3-7.これは仕様です。
黄金の持つ力の全てを破壊力に変換した砲弾が放たれ、真っ直ぐに虚空へと吸い込まれていく。
眼を覆うほどの輝きが完全に漆黒の門に飲み込まれた刹那、門の周囲の空間が渦に巻き込まれたかのように歪曲していく。
それはさながら砂漠の中のアリジゴク、宇宙の果てにあるというブラックホールの如くだ。
空気を、景色を、遠く見える空と宇宙の地平線、差し込む太陽の光までも飲み込んで集束し縮小していく空間。
それはやがて、巻き込まれ、押さえ込まれたものを解放するかのように一転して膨張する。
ジン達の眼前で、宇宙創生と見紛う壮大な爆発が発生した。
「すげえええええええええええええええ!!!!」
「すっげええええええええええええええ!!!!」
もうめちゃくちゃだ。まさしくなんでもありではないか。
ゲームの住人を現実に呼び出してしまうとこんなことになるのか。
もしこれを地上で発動してしまったら一体どうなることか。
そう考えるとゾッとする。
ジンの胸中に起こる畏怖の念を知ってから知らずが、黄金の竜(今はもう黄金でもなんでもない見た目になったが)は愉快そうに高笑いをしている。
【フハハハ!フハハハハハハハハハ!!】
しかしまぁ、笑うだけの成果は出た。
爆発の余韻が消え、静けさを取り戻した空の上。
先程までぽっかりと口を開けていた虚空の門は、見る陰もなく消え去っていた。
「やったk……やったな!『やったか』じゃなくてこれは『やった』な!」
変なフラグを立てそうになるのをこらえ、ジンは歓喜する。
世界を歪めるほどの【ファフナー】の力は見事、《魔界》の門にも通用したのだ。目で見える光景が確かならだが、これで門は完全に破壊された。
少なくとも今すぐ《魔界》の連中がここを通ってくることはないだろう。
目的は達成だ。
これにはレヴィアタンも喜んでいる。紛いなりにも自分の故郷に繋がるインフラが断絶されたようなものなんだが、それはいいのだろうか。
「よくやったぞ、【ファフナー】エラい!汝なら出来るって我は信じていたぞ」
座席代わりにしている鱗をペシペシと叩く悪魔だったが、その喜び様に反してジンの顔からはすでに歓喜の色はなくなっていた。
慌てた様子で彼は【ファフナー】に催促する。
「こうしちゃいられん。【ファフナー】、すぐに地上に戻ってくれ!」
その焦燥ぶりを不思議そうに眺めるレヴィアタン。
「えぇ、なんで?
そんなすぐ戻らずに、もう少しこの大破壊の余韻に浸っていようではないか。本来ならば我だって似たようなことをあの地上で繰り広げることが出来ていたのだ」
「あんたやっぱ未練たらたらだな?」
「いや、今のは失言だ忘れろ、全然気にしてないもーん。それに、雲の上から見る景色というのも面白いものではないか。我もうここにしばらく住んでもいいわ」
なんとも呑気な発言である。
「いや気持ちは分かるけどね、そういうわけにもいかないんだよ。実を言うとその、また大事な説明をし忘れていてな。
いやぁ俺ってば物忘れが多くて駄目だね。気をつけないと」
「またかぁ?それは一体……」
「俺の能力は、クリアしたゲーム内のものを現実に召喚することが出来る。
―――んだが、それもそのゲーム内の仕様を踏まえた上で、なんだ。
要するにゲーム内と同じ使い方しか出来ない。消費アイテムは一回使えばなくなるし、強力なバフ魔法なんかもその戦闘が終われば効果が切れる。
そして【黄金竜ファフナー】の仕様は、『攻撃は一回きりで、その後は一度消滅して再召喚が必要になる』というものだったよな」
「………………」
レヴィアタンの表情も少しずつ険しくなる。
ジンの今の発言から鑑みると、
「【ファフナー】は今攻撃を終えた。
となると後はこのまま役目を果たして一旦消滅するだけ……」
消滅。
成層圏に達するほどの高度で、唯一空を飛べる存在の身体が消滅する。
ようやくレヴィアタンは事態の深刻さに気づいた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!まだ消えるな【ファフナー】!!まだ帰るな頑張れ、すぐに地上に戻れ!せめてそこまでやってから帰れ!」
【つくづく注文が多いな貴様は、そこからは初回サービスの対象外だ。努力はするが、途中で消えても文句は言うなよ?】
「ふざけるなァー!この成金の金食いドラゴンが!我がゲーム中でどれだけ汝に貢いだと思っているのだこういう時ぐらいまともに働け!
汝のせいで我のパーティは何人か初期装備のままだったんだぞ!」
「いやそれはリソース管理の出来てないあんたの責任だろう」
「ジンはジンで急に落ち着いて知った風な口聞くな馬鹿ーーーーーー!!」
【いいから戻るぞ。まったく賑やかな攻略者だ】
レヴィアタンの怒号が響く中、役目を終えた黄金竜が地上へと降下していく。
【黄金砲 ラインメタル・フラック】の砲身を展開するのに使った黄金はちゃっかり回収して鱗の金メッキも戻っている辺り、相変わらず金にはがめつい竜である。




