第二話 迷った末に
「助かったぁ…」
カゲルはホッとため息をついた。まさかこんな年端の行かない少女に助けられるとは思わなかった。
「よくわからないけど…助かったよ、サンキューな。」
感謝はしているもの、早く離れたいという気持ちも半分あった。変な匂い、ボロボロの服装、そしてこの子の目には光が全くなかった。
「さて、俺はそろそろ行くよ。君も早く帰りなさい。親御さん心配するよ。」
今の財力では何の恩返しもできないのを悔やみながらも、カゲルは宿へ向かおうとした。
が、10mほど歩いてふと振り返ると、目の前に娘がいた。ついてくるのだ。
「えっ!?ちょっと…」
「……」
相変わらず何も喋らないが、その表情は最初よりも曇っていた。
「ごめん、俺、お礼に何か渡せるような余裕が全くないんだよね…」
「……(ふるふる)」
少女は少し目線を下に向けながら首を横に降った。
「え、えっと…もう日も落ちるし早く帰らないと親御さんに怒られるよ?」
「……(ふるふる)」
また首を横に降った。よく見ると、今度は軽く涙ぐんでいる。それを見てカゲルは勘付いた。
「も、もしかしてだけど、両親はもういないとか?」
「…(こくり)」
今度は頷いた。少女の目から涙がこぼれおちるのが見えた。
なるほど、服がボロボロなのも強烈な異臭もそれなら納得できる。
(これ…可哀想だから面倒見てあげろパターンじゃねーか。嫌だよぉ…めんどくさいよぉ…異臭とかはともかく、ただでさえ生活自体は贅沢とは程遠いのだから、せめて旅は一人で自由気ままにしてぇよぉ…)
カゲルの本音はこんな感じだった…
が、いざ少女の泣いている姿を見ると、彼女も誰かに助けてもらいたい と思っていることはカゲルにもはっきりとわかった。
(盗賊団から俺を助けたのは、この人なら面倒を見てくれそうとでも思ったからなのか?何を根拠にそんなことを…?)
盗賊団に襲われていた時点で、身を預けても安全ではないのはわかるはずである。
「……」
カゲルが悩んでいるのが伝わったのだろうか?少女はその光のない目でカゲルをじっと見ていた。
(第一に何でこの子は喋らないんだろう…?事情を説明してくれれば俺も考えがまとまるかもしれないのに…)
「なぁ、なんかこの辺臭くないか?」
「ホントだ。早く行こう。俺、臭えの大嫌いなんだ…」
偶然近くを通りかかった2人組の会話が聞こえてきた。臭いのが好きな人なんて聞いたことがない…少女が移動するたびにその場所でこんな会話が飛び交っているのかもしれない…
(幸いにも今日は少し多めにお金を稼げたんだ…これくらいなら仕方ないか…)
「と、とりあえず、その匂いと服はどうにかしよう。ついてきてくれ。」