれる。脱力した体ではその光景へと目を向けることは出来なかったが、これ程までに理不尽を掌握しょうあくする者が現れたことに少なからずの救済を願った。


 それは、助けてほしいだとか、全てを無かった事にしてほしい、と言った未来的な希望を願うものではなく・・・・・・ただ、殺してほしいという一途な救いだった。


 「弾は全部で6発、お前に使った4発とこれから使う、1発で残りは護身用に取っておこうと思っていたんだが________」


 慣れ始めていた視界の中で、見慣れない男と目が合った。きっと、彼が私を殺してくれる者だと思った。


 「・・・・はぁ、どうやら全弾使う事になるな」


 視線が消える。


 「たっ・・・頼む・・・・! ころひゃないでっ! きゃ、きゃねなら・・・いくや、でも・・・・・・・」


 依然として状況が変わらない男は必死に命乞いをしているようだった。さっきまで、あんなに私を痛めつけていたあの男が今はこうして、自分と同じ立場に転落している。そう思うだけで、少しばかりの高揚感があった。全く、最後の感情がそんなクズによって生み出されたことに苛立った。


 「最後に良いことを教えてやる」

 「____っ!?」

 「女の口に、お前の様なゴミの遺伝子を流すのは________」



 ________〖口の中に入れた銃の引き金を引く事と同じだ〗


 バンッ________!!


_____________________________________


 血痕の残液が頬にベッタリと飛び散った。


 生ぬるい。 生臭い。 汚い。


 けれど、体は動かない。

 次は私。やっと私。

 お願い早く。


 グッ_!


 首を絞められた。痛い、苦しい、息ができない。せめて、私もその銃で____最期の1発で一思いに殺して。


 「最期に1つだけ聞いておく、お前は生きたいか? それとも、逝きたいか?」


 薄れゆく意識の中で私は唇を噛み、ゆっくりと口を開いた。


 「死にたい」


 ____と。


 それを言った時、目先の男の顔がはっきりと見えた。

 整った容姿に気品のある服装。黒く染められた手袋を着けており、外見から言ってしまえば、若すぎると思ってしまっていた。成人をまだ向けていないのではないかと言う、考察と何故、こんな青年が____?と言う疑問が同じタイミングで生じていた。


 「わかった」


 呼吸がしやすくなった。 止めらていた酸素の供給を取り戻すべく、荒い息遣いで空気を吸って吐き出した。目眩とくらみが気持ち悪さを増大させ、苦しみの度合いが分からなくなる。


 「なら、いっそ苦しまない様に________」


 あごに添えられた右手が強制的に視線を目の前の青年に向けさせる。

 

 優しい顔が微笑んだ。 「もう苦しまなくていいんだよ」と、聞こえた気がした。


 私はそんな彼に胸の高鳴りと同時に恋心が芽吹くの感じた。本当はそんな彼の頬に1度だけでも触れてみたかったけれど、思うように動かない四肢がそんな最期の願いも拒絶する。

 あぁ、どうして、最後の最期に神様はこんなズルいことをするかなぁ、と笑みにも似た苦笑いを浮かべた。

 もしかしたら、彼には私の心の声が聞こえていたのかもしれない。

 絶命する数秒前、彼は私の瞳を見つめ____



 ________〖それは、俺が神だからだ〗


 切り裂かれた、体から赤い液体が盛大に飛び散った。



 深紅に染まった部屋の中で生命は1つとして存在しない。散った魂の行方は彼にしか分からない、それでも彼には1つだけ思う事があった。


 一生消えない傷を負わされた彼女への手向たむけはきっと、出来ただろう。醜悪しゅうあくな獣の口を貫通させた、弾丸が残した、一生消えない、【弾痕】で____と。

 




 


 



 


 

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