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ブラック・キャンバス 偽りのエミュレーター   作者: キット
散り逝きの翼
11/14

白銀の勇者

 「な、ななななな・・・!」


 真っ赤にした顔で慌てふためく雪紗を横目に俺は多少の罪悪感と言った事は仕方ないという自己肯定感を引き連れて書店に入った。(その後、俺の姿を見た者は誰一人としていない・・・・・・)と付け加えれば、書店での出来事は察しが付くだろう・・・?


 「えーと、新刊は確かこの辺だよな」


 いつもの場所にいつもの配置で真新しい文庫本の数々がズラリと並ぶ。2ヶ月感覚の20日に俺の読む、『儚い彼女の育て方』通称_『儚カノ』が発売される。そして、今日がその日だ。


 「おー、今回は朱音あかねが表紙か・・・!」


 手に取った小説の表紙には、淡い赤色をした髪の少女_《鳴瀬 朱音(なるせ あかね)》が描かれていた。メインヒロインでありながら地味な立ち位置を強いられている、少々気の毒なキャラクターなのだが今回は違う、そう、第8巻目に入ったこの巻ではそんな少女がメインヒロインとしての覚醒を果たすのだ。


 だからこそ、表紙を飾るのは必然的に彼女になるのも納得がいく。


 ____うんうん、と何かに満足する様にうなずいた俺の横で雪紗が引いていたのは忘れることにしよう。


 「な・・・名取くん? そっちは終わった?」


 恐る恐る話しかけてくる雪紗の声で俺は我に返る。八ッと息を吹き返す意識を雪紗に向ける。すると、その手には教科書程の大きさの紙袋を大事そうに抱えている彼女の姿があった。


 「あ、もしかして 待たせちゃった?」

 「ううん、そんなことないよ。 私は最初から買うもの決まってたから大丈夫だよ」

 「そうなんだ」

 「あんなに熱心に本を見ている名取くんに声をかけるか躊躇ためらちゃって」

 「気を遣わせちゃって、ごめん」


 あはは・・・と苦笑いをこぼしながら俺は雪紗へと謝罪する。


 「私も、もう少し見たい物があるからその辺にいるよ。 だから、そんなに急がなくて良いからね?」


 優しくかけてくれた声に俺は答える様に返答し、その他の文庫本を見ることにした。


 「このイラストも可愛いな。 読んだことは無いけど、絵師の名前は聞いたことがあるし」


 様々な角度から描かれたキャラクターの数々。その全てが十人十色で描き手の数ほどキャラが生まれるという事を改めて時間した気がした。

 雪紗を待たせているかもと言う、気が俺の脳裏をよぎり、手持ちの本を片手にレジへと足早に駆けた。


_____________________________________



 陳列棚の列を抜け、その方へと向かっている時だった。


 サァ________。


 それは、シルクの様に柔らかな風をまとい現れた。


 「____っ!」


 視界に飛び込んできたのは紛れもない人だった。しかし、唯一の違いを上げるとすれば、それは服装だった。襟元を立て、膝丈まである純白のコートをたずさえた、その姿はまるで《剣士》そのものだった。


 一種のコスプレと言う線も十分に考えられるのだが、そう考えれば考える程、疑問が生じる。今はコミケ開催期間でもないし、そう言ったイベントがもよおされているという話も聞かない。

 それよりも、最もこの状況に異を唱えるとすれば、それは____


 ____こんな街角の書店にコスプレをして来るという事、自体が不可解だ。


 (よっぽどのコスプレ好きか、あるいは()()なのか・・・・・・?)


 などと考えていると、その()()は爽やかな面持ちで話しかけてきた。


 「やぁ、君もこの本が好きなのかい?」


 口調は優し気で違和感がない。


 「は・・・はい・・・・・・」


 小さく返事をする。


 「それはいいね。 俺もこの本・・・と言うより、この絵が好きなんだよ」

 「絵・・・ですか?」

 「生憎あいにく、俺はこの字が読めないんでね・・・・・・」

 

 読めない? それは身体的な異常? いや、見た感じその可能性はないだろう。だとすれば、何故読めない?


