2-5.秘密結社 悪魔教会
ジンとレヴィアタン、そして謎の不審者二人組は路地裏をさらに奥まで進んだ。
行き交う人々で賑わう大通りからもかなり離れ、薄暗い空間には自分達以外には人気は感じられない。
そこまで来たところで、ようやく男はレヴィアタンを解放した。
「なな、汝はァ~!!よくも悪魔である我にこんな狼藉を働いてくれたな~!!」
ぽかぽかぽかぽか。
悪魔は怒りの形相で男を殴打するが、何のダメージもなく殴られている男の方が逆に困惑していた。
というか今、レヴィアタンは『悪魔』と口にしたのだが。
「いやちょっと!?」
思わず声を上げるジン。
せっかく見た目は普通の人間っぽく変えたというのに、自分から悪魔と名乗られては意味がないではないか。
だが、男の方はレヴィアタンの発言にそれほど動揺していない様子である。
悪魔の連続パンチに冗談抜きで何の痛みも感じないので、そのまま無視して本題を切り出してくる。
「改めて、先程の無礼をどうかお許し願いたい」
「(?……もしかしてこいつら、レヴィアタンが悪魔であることを承知でここに連れ込んだのか?)」
「無視するな~~~!!」
ぽかぽかぽかぽか。
お手すきの男(ここは便宜上、男Aと呼称する)がその胡散臭い声で語る。
「我々は貴方様の仲間……いいえ、言うなれば忠実なる部下でございます。
それは、こちらの海魔レヴィアタン様にしても同じ。
我々はかねてより、貴方様にお会いしとうございましたのです!」
「部下、だって?俺とレヴィアタンの?」
これは意外な発言だ。
元々はこの世界の住人ですらないジンの、よりにもよって部下だと言うのだ。
「どういうことだ」
聞き返すジン。
「申し遅れました。我らは秘密結社《悪魔教会》の者です」
「ひ、ひみつけっしゃ!?あくまきょうかいぃ!?」
これまた素っ頓狂な名前が飛び出してきた。
「(あ、これはもう真面目に聞かなくていいヤツだな)」
瞬時に察するジン。
「いいから我を無視するのはやめろ~~~~!!」
ぽかぽかぽかぽか。
「そう、我々は海魔レヴィアタン様を筆頭とする、《魔界》より出し悪魔達―――彼らこそこの世界を統べるべき者だと信じているのです。
かつて悪魔は一度この地上に姿を現し、しかしながら、相対する神の軍勢により退けられた。しかし!決して完全に敗れたわけではないのです。
いつか必ず、再戦のために彼らはこの世界に戻ってくる。
いずれ再びきたる侵略の時のために、我々はささやかながらご助力できるよう準備を整えてまいりました」
「………………」
ジンは口をあんぐりと開けてただ聞くのみだった。
こいつらはおそらく人間だ。それが、悪魔に協力すると言うのだ。
何もかもめちゃくちゃな話だ。男の発言は今や馬耳東風に流れていくばかりだ。
が、その中でも一つ興味深い言葉が出てきた。
「(『神の軍勢』?それが悪魔を一度退けた。そういや自警団の人達もそんな話をしていたな。……『神』ねぇ)」
この部分だけは覚えておいた方が良さそうだ。
が、これ以降の男の発言はもう全てが無意味だろう。
「海魔レヴィアタン様の出現を聞き、ついに我らの悲願を達成する時がきたと確信いたしました。悪魔がこの世界を統べる時がついにきた!と」
「ん?よくよく聞いてみるともしや今我のことを称賛している?」
ようやくぽかぽかをやめた悪魔。
「しかし聞くところによるとレヴィアタン様は何者かに敗北したご様子。その何者かというのが他でもない、貴方様なのです」
「(……そうか。そういうことか)」
それを聞いてようやくジンにも事の真相が分かった。
この《悪魔教会》とやらのターゲットは実際のところジン自身だったのだ。
おそらく誰かからこちらの特徴を聞き出し、街中を探りまわっていた。
そうして、特徴と合致する人影を見つけたので接触を試みたのだろう。
レヴィアタンのことを悪魔と知っていたのも、おそらくはジンが倒した悪魔を引き連れているとでも仮定していたからだ。
だから実際のところ、あの男達はレヴィアタンの本当の姿も知らない。
あくまで憶測、ただ当てずっぽうで判断していただけだ。
「(やれやれ、これで人違いだったらどうするつもりだったんだ)」
ただの憶測で、行きずりの人に刃物を突き立てたのだ。
とんでもない連中だ。
呆れ果てるジンを余所に、男Aは言葉を続ける。
「悪魔とすら渡り合うほどの強大な力。それもまた世界を統べるにふさわしいと、我々はそう判断いたしました。だからこそどうかお願いいたします。
我々と共に、この世の全てを破壊しつくし、地上に覇を唱えてくださいませ!
