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1-5.クソゲー



「武器を装備しなきゃ意味ないってなんだふざけているのか!?貰った時点で勝手に身につければいいだろうがそんなもの、馬鹿なのかこの勇者は!

 っていうかこんな大事なことならゲームの中でも説明をしろよ説明を!街の連中もこっちを無駄にちやほやするぐらいなら誰か一人ぐらい指摘しろよ!

 『え?貰った剣装備してないんですかそれは飾りですか?』ぐらい言っていいだろそれぐらいの無礼なら我も許すよむしろ頼むよ!」


 怒りに狂うレヴィアタン。

 なにより一番恨めしいのが、一応ちゃんと説明書に記載していたことをすっかり忘れていた自分自身なのだからなおさらやるせない。


「まぁまぁ。今からでも装備すればいいんだよ。ゲーム中ではモンスターに負けても城や近くの街で復活できる。やり直しはできるよ」


 彼女の怒りを宥めるジン。


「ほう、そうなのか。ハッ、現実ではこうはいかんぞ勇者よ。これが現実ならお前今頃地面の染みだぞ分かってるのか勇者その辺……」


 ひとまず、改めて貰った武器防具を装備し再び街を出る。

 それからしばらく進み、再び画面が暗転する。


【こ゛ふ゛りん か゛ あらわれた !】


「来やがったな小鬼がァ……!今度は返り討ちにしてやる」


【れう゛い の こうけ゛き !

 こ゛ふ゛りん に 7 の た゛めーし゛

 こ゛ふ゛りん の こうげき !

 れう゛い に 1 の た゛めーし゛!】


 先程明らかに力負けしてあっさりと敗北した勇者【れう゛い】だったが、今度は形勢逆転だ。

 装備を身に着けたことでステータスが上昇し、敵よりも遥かに強くなっている。


「はははははははは!見ろ、先程は面食らったがどうということがない。本来ならばこの通りだ、最早こんな相手脅威ではないわ!」


【れう゛い の こうけ゛き !

 こ゛ふ゛りん に 7 の た゛めーし゛

 こ゛ふ゛りん を たおした !】


「よし、勝ったぞ!仮初めの敵とはいえ、倒すとこれでなかなか達成感もあるものだ、存外楽しいではないかゲームとやらも。

 さてさて、少し足踏みしたがこのまま北の街へ向かおう」


【こ゛ふ゛りん か゛ あらわれた !】


「またか。なるほど、数歩歩くと別のモンスターと遭遇エンカウントするわけだな。やれやれ面倒な道中だ。まぁよい、こいつも我が剣の錆としてくれる!」


 危なげなく勇者【れう゛い】はゴブリンを倒す。


【こ゛ふ゛りん を たおした !

 れう゛い の れへ゛る か゛ 2 にあがった

 たいりよく か゛ 3 あがった

 ちから か゛ 1 あがった

 すは゛やさ か゛ 1 あがった】


「レベルがあがった!これでより強くなったのか。

 このままレベルを積み上げて、ゆくゆくは魔王よりも強くなれということか。

 ほほう、これは面白くなってきた!」


 うきうき気分でコントローラーを操作する。

 しかし。


【きめら か゛ あらわれた !】


「【きめら】!?なるほど別のモンスターか。ハッ、こやつも我の敵ではないだろうさ」


 先程まで倒してきた【ごぶりん】とは別の敵だ。

 とはいえ、これまで難なく勝ち進んできた勇者にとってはそれほど脅威にはならないだろう。

 ひとまず【たたかう】を選択する。のだが……。


【れう゛い の こうけ゛き !

 きめら に 2 の た゛めーし゛

 キメラ の こうげき !

 れう゛い に 8 の た゛めーし゛!】


「 ち ょ っ と ぉ !? え、なんでこいつこんなに強いんだ?次攻撃喰らったら死ぬぞ。ジ、ジン?なんでこんなにこいつ強いんだ?ジン?……ジ、ジンってば!?」

「…………」


 慌てふためく悪魔の姿を冷然と見下ろしながら、ジンは静かに語る。

 その眼には、何か確信めいた怪しい光が宿っていた。


「次のターンだ。コマンドを選べ。もっとも、今はアイテムも持っていないから【たたかう】か【にげる】しか選べないんだがな」

「じゃあ。に……【にげる】」


 震える指でボタンを押す。


【れう゛い は にけ゛られなかつた

 きめら の こうげき !

 れう゛い に 7 の た゛めーし゛!

 れう゛い は しんて゛ しまつた】


【おお ゆうしや よ しんて゛しまうとは なさけない】


「…………」


 レヴィアタンは呆然とした顔で、モニターを眺めることしかできなかった。

 コントローラーを握る手にも力が入らない。

 固まる悪魔に、ジンは冷酷に続ける。


「この世界にモンスターがたった一種族しかいないわけがないだろ。このマップには【ごぶりん】と【きめら】の二種類の敵がいる。

 そして【きめら】は【ごぶりん】よりもはるかにステータスが高い、戦ったらまず勝てない。マップ中、どちらとエンカウントするかは完全なランダムだ。

 【きめら】相手には現状では【にげる】しかないのだが、相手のステータスが高いからコマンドが成功する確率が低い」

「つまり……【きめら】とエンカウントしたら……ほぼ……死」

「そうだ。死んで城で復活する」

「街につくまでに……死んだら」

「城に戻る、街には到着できない。とはいえ、一度でも街に着けばその時点で復活ポイントが移動する。つまり―――」

「街に着きさえすれば、それでいい……でもそれまで、【きめら】に……エンカウントしないことを……ひたすら……祈る」


 それまで、ゲームのストーリーは一切進行しない。


「なんで最初のマップに撃破出来ない敵が現れるんだ?

 な~んでよりにもよって最初のマップに撃破出来ない敵が現れるんだ?」


 悪魔は表情のない声でモニターを見つめながら、うわ言のように呟く。

 その横顔を見ながら、ジンは追い打ちをかけるように言葉を続ける。


「人が哀しみを抱く瞬間の一つ。

 それは『面白いかも、きっと面白いと心の底から純粋に期待したものが、その実なぁ~んにも面白くもなかった』ということに気づかされた時だ。

 その瞬間に受ける精神的ダメージは計り知れない。場合によってはその人の生活や、最悪の場合人格にさえ影響が出るかもしれない」

「…………」

「これはゲームだ。だがその中においても特に酷い出来を誇る『クソのようなゲーム』だ。人はそれを、略して『クソゲー』と呼ぶ!

 そして今あんたがプレイしているそのクソゲーは……俺が作ったものだ!!」

「 汝 か ー ! ! 」


 再び悪魔の絶叫が響く。



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