 考えるまでも無いと思った。 あの衣装とも思える服装、それに青く透き通る様な瞳が証拠だ。


 「もしかして、外国の方・・・ですか?」


 賭けをした。 これで、もしも俺の考えが違えば恐らく目の前の人は飛んだ変人だろう・・・多分。


 「ガイコク・・・? 何だいそれ?」

 「あ、いや、何でもないです」


 関わっちゃいけない人だ! と、咄嗟に思た俺はすぐさまレジへの進行を始めた。しかし、その行為も再びの掛け声で静止される。


 「あ、ちょっと一つ聞いてもいいかな?」

 「は、はいっ!」

 「この表紙の絵を描いた人の名前は何て言うのかな?」

 「え、あっはい・・・《深咲 暮人(みざき くれひと)》ですけど。 それがどうかしましたか?」

 「ミザキ・・・・・・いや、何でもないよ。 ありがとう」


 名前を聞いた時、その人は落ち着く様にうなずき、誇らしげに本を見続けていた。


 「それじゃあ、俺はこれで。 人を待たせてるんで」

 「そうか。もしかして、あの娘____」


 書店の入り口付近で俺を待っている雪紗を指差したその瞬間とき、眼前の剣士の息が止まるのを感じた。俺には彼の挙動の意味が分からず、思わず声を出してしまう。

 

 「あの____」


 しかし、その声は届くことはなく。


 完全に無視された。


 そうして、5秒が経った時、男は口を開いた。


 「____レシウ・・・いや、まさかな・・・・・・」


 誰かの名前を言いかけたようにも思えるその発言。だが、男は途中でその口を塞ぎ、胸中に言葉の続きを仕舞い込んでしまった。気になることはいくつかあるが、初対面の俺にはこれ以上、踏み込むことは出来なかった。


 「おっと・・・! もうこんな時間か、それじゃあ俺は帰るとするよ。 あまり待たせ過ぎたら、何を言われるか、わからない・・・・・・!?」


 右手の腕元を一瞥いちべつし焦る様にその場を後にする剣士を装った男。


 「待たせ過ぎたら・・・?」


 興味本位か、それとも条件反射か? 口を開いた時にはそう聞いていた。


 「この表紙の少女の様に赤い髪をした、俺の大切な人さ」


  軽く手を上げ別れをそくしたその人は足早に俺の前から姿を消した。後に残された俺の周りには整理された文庫本と書店特有の紙の匂いがほのかに香っていた。


 服装に合わせた様な白髪。カリスマ性を感じる、その特徴を俺はこの時、【白銀の勇者】と例えていた。


_____________________________________



 「ねぇ、名取くん。 さっきの人って知り合い?」

 「いや、知り合いじゃないけど。 どうかした?」

 「見た感じ、日本人じゃないよね。 服装もそうだけど、髪色も私達とは正反対だったし」

 「外見だけで言うなら、雪紗と同意見だよ」

 「それってどういう事? 言葉に含みを感じるんだけど」


 本当は何か知ってるんじゃないの?と言う様な顔で雪紗が話す。


 「何て言うか、あの人は()()()()が違う気がするんだ」


 断言はできなかったが、それでも俺の感じたこの推測は妙な真実味を帯びていた。


 「そもそも・・・? それって具体的にどんな感じなの?」

 「話が飛躍するかもだけど、言い表すななら、《異世界からの訪問者》って感じかな?」

 「異世界・・・? ・・・・・・ふ」


 クスッと口元に手を当て笑いをこらえている雪紗を見て、俺は眉を細めた。


 「雪紗・・・馬鹿にしてないか?」

 「ご・・・ごめん・・・・・ふふっ」

 「・・・・・・」

 「帰る」

 「あー、謝るから・・・謝るから!! だから、そんな顔しないで? ね?」


 ころころと移り変わる情景とそれに伴う、感情。1つ1つの動作に色がある彼女の姿はまるで、万華鏡の様だった。


 「嘘だよ」

 「____」


 形勢逆転・・・・・・とはいかなかった。(その後、俺の姿を見た者は誰一人としていない・・・・・・)2回目。


 と、一連の必然的仕返し(イベント)を終えると雪紗は落ち着きを取り戻し、ブレザーの襟元を整え、「そろそろ帰ろうか」とその顔を笑顔で満たし言葉を発した。


_____________________________________



 駅前で雪紗と別れた後、俺は数10分前から感じていた視線の主の方へと気配を消し背後から近づいた。相手はこちらの接近を微塵も感じていない様子で今も現在進行形で手元の動作を続けていた。