愚かな人間達を、貴方様と、そして海魔レヴィアタン様を始めとする悪魔の手によって支配するのです!」
「 や だ よ ! 」
即答するジン。
「よし、まずあんたらの本当の目的を教えてやろう。あんたらは、今の内に悪魔に媚を売って自分達だけ見逃してもらおうと思ってるんだろ。
そんで他の罪のない人々が悪魔に侵略されて支配されている間、自分達だけ美味い汁を啜って悠々自適な生活を送るって魂胆だ。違うか?
どうせあわよくば自分達も人間を支配する側に回れればいいな~、とか思ってるんだろ」
「そ、そそそそそ、そのようなことはございません!」
哀しくなるほど誤魔化しが下手だ。完全に図星なようである。
「そもそもなぁ、悪魔がそんな情をあんたら人間にかけてくれるわけないだろう。
どうだ、レヴィアタン?こいつらがあんたと一緒に世界を滅ぼすと言ってるが、どうする?」
「 は ? ニンゲンごときが、我ら悪魔に対し一体どんな助力ができるというのだ?他の連中と一緒に殺すに決まってるだろ何馬鹿なこと言ってんだ」
「そんな……!」
男達が愕然とする。
ジンとしては、何を今更当たり前のことでびっくりしたんだかといった気分だ。
「概ねあんたらは、まともに働かずに盗みやら詐欺やらで他人に迷惑かけて生きてる爪弾き者だろ。それがクソみたいにくだらん破滅思想を持って暴れてるだけだ。
いや~よくいるよねこういう言ってることはデカいけど実際の行動がなぁ~んにも噛み合ってないヤツ!」
呆れ返って肩を竦めるジン。
図星に図星を重ねられ、男達は怒りに歯を食いしばる。
「違う。我らはただ、この腐りきった世界を悪魔の手によって変えなければと!」
逆上した二人組の片割れ(男Bと呼ぶ)が再びレヴィアタンの身体を拘束し、その喉元にナイフを突きつけた。
「ひぇ~~!」
今度は口を押さえられず、情けない悲鳴をあげる悪魔。
「何をされたのかは知らないがこの悪魔、ろくな力がない。抵抗しても全然弱い、
これならひと刺しで殺せる。実は悪魔なんてのはただの自称で嘘っぱちなんじゃないのか?こんな奴らもうさっさと消してしまおう」
男Bの提案に、男Aも頷く。
「……そうしましょうかねぇ。こいつらはハズレです、次の悪魔を探しましょう」
今度は男Aもナイフを取り出した。
ギラリと光る銀色の刃が、まっすぐにジンの方へと向く。
「どうやら交渉は決裂のようですねぇ。非常に心苦しいのですが、貴方様にはここで人知れず生ゴミとなって腐り果てていただくしかなさそうです」
ようやく本性を表してくれたか。
いや、ろくでなしの本性など、脅しで交渉をしようなどというその時点でお見通しなのだが。
そして今更何をしようとしたところで、もう何もかもが遅い。
というかこの男達、ジンが悪魔を打ち負かしたということを承知のはずだ。
それでよくこうも考えなしな行動ができるものだ。
逆に感心するジンであった。
「はいそうですかそれではお二人にはこれをプレイしていただきます!!」




