2-1.不穏なる影
さて、二話です。
のどかな街に現れた悪魔はジンの生み出したクソゲーに敗れ去った。
これにて一件落着と思われたが、どうやらそんなことはないようで...?
レンビッツの街の中央にある大通り。
レヴィアタンと名乗る悪魔とクソゲーの壮絶なる戦いを経て、そこも静けさを取り戻しつつあった。
彼女の出現により避難した人々も、すでにちらほらと戻ってきている。
しばらくすれば通りは本来の賑わいを取り戻すだろう。
そして、そんな住人たちに混じってこの大通りに足を踏み入れる人影が二つあった。
上半身がすっぽり隠れるほどのフード付きの外套に身を包んだ二人の男。
彼らにとっては、まだ事態は何一つとして終わってはいなかった。
「どこにもいない……海魔レヴィアタン様は、一体どこへ行かれたというのでしょうか」
「まさか、何者かに敗北したとでも?」
彼らはとある組織に所属し、その目的のためにレンビッツの街に長らく潜伏していた。
そんなある日だ。遠くの丘が突如大きく裂けたのが見え、それからほどなくして街の中心部から言伝に『おとぎ話の中だけの存在が突然現れた』という話が広がった。
そこで彼らもこの事態を知ることになった。
その『おとぎ話の中の存在』こそ他でもない、彼らの目的のために必要なものだったのだ。
そうしてこの二人の男は、至急現場に駆けつけた。
だがその時にはもう、全ては済んだ後だった。
悪魔レヴィアタンはクソゲーに敗北し、力を失われた。
「これでは、我々の目的が果たせない。悪魔が敗北するなど、そんなことがあり得るのでしょうか……」
焦燥にかられた声をあげる二人組の片割れ。
しかしその焦りを、もう一人の男がなだめる。
「いや、それならそれで良いのかもしれんぞ?悪魔が敗れるということは、それだけの実力を持った何者かが別にいるということだ。
ならば海魔レヴィアタン様の代わりに、その者に我らの悲願を叶えてもらえばいいんじゃないか?」
気を取り直したように互いに小さく頷く。
そうして通りの一角を歩いていた街の自警団の一員らしき男に駆け寄り、問いかけた。
「すみませんがひとつ訪ねたいのです。ここに悪魔と名乗る者が現れたそうですが、それは今どこに?」
その問いに、自警団の男は呑気な顔で応える。
「んえ?あぁ本当だ、いつの間にかいなくなってるな、あの自称悪魔。やっぱり大したヤツじゃなかったのかなぁ。
丘が水でばっくり裂けたのは、あれか、多分別の自然災害が偶然重なっただけだろうなぁ~。まぁ現地の調査も進めてるし、その辺のことも追々分かるだろう」
「貴方達は自警団でしょう、あれが現れた時その場に居合わせていたはずです。一体何が起こったのです?」
「なんか変なニイちゃんがあいつを説き伏せて、これまた変な箱の前に座らせたんだよ。そしたら急に自称悪魔が大人しくなってさ。
最初の頃は俺達も心配で見守っていたんだが、あんまり進展がないもんで途中で飽きてみんな帰っちゃったよ。
あのニイちゃんもニイちゃんで大概変わったヤツだったなぁ、ありゃ話術とか催眠術だったのかな?」
大通りには他に被害は一切ない。
通りを行く人達も、悪魔のことなど半ば忘れてしまっているようだった。
被害を被ったのは丘にある農耕地だけのようだ。
悪魔と呼ばれる存在が現れた結果にしては、これではあまりにも呆気ない。
やはり海魔レヴィアタンはなんらかの方法で無力化され、あっけなく敗れたのだ。
「…………」
「…………」
男達は互いの顔を横目で見合わせる。
そいつか。
悪魔を倒したのは……。
「よろしければ、その男の詳しい人相を教えていただきたい」