 (・・・相手の目的が分からない以上、むやみに接触するのは止めておこう)


 意識を集中させ、ブツブツと何かを言っている声に耳を傾けた。


 「噂の転校生_切峰雪紗、クラスメイトの名取絵人と放課後デート・・・っと。 今日の所はこんな感じかな」


 聞こえてきたのは俺と雪紗の着色された動向だった。


 サッ____!


 隙を突いて俺は目の前の監視者ストーカーが手に持っていたメモ帳を取り上げた。


 「あわわっ____! な、何ですか!? 何なんですか!!」


 それを機にこちらの存在に気付いた、()()はプンスカと擬音が見えそうな剣幕で俺の胸元へと距離を縮めて来た。


 「何ですかって聞きたいのは俺の方だよ。 何で、こんな事してるんだ?」


 ヒラヒラとメモ帳の端を持ち、少女の目の前でブラブラさせながら問いただす。


 「そ・・・それは・・・・・私が・・・記者だからです!」

 「はぁ・・・・自称ってこと?」

 「失礼な! 私はこう見えても、名取先輩の通う学校の新聞部、何ですよ!」

 「()()()・・・記者じゃない」

 「なっ・・・!? それを言います!? 普通・・・・・・」


 肩を落とし溜め息を吐く、自称_記者の少女をあしらう様にメモ帳を見る。書かれているのはあるかも分からない、真意不明の噂や都市伝説。クラス間でのトラブルや交友関係。一言で言うなら、ゴシップネタの宝庫だった。


 びっしりと書かれたメモ帳にある意味、関心を覚えた頃には文章の書かれた最後のページへと指がかかっていた。


 パラッ____


 案の定、最終ページにも同じような文面が並び、半ば見る気がしなくなっていた。その中で俺の目に必然的に飛び込んできたモノがあった。



 ・3月31日 鶫谷雲雀、学校付近の神社で目撃。手には____。



 だが、俺がそれを読み終えるよりも先に少女の手が俺の手からメモ帳を取り上げた。


 「もう! あんまり見ないでください。 これは私が集めたネタなんですから。 まさか、名取先輩も記者の座を狙ってるんじゃ!」

 「違うよ。ただ、気になる文章があったから、つい」

 「ふふーん、でも、見せてあげませんから。 どうしてもって言うなら、私の助手になってください」

 「助手?」

 「何、私がネタを集めている間の荷物持ちです。簡単でしょ?」

 

 面倒なことになったのは否めない、そうでもしないとあの文章の続きを見せてもらえそうにないからだ。もしも、それを知った事で決定的な何かが失くなるのだとしても、構わない。


 雲雀の家の仲間ファミリーになった事、そして雲雀の姉_鶫谷 裏亜(つぐみや りあ)の言った、《青い烏》の発言も気になる。俺が雪紗に感じたことと同じ比喩表現をする、裏亜の事は気がかりだ。それに、彼女(雪紗)と初めて出会ったのも神社だ。


 単なる、偶然かもしれない。 いや、そうであってほしい。


 だから____


 「わかった。 君の助手になるよ。 えっと____」

 「一平ひとひら 載記さきです。 載記さきって呼んでください、名取先輩!」

 「あぁ、載記さき。 これから、よろしく」

 「はいっ!」


 慌ただしくも充実した日々にまた一人。桜の残香が残る街並みで桜色の髪をポニーテールにした一平 載記は明るくそう返事をした。






 ____そして、これが血で血を洗う殺戮と陰謀の埋めく、《死亡的遊戯(デスゲーム)》の始まりであった。


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