3-6.【黄金砲 ラインメタル・フラック】
指差された方に眼を向ける。
絨毯のように地上を覆う積乱雲の上に、ぽっかりと穴が開いていた。
真っ黒な玉を雪の上に置いたような異質さを感じる何かがあった。
その大きさはそれこそちょっとした門ほどある。人なら数十人と一斉に通ることができそうだ。
空の下から探せば雲に隠れて見えなかっただろうが、成層圏まで上昇した今なら見逃すこともないだろう。
「あれが門か……眼で見て分かるようなもので助かった」
案外簡単に見つけられたのは幸運だった。後はあれをどうにかして完全に閉ざしてしまうだけだが。
【あれを我が力で打ち壊せばよいというわけか。
良かろう、その程度単なる児戯よ!】
「よし、ならば早速破壊せよ【ファフナー】!」
黄金竜と悪魔は早速やる気だ。
が、それをジンが慌てて制止する。
「いや待て待て待て!どうやって破壊するつもりだ」
「どうやってって……」
【そりゃ攻撃するに決まっておろう】
【ファフナー】の持つ叡智の黄金は、文字通り世界を支配するほどの力を持つ。
その力を放出すれば、空間そのものの位相を歪め、物体の存在と非存在の境界を曖昧にするほどだ。
簡単に行ってしまえば、どんなものであろうとこの世に存在するという事実そのものをなかったことにして消し去ってしまえる。
いやはやギャグみたいな話だ。さすがはゲームの中の存在。
99,999,999というカンストダメージも叩き出すはずだ。
そしておそらくレヴィアタンは、そんなとんでもない黄金の力を何の躊躇もなく使おうとしている。
「せめてこの位置は駄目だ!ここからじゃ攻撃が地上にまで届くかもしれない。
万が一のことがあれば大惨事どころの話じゃないぞ、レンビッツの街の人達が全滅する!」
「あ、それもそうか。……あそこのニンゲン全員を倒したとなれば、どれぐらいの経験値になるんだろうな?」
「メタい上にクズみたいな発言をするなァー!!」
「分かってるよ。【ファフナー】、もう少し高度を下げてくれ。攻撃の射線をずらしたい」
【注文の多い召喚者だ。吾輩は本来そんな細かい指示は受け付けんが……まぁ良かろう、今回は初回サービスで言うとおりにしてやる】
【ファフナー】は高度を下げ、雲に浮かぶ虚空へと接近する。
積乱雲のすぐ真上で静止して、門に目線を合わせるような位置に留まった。
雲の上に翼を広げて佇む竜の姿は、まるで山の頂に着地する神の使いか何かのようである。なかなかに荘厳な姿だ。
ジンとしては少し離れたところからこの光景を眺めて写真にでも収めたいところであるが、まぁそんなことをすればそのまま地上へと真っ逆さまにダイビングだろう。
「これなら地表に攻撃が届くこともない。【ファフナー】改めて頼む」
【ようやくか。ならば我が黄金の輝き、とくと見るが良い!】
そう高らかに宣言した、その次の瞬間だった。
竜の全身に纏われていた黄金のメッキが、徐々に剥がれ落ちていく。
陽光を反射するその眩しい輝きが失われ、本来の体色が戻ってくる。黒とも灰とも緑ともつかないくすんだ色だ。
剥がれた黄金はどこへ行ったのか。
その答えは、足元だ。
【ファフナー】の足元に積層していた雲が突如かき消され、霧散していく雲海の中からそれが姿を現した。
黄金に染まった巨大で長大な円筒状の物体。
それは、大砲だ。いかにもファンタジックな容貌の竜に対して、どこか時代錯誤的なデザインをした対空高射砲。
これこそが、【黄金竜ファフナー】の攻撃手段である。
その砲身は竜自身の体躯と同じか、それ以上の大きさだ。
【砲身展開……】
竜は翼を数度バタバタと羽ばたかせ出現した大砲の後方へと移動し、しがみつくようにその身体をぴたりと接触させた。
次いで接触した面から淡い光が灯る。
竜が体内に宿した黄金の力を、この巨砲へと集めているのだ。
ぽっかりと開いた砲口の奥から、じわじわと光が溢れ出してくる。悪竜が抱く黄金の全てを力に還元し、破壊すべき対象へと打ち付けるために。
【目標補足、方位角固定。黄金還元、薬室充填開始。砲弾励起、加圧完了……。
撃鉄は貴様の手にこそ委ねよう。しからば唱えよ、この名。
世界を穿つ黄金に輝く楔の名。その名を―――】
「【ラインメタル・フラック】!!」
竜の言葉に続いて、悪魔が叫ぶ。
次の瞬間、世界の全てが発光した。……ように思えた。




