1-2.鍋島 神、異世界に転生する。
※※※
何の変哲もない高校生である鍋島 神は、死んだ。
理由は何だったか本人も忘れたし今更どうでもいいが、とにかく死んだ。
そして死んだ彼の前にはいつの間にやら一人の年老いた男がいて、その男は自らを神と名乗った。神の前に神とはややこしい話である。
「おめでとう。優良健全に人生を終わらせた君は、我ら神の徒として使命を果たす権利を得た!」
その言葉にジンはしばらく固まった後、合点がいったように手のひらに拳をポンッと当てた。
「あー、これよくあるやつ!『神様から能力を貰って異世界に転生』!」
今しがた自分が死んだというのにその事を露とも気にしないジンの態度に若干戸惑いながらも、神は応える。
「お、おぉ、飲み込みが早いようで助かる。まぁそういうわけだ。
実は今、私の管理するとある世界がひょんなことで《魔界》とかいうなんか変なトコロとつながってしまってな。
これからそこを通って魔物共がわんさか出てきてさぁ大変!って状態でな。
そこを君になんとかして欲しいのだ」
突然の申し出でな上に、説明がなんともざっくばらんだ。
が、ジンはその説明で大体の事情は察した。
神は申し訳なさそうに続ける。
「……その、不幸な事故で生命を落としたばかりの君にこんなことを頼むのは酷かもしれんが。神である私は世界に直接関与することができなくてねぇ、こうやって誰かしらの代理者を立てるしかないのだよ。嫌なら断ってくれてもいい」
申し訳なさそうに語る神の頼みを、ジンは二つ返事で即諾した。
「いえ、全然構いませんよ。俺なんかが何か役に立てるっていうなら、是非ともやらせてください」
「えぇ、ちょっとあっさりすぎない?大丈夫なのか?」
「いや、だってそっちも必要なことだから頼んだんでしょう?
引き受けたら引き受けたで急にそんな及び腰になるなんて、折角やる気だしたんだから話の腰折らないでくださいよ~」
「えぇ、私神様なのに何か怒られたんだが。思いの外ドライなんだなぁ今どきの人間って。……いや、しかし助かるよ、ありがとう!
まぁ、私だって何も丸裸の状態でこの使命を任せるつもりはない。
君にはこれからなんでも望むものを一つだけ授けよう。本当に何だっていいぞ?なんせこれから世界を一つ救うのだから、とびきり強力な力が必要だろう」
神はジンに対して、こう提案した。
その言葉に嘘はない。神としては言葉通りどんな力でも授けるつもりだった。
お望みとあらば、異世界を思うがままに生きられるなんでもありな能力だって構わない。
むしろそれぐらいしなければ世界を救うという使命など任せられないのだ。
「よし、それなら―――」
ジンは特に考えることもなく、『何でも』という無限の選択肢の中からそれを選び取った。
「向こうの世界でゲームをプレイできるようにしてください。
俺の世界に存在していた、ありとあらゆるゲームを、自由に!」
「……………………え?」
「ゲームとジャンル付けできるようなものは全て、です。TVゲームもボードゲームもトランプもTRPGも携帯アプリも。
そしてもちろん、『ゲームを作れるゲーム』も。
そしてそれを、向こうの世界の住人もプレイさせられるようにしてください。
人でも獣でも、人語も分からないような魔物でもちゃんとプレイできるように」
「いや、まぁいいけど……本当にそんなことでいいのか?」
これにはさすがに神も訝しげだ。
予想外どころではない要求だ。
世界を救うための力と問われてまさか『ゲーム』とは、一体なんのつもりなのか。だが、ジンは変わらず落ち着いた笑みをその顔に浮かべていた。
「なに、大丈夫です。神様からの使命はちゃんと果たします。今からもう少し具体的な要求を提示しますが、それを聞けば納得してくれるはずです。
……ゲームってのはねぇ、その気になれば世の中ぐらい救えるし、悪魔だって倒せるものなんですよ」