2-4.路地裏へのいざない
やがて光が消え失せ、悪魔レヴィアタンの姿は先程までとは大きく変貌していた。
真っ白な肌には血の気がめぐり、瞳に揺らめいていた光も消え失せた。
自らの手のひらを眺めながら、悪魔は思わず声をあげる。
「おぉ~!本当に肌の色が変わった!すごいぞ、悪魔でなくなったみたいだ」
実際今の彼女は見た目の上ではほぼ悪魔ではなくなっていた。
少し色白なだけで、どこにでもいそうなありふれた人間だ。
当人にとってはそれもそれで屈辱的な状況なはずだが、どうも今のレヴィアタンはそんなことは気にしていない様子。
「これでもう、この街の人間もあんたが悪魔だってことには気づかないだろう。
一安心だな!」
「それなら早く摂食をしにいこう。我は楽しみだぞ!」
先程まで腹が空くという現実に文句を垂れていたというのに、今となってはこれだ。
急かしてくる彼女を連れ、ジンは宿屋を出た。
※※※
特筆するようなこともなく、食事は終わった。
何かあったとすれば、レヴィアタンがいちいち大声を上げながら出された料理をひたすら貪り食う姿が周りの注目を浴び、どうにも気恥ずかしかった程度だ。
食事も終え、レンビッツの街の通りをご機嫌な悪魔を連れて歩く。
「いやぁ~摂食っていいものだな。ニンゲン共は毎日こんな思いをしているのか?存外腹も減ってみるものだな」
「喜んで貰ったみたいでなによりだよ」
レヴィアタンはすっかり、自分がつい昨日まで何をしようとしていたのかすら忘れている様子だ。
もしかして自分が悪魔であるということすら忘却の彼方にでも消え失せてしまったのだろうか?
が、ジンとしてはそうなってもらってはよくない。
彼は他ならぬ悪魔としての彼女に聞かなければならないことを思い出した。
正しくは忘れていたわけではないのだが、レヴィアタンを大人しくさせることを優先して今まで話を切り出すことができないでいた。
「なぁ、実を言うとあんたにいくつか質問したいことがあるんだ」
隣を歩く彼女にそう呼びかける。
が、返事がない。
「ねぇ?質問したいことがあるんだけど?」
彼女がいるはずの方向に眼を向けてみるが、そこには誰もいなかった。
ついさっきまで初めて経験する食事に感動していたはずの悪魔の姿が、こつ然と消えてしまっていた。
「あ、あれ」
慌てて周囲を見渡してみるが、やはりどこにもいない。
何かの拍子にはぐれてしまったのか?
だとしたらこのままだと面倒なことになりそうだ。すぐに来た道を戻り、彼女を探そうとする。
もっとも、『面倒なこと』はもうすでに起こっているのだが。
通りの一角、狭い路地裏に続く入り口から何者かがこちらを見ていることにジンは気づいた。
互いの視線が合った後、その何者かは意味深に眼を細め、すぐに路地の奥へと引っ込んでしまう。
偶然目が合ったようには思えない。明らかに何かある。
ジンは咄嗟に何者かが消えた路地の方へと駆け込んでいった。
「なんだあいつ……?」
そこには、件の何者かに加えもう一人人影があった。両方共男のようだ。
そしてその内の一人は、レヴィアタンの口元を押さえつつ、彼女を羽交い締めにしながら路地の奥へと連れ込もうとしている。
彼女は必死に振りほどこうとじたばた手足を揺らしているが、哀しいかな、力を失った今の彼女ではそれも全く叶わない。
明らかに、こいつらはまともなヤツではないと分かった。
「な、何を―――」
思わず声をあげそうになる。
が、その瞬間、レヴィアタンの首筋に小さなナイフの刃が突きつけられた。
声を出したりして周りの通行人に気づかれれば、その時点で彼女は殺す。そんな無言の脅しが聞こえてくる。
「んぐ……っ!」
咄嗟に口を塞ぐジン。
それを見て、もう片方のお手すきの男が静かな声で呼びかけてきた。
「突然の無礼をお許し願いたい。我々は何も貴方様に危害を加えようというつもりはないのです」
どうにも胡散臭い声だ。
「(いや、これが危害じゃないとかいろいろ大丈夫かこいつら?)」
「どうか我々にご同行して頂きたい」
ここで断ると、それこそレヴィアタンが何をされるか分かったものではない。
責任を持って面倒を見ると宣言した手前、彼女を危険に晒すわけにはいかない。
今は大人しく連中の言うことを聞いておくのが懸命な判断のようだ。
「分かったよ、あんたらについていく」
とはいえこの男達には、こんな犯罪行為をされた時点で容赦するつもりはない。
ちょっとした親切心で話ぐらいは聞いてやる。
だが、もしレヴィアタンに突き立てられているナイフがもう少しでも彼女の首元に近づきでもしたら、その瞬間には奴らの前には例のアレが姿を現すことになるだろう。
クソゲーがある限り、事態の主導権は常にジンが握っているのだ。




