5-8.遅すぎた救援
「さて、これで今回の目的も終わりか」
そう呟くジンに突如として、エルフ達が飛びかかってきた。
「うおぉーヒューマン!」
「貴方のおかげよ、ありがとう!」
「ちょっ、いや、そんな一斉にしがみつかれると、潰れるぅ……!」
そんな呻き声など聞こえることもなく、大興奮のエルフ達はそのまま彼をもみくちゃにする。
「我々は無事生き延びたんだわ!」
「これはもう宴だ!そこら一帯の集落から残ってる食糧全部かき集めてこい!」
「後のことなんて気にせず騒ぎまくるぞ!」
これまでオークの襲来という恐怖により抑えつけられていた感情が爆発したのだろう。こうなったエルフ達はもう止まらないだろう。
その様子を、呆れながら眺めるへニュ。
「はぁやれやれ、戦いが終わったらこれだよ。
まぁ、殺気でギスギスしているよりかはずっといいけど」
※※※
要塞都市ナルヴァ。
強力なモンスターや他国からの侵略に対して迅速に対応するための要衝となる軍事拠点である。
そこへ遠方にあるエルフの里から突如使者が訪れた。
遥か古にこの世界に現れたという魔物―――オークが再び姿を見せたという報せと共に、都市に衝撃がはしる。
単なる言い伝えでしかないと思われていたものが実際に出現し、猛威を振るう。それは未曾有の事態であると言えた。
エルフは人間とも交友の深い穏やかな種族だ。それが嘘や冗談でこのようなことを報せに来るとは思えなかった。
となれば、その報せの正誤を疑う余地すらない。これは到底看過できない火急の要件である。
ナルヴァは急遽討伐隊を編成し、エルフの救援のために出撃した。
それまではよかったのだが……。
「ようやく森が見えてきたか。あまりにも大所帯を用意しすぎた……」
エルフの森へと到着した時、部隊を率いる隊長の男は苦虫を噛み締めながら呻いた。確実にオークを撃退するために、部隊を大規模にしすぎたのだ。
結果行軍に必要な騎馬等の数が足りず、徒歩で進軍する兵も少なくなった。
そのため足並みを揃えるために行軍速度が遅くなり、森に着くまでにかなりの時間がかかってしまった。
エルフの使者から報せを受けてから三日ほど、彼らがオークによる襲撃を受け使者を出すまでから数えれば、もう十日近くは経っているのではないだろうか。
あまりにも遅すぎる救援だ。これではエルフ達はすでにオークによって全滅させられているのでは。
そんな不安が兵士達の胸中を過る。
「森に入ってすぐ、集落がひとつあるという話だったな。大至急向かおう」
改めて部隊を森に進ませようとした、その時だった。
何か声のようなものが隊長の耳に入ってきた。
「――――……しょい。……しょい」
「……なんだこの声は?」
どうやら森の奥から発せられていると思われる。
かなりの大人数が何かを叫んでいるように聞こえる。
「まさか、オークが集落に押し入っているっ?皆の者、急ぐぞ!」
すぐさま部隊を動かし、一気呵成に森に侵入する。
―――やがてその謎の声の正体が分かった。
「「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」」
集落の中、一人の人間を盛大に胴上げするエルフ達の姿だった。
「…………は?」
唖然とする兵士達。
その姿に胴上げされながら気づいたらしく、宙を舞いながら男が声をあげた。
「あ、おいみんな誰かいる!誰かいるって!人間が助けにきたんじゃないか!?」
「「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」」
「もう胴上げはいいから。お祭り騒ぎももうやめろよ!人が来たって、降ろせ!」
※※※
集落に訪れたナルヴァからの救援隊に、ジンは改めて事の顛末を伝えた。
自分が神の使者であることはさすがに隠しておくものの、《魔界》の門が開きこれから各地で魔物が出現するということも詳らかに話した。
さすがに眉唾ものの話ではあったが、エルフ達からの言質もあり、オークをジンが撃退したということだけは紛れもない事実である。
そうと知った隊長の男は、仮定ではあるもののジンの話を信じてくれたようだ。
彼の持つ能力についても。
「まさか、我々が到着する前にエルフが全滅するどころか、逆にオークを撃退しているとは思わなんだ。
それが出来るだけの実力が貴殿にはあるということは確かなのだろう」
「いやぁ、それほどでも」
言葉だけの謙遜をするジン。
「そして、貴殿の語ったことが事実であるならば、これから我々人間―――いや、この世界に遍く生ける者全てが、戦う覚悟と備えをしなければならん。
かつての伝承における魔物との戦いが再び起ころうとしているのだから。なんとしても抗わねば。
そしてそれに際し、貴殿のその力は必ずや必要となる」
何が言いたいのかは分かる。
これから始まる戦いに協力してくれというのだろう。
だが、それこそジンにとっては望むところというか、それをするためにこの世界に来たのだ。
魔物との戦いに協同してくれる者達がいるというのは、願ったり叶ったりである。
「もちろん、俺に出来ることがあるならぜひやらせてください。
(こっちとしても、早い段階で協力者が増えてくれるのはありがたいし)」
「急なことで申し訳ないが、すぐに我らが要塞都市にご同行を願いたい。今後の方針を決めるためにも、貴殿の持つ情報を共有すべき」
「勿論、すぐに出発します」




