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4-1.偵察任務

第四話です。


舞台は悪しき精霊達に侵略されるエルフの森。

彼らは突如現れた敵から生き残ることが出来るのか...



 深き森の奥で、精霊エルフは静かに暮らしてきた。

 自然と調和し、そこに生きる動植物を狩り、その恵みに日々感謝しながら。

 そんな数千年に渡る穏やかな生活が今、脅かされていた。

 オークの軍勢の侵略によって。


 ―――《オーク》。

 かつて現れた《魔界》の軍勢に影響されて生まれた、破壊と暴力のみを衝動としてのみ活動する悪しき精霊。

 彼らは神の軍勢により魔物達ともども打倒され《魔界》へと封じられた。

 はずだった。

 しかし永き歳月を経た今、オークはこの世界に再び現れた。

 彼らの侵略はそれこそ火の如くだった。

 森の各地に点在していたエルフの集落は次々と陥落し、逃げ延びた者達は別の集落に身を寄せるしかなかった。

 だが、逃げ延びた先の集落にも次々にその魔の手は伸び、エルフ達は為す術もなく逃げ惑いそしてまた別の集落に助けを求める。

 そんなことを幾度となく繰り返す内に、すでに彼らの住処である森のほとんどがオークによって陥落していた。

 もう後はない。今エルフ達は、最後に残ったいくつかの集落にひしめき合うように避難している。

 そこが陥落した時、彼らはことごとく皆殺しにされるのだ。



        ※※※



 へニュ という名の若い女性のエルフが、生い茂る木々の間を駆けていた。

 彼女はオークの襲撃を事前に探るための偵察を行っていた。

 襲撃を知ったところで奴らに勝てる見込みは万一もないのだが、それでも皆が逃げるための準備ぐらいは出来るようになる。大切な役目だ。

 その最中、他のエルフが怪しいものを発見したと報せてきたため、急いでその現場に向かっているところだ。

 彼女が到着したのは、森の外へと繋がる林道だった。

 エルフ達は多少だが人間との交流もある。そのために利用される経路のひとつだ。


 そこに、小さな馬車が一台停まっていた。

 その周囲を、数人のエルフが取り囲んでいる。

 怪しいものと聞いたものだからもしやオークかと思ったのだが、どうやら違うようだ。


「もしかして、人間種ヒューマンレイス?」


 合流したへニュが、仲間のひとりに呼びかける。

 男のエルフが応える。


「そうみたいだ」


 エルフ達は手にした狩猟用の弓に矢を番え、すぐに射ることの出来る状態で警戒している。


「だったらそんな物騒なことしちゃ駄目だよ!ワタシ達を助けにきてくれたのかもしれない」

「ヒューマンの援軍か。そうとも思ったんだが、どうもあの馬車には武器の類は積まれていないようでな。そもそも、戦えるような軍団じゃない。

 馬車に乗っているのはたった二人だけだ」


 改めて馬車の方に眼を向けていると、確かに荷台の横に人影が二つあるのが見えた。

 どうやらそれ以外に馬車に乗っている者はいないようだ。

 一人は困り果てた表情で両手を上げる男性に、もうひとりはいかにも不機嫌そうに腕を組んでいる白髪の女性。

 少なくとも、オークでないことは間違いない。

 だが、二人を囲むエルフ達の表情は険しい。なにせ度重なるオークの襲撃により多大な被害が出ている。

 生き残った者達もすっかり疲れ果てていて、皆疑心暗鬼になっているのだ。目につくもの全てが疑わしいのだろう。


 と、件の男が上げた両手をひらひらと揺らしながら声をあげる。


「ハ、ハァ~イ。みなサン言葉分かりマースか~?」

「失礼な!これ見よがしに片言で言うな、ヒューマンの言葉ぐらい分かる!」


 一人のエルフが言い返すが、それに彼の相方(?)である女性が嘲笑を浮かべた。


「だったらそれ仕舞えよ。我らは汝らに危害を加えるつもりは無いと再三言っておるだろうが。これでは本当に言葉が分かっているのかも怪しいものだな?」

「つ、つくづく失礼な奴らだ!そちらこそ、オークにそそのかされて我々を襲いに来た敵じゃないのか!」

「なんでそうなるんだよ……」


 男が困り果てている。

 これはあまりに険悪すぎる雰囲気だ。

 自分達が戦うべきはオークだ。人間ヒューマンと喧嘩している場合ではない。


「こらこらこらこら!やめなよみんな!」


 慌てて場をなだめに入るへニュ。

 彼女は元来こういうギスギスした雰囲気が苦手だった。

 争いごとなど傍から見ているのも嫌いだ。

 多くのエルフ達が敵への憎悪のために、本来は日々の糧となる生命を狩るための弓を戦いのために取る中、彼女は憎しみや敵意はひとまず抜きにして、自分に出来ることをやろうとこの偵察の役目を負った。

 だが、殺す殺されるというのだけはどうしても苦手だ。

 そんなエルフなのだ。


「す、すみません!ご迷惑をおかけして……こちらこそ、悪気があったわけではないんです」


 二人組の前に出て、深々と頭を下げる。

 それに頭ごなしに怒るようなこともなく、男は落ち着いた様子だ。


「いや、もしかしてこっちこそあんた達に何か迷惑をかけてしまったのかもしれないし、そうだとしたら謝る。

 あんた達、(その長い耳とかからしてもういかにもな見た目だし)エルフだろ?その、不躾なようだが、何かあったのか?」

「それが……」


 男の問いに応えようとするへニュ。

 それを仲間が「いいのか?」と制止しようとするが、そんなものはお構いなしだ。


「遥か昔にこの世界を襲った悪しき精霊オークが、突如として再び現れたのです。

 ほんの数日前のことです、ですがまたたく間に奴らは我々の住処を制圧していきました」

「オーク……悪しき精霊ねぇ」

「我それ知ってるかもしれん」


 女性が話に割って入ってきた。


「そうなのか?」

「うむ。我ら悪mむぐぅ!」


 突然男の手で口元を押さえられる女性。


「 ち が う だ ろ ? あんたは人間!にーんーげーん!OK?」

「(こくこく)……ぶっは!えーっと、むかしむかしわるいやつらがあらわれたとき(棒読み)に、その影響で生じたという精霊だ。いわゆる魔物だな」

「っていうことは……」


 その言葉を聞いた男はそのまましばらく固まった後、今度は興奮した様子でへニュの方をビッと指さしながら大声を上げた。


「きた!きたきた、ドンピシャだ。早くも見つけた!」

「えっ!?……へ??」


 突然のことに困惑するへニュ。

 周りのエルフ達も『こいつら大丈夫か』という顔だ。


「あぁ、失礼。で、失礼ついでに急な申し出になるんだがな。そのオークとやら、俺達になんとかさせてもらえないだろうか?」

「……ほ、本当ですか!?」

「あいつらは俺達にとってもなんとかすべき相手だ。敵の敵は味方、あんたらに協力するよ!」


 これは渡りに船だ。

 なんとこの二人組はエルフと協力してオークと戦ってくれるというのだ。

 しかし。


「(ちょっと頼りない気がするけど大丈夫かなぁ)」


 なんにせよ、ようやくエルフ達は一度警戒を解いて、二人組を集落へと案内することにした。

 男の方は名をジン、女の方はレヴィと名乗った。



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