1-4.勇者【れう゛い】の冒険!……は初戦敗退という結果におわりましたとさ
しかたなく、名前については妥協して入力し終わる。
【れう゛い】とかいう間抜けにも程がある名前だが、仕方がない。
【けつてい】にカーソルを合わせて選択すると、画面が大きく変化した。
【ゆうしや れう゛い よ よくきたな】
なにやら妙にカクカクした背景の中、同じく妙にカクカクした三等身ぐらいの人間らしき何かが珍妙な動きをしていた。
ドット絵で描かれた、オブラートに包まずに表現してしまうとはっきり言ってお粗末くんなグラフィックである。
その下方で長方形の吹き出しが表示され、そこに文字が並んでいる。
事前に説明書でストーリーを把握していないと、それが魔物に脅かされている王国の城であることも、今話しているのが国の王でもあることも分からなかったであろう。
とてもではないが現実にあり得る光景とは似ても似つかないチープさだ。
が、悪魔レヴィアタンはさっきまでの何もかも嘲るかのような顔が嘘だったかのように真剣な眼差しで、城内に見えない城内で、王様に見えない王様が語るテキストを読み進めていた。
彼女(?)にとっては、ゲームというもの自体が初めて経験するものなのである。それがとても新鮮なものに見えるだ。
「なるほど、これから北に潜んでいるという魔物を討伐するのだな。そのために近くの街で情報を集めると」
【てつのけん を てにいれた
てつのたて を てにいれた】
「おぉ、武器もくれるのか。まぁそりゃそうよな。国の危機を救う勇者に施しのひとつもしないような国なんぞ勝手に滅べという話だ」
「(たのしそうだなぁ)」
プレイ中のレヴィアタンを傍から見守りながら、ジンが脳内で呟く。
実際に口にすると多分プレイもそっちのけで激怒しそうなのでやめておく。
「さて、では出発とするか」
勇者【れう゛い】を画面下に移動させ、城から出る。
マップが城下町に切り替わった。
「ほぉ~、多くのヒトがいるのだな。さすが城の外、賑やかなものだ。
……そういえば、ヒトの前でAボタンを押せば話ができるとか」
【ゆうしやさま これから しゆつは゜つ するのて゛すね
ふ゛し゛を おいのり しています】
「おぉ~!ははははは見ろ!誰も彼もが我を勇者と呼び讃えている。まったく愉快なものだ」
大はしゃぎの悪魔に操作され、次から次へと街の人々に話かける勇者【れう゛い】。
「(たのしそうだなぁ~)」
「まぁいつまでもこんなところでくっちゃべっているわけにもいくまい。そろそろ出発するか」
街の外に出る。
画面がワールドマップに切り替わった。
「おぉぉ~、広い!さっきまでいた街があんな小さく!これからかくも広大な世界を旅するのか」
などと悪魔は大はしゃぎではあるが、実際のところ粗いドット絵では世界の広大さなどとてもではないが感じられない。
「よし、北というからには画面の上に向かって移動すればいいのだな」
と、勇者【れう゛い】が移動を始めてからほどなくして、突如画面が暗転した。
「な!?な、何事だ!」
【こ゛ふ゛りん か゛ あらわれた !】
「ご、【ごぶりん】!?そうかこやつモンスターだな。ということはこれから戦闘か!えーっとコマンド入力、【たたかう】だ」
【れう゛い の こうけ゛き !
こ゛ふ゛りん に 2 の た゛めーし゛
こ゛ふ゛りん の こうげき !
れう゛い に 4 の た゛めーし゛!】
「こちらのHPが残り6になった。なるほど、これが0になればこちらの敗北。逆に相手のHPが0になればあの忌々しい子鬼めを殺せるということか。
ハッ、現実の切った張ったよりも些か単純よな。この辺りは所詮は遊びか。
このまま続けるぞ」
などともっともらしいことを言っているが、コントローラーを握る手には力がこもる。
【れう゛い の こうけ゛き !
こ゛ふ゛りん に 3 の た゛めーし゛
こ゛ふ゛りん の こうげき !
れう゛い に 4 の た゛めーし゛!】
眼を輝かせながらコントローラーを握っていたレヴィアタン。
しかしあることに気づいた途端、急速にその眼から光が失われていった。
「おい?おいおいおいおい?これちょっと待てよ?今の我のHP 2 だぞ。これ次にあやつの攻撃を受ければ、……我死ぬぞ?え、これはじめての戦闘だぞ?」
恐る恐る【たたかう】コマンドを選択する。
【れう゛い の こうけ゛き !
こ゛ふ゛りん に 3 の た゛めーし゛
こ゛ふ゛りん の こうげき !
れう゛い に 4 の た゛めーし゛!
れう゛い は しんて゛ しまつた】
電子音による物悲しい音楽が鳴り響いた後、画面は例のカクカク王城へと切り替わっていた。
【おお ゆうしや よ しんて゛しまうとは なさけない】
という王の言葉が表示される。
「…………」
悪魔は死んだ眼でゆっくりとジンの方を向き、しばらくその顔を眺めた後、再びゲーム画面に向き直した。
そう思うと、すぐに再び彼の方へと眼を向ける。
眉毛を八の字にして、困惑しきった表情だった。
「え?……へ?」
そのすがりつくような視線に、ジンは仕方なさそうに口を開く。
「あー。本当はあまりこちらからヒントは出したくなかったんだが、仕方ない。……説明書に何か書いてあったと思うんだが?」
「…………」
今しがた眼を通した説明書に記述を思い出す。
そう、ジンの言う通り確かに書いてあった。
『武器と防具は装備しなければ効果がないぞ!』、と。
「なんだよそれーーーー!!」
街に悪魔の絶叫がこだました。