3-2.魔界への門
「まず、そもそもあんたはどうやって《魔界》からこの世界にやってきた?」
物事は単刀直入に、だ。
ジンがレヴィアタンに対する最初の質問、これこそ最も重要な問題の一つだ。敵が進行してくるルートを把握するというのは。
「門があるのだ」
「『門』……?」
「異なる世界へとつながる門だ。かつて我ら《魔界》の民はその門を通じこの地へと降り立った。ここを我らが新たな領土とするためにな。
だが、憎き神の軍勢は我らを迎え撃ち魔界に押し返した後、門に何らかの封印を施し、閉ざしてしまったのだ。
それにより異界との繋がりは絶たれ、我らの侵略は頓挫することとなった」
「でも、それも完全に閉じたわけではなかったんだ」
再び悪魔がこの地にやってきたということは、つまりはそういうことだ。
「そうだ。門を閉ざす封印は、長い歳月の中で徐々に弱まっていた。それも今や、ほぼ機能していないにも等しい。
魔界ではすでに門は再び開き、異界との繋がりも再生したところだろう」
「だからあんたら悪魔も、かつての野望を再興しようといきり立ってやってきたってことか」
「いや、そういうわけでも?前の侵略などそれこそ大昔のこと、今いる《魔界》の民にとっては前の世代の出来事だ。
詳しいことは我だって知らんし、今更どうでもいいわ。
今話したことも単なる言い伝えだしな」
「なに?」
ここに来て意外な発言だ。
ここまで丁寧に説明しておいて、レヴィアタンは実際のところ事の当事者ではなかったというのだ。
「そ、そうなのか?悪魔でも世代交代するんだなぁ。
っていうかそれなのに神様のこと散々『忌々しい』とか『憎き』とか罵倒してたのかよ。ほぼ無関係の他人同然じゃないか」
「いやだってなんかムカつくではないか」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「それにだな、汝らニンゲンなんてそれこそもう何代も繁殖を繰り返して、当時のことなんか遠い伝承になっているようではないか。
それで勘違いしたアホ共が、《なんたら教会》なんぞ名乗って我らの協力者だとのたまう。悪魔の真の恐ろしさを知らないからあんなことになるんだろうよ」
なるほど、確かにそれを言われるとジンも妙に納得してしまう。
「それもそうか。本当に大昔の出来事だったんだな、百年や二百年の話じゃないぞ。……いや、だとしたらなんでレヴィアタンはこの世界にやってきたんだよ?」
「いやな?偶然異界の門が開いてるのを見かけたもんだから、ちょっとした好奇心で入ってみたのだ。ニンゲン共にちょっかいでも出しにいくかと思ってな」
「ちょっかいで街一つ沈めようとしたのかやっぱ腐っても悪魔だなあんたは!
っていうかその言い分だとこの世界に来たのも初めてだろ。
それであんた『我らは今こそ、この地上へと帰還せり!』とかかっこつけた台詞吐いてたのか……」
つくづく呆れ果てたものだ。
そんなドライブスルーみたいな感覚で大量殺戮されてはたまったものではない。
「まぁそれも過ぎたことだろう。というか痛いとこをつくな汝はっ!」
「なるほど過ぎたことね、はいはい。俺が力を奪ったからもうあんな真似も出来ないだろうしな」
「そうだぞ、よくもやってくれたな!」
「それこそ過ぎたことだろうがよ逆ギレすんな!」
なんにせよ、これで《魔界》の者達の侵入経路というものがある程度把握できた。
異界へとつながる門……。
「レヴィアタンの言い分はひとまず信じるよ。偶然見つけたってこともな。
そうなると今はまだ《魔界》ではこの世界への出入り口が出来たことはおおっぴらには知られていないということか。
けど、楽観視も出来ないな。あんたが気づいたのなら、他の誰かだっていずれは気づく。レヴィアタンが通ったもの以外にも門はいくつもあるだろう。
それらも見つかれば、次第に《魔界》全体に知れ渡ることになる。次から次へと魔物共がこっちに押し寄せてくるぞ」
「そうなるだろうなぁ。なにせ《魔界》の民は基本血気盛んだから、異界に足を踏み入れられると知れば大喜びで喧嘩を売りに来るぞ」
「あんたみたいにな。他人事みたいに言うんじゃないよ……。となると、再び侵略が始まるのはほぼ確実か。それがいつのことかもはっきりとは分からない」
事態は思いの外切迫している。
「俺の目的は、その門とやらをこちらから探し出して、《魔界》の連中が出てくる前にもう一度封印する。
いや、違うな。今度はまた開くこともないように、完膚なきまでに完全に破壊!
なるほど、これは昔の先輩の不始末の後処理だったってわけだ。それならそうと神様も言ってくれればよかったのにさ」
状況は逼迫しているが、レヴィアタンのおかげでやるべきことだけははっきりした。とにかく《魔界》と繋がっているという門を潰す。
「向こうから悪魔が見つけられるということは、この世界でだって目に見える形で存在するはずだ。
っていうかそもそもレヴィアタンが出てきた門だよ、まずはそれを潰そう!」
まだ残っているはずだ。手始めにそれを破壊することにしよう。
ようやく異世界での使命らしくなってきたと気合の入るジンだったが、その意気をレヴィアタンが茶化す。
「いや汝こそ、他人事みたいに言ってるけどなぁ」
「なんだ?」
「我が通ってきた門は空の上だぞ?そこまでどうやって行くんのだ。そんで行ったところでどうやって門を破壊するというのだ。
汝の能力なんて所詮他者にゲームを無理やり遊ばせるだけではないか」
「……」
なるほど、これはレヴィアタンとしては痛いところをついたつもりなのだろう。
しかし。
「そうそう、そう言うと思ったよレヴィアタン!」




