2-3.きせかえアプリでなりたい自分になろう!
「この顔を見てみろ!こんな容姿ではニンゲンの社会に溶け込めるわけがないとさっきから再三言っているではないか、まずこれをなんとかしてくれ!」
そこには、血の気を感じさせない真っ白な肌と、淡く発光する金の瞳があった。こんな姿をしている人間などどこにもいない。
人目につけば即座にに怪しまれる。
この宿屋に入る時だって必死に隠れながらだったのだ。
能力リセットをされた今では、自分が悪魔だと知られるのはレヴィアタンにとって死活問題である。
なにせ今となっては人間に襲われれば普通に負ける状態なのだから。
悪魔からの悲痛な要求だが、ジンはあくまで冷静だ。
「それについても心配は無用。ちょっと見てくれ」
そう言って彼は、懐から小さな板を一枚取り出してみせた。
ゲーム画面を映す液晶モニターを、さらに小さくしたような見た目だ。
いわゆるスマートフォン、薄型の携帯電話である。
「ん?これも、ゲームなのか?」
「まぁな。でも今回のゲームは別に世界を救ったりするものじゃない。これは……着せ替えアプリだ!正直ゲームと言い切っていいか微妙なところだが」
「きせ、かえ?あぷり?」
「そうだ。自分の分身とも呼べるアバターをゲーム上に作って、その容姿を自由に作り変える。なりたい自分になれる、男が女にだってなれるのさ」
「へぇ~」
「このアプリはユーザーが自分の顔を撮影してアプリ内に取り込むこともできる。今回はそれを活用しよう。……はいチーズ!」
突然スマホをレヴィアタンの方に向けるジン。
と同時に、パシャリという小さな男が鳴った。スマホに内蔵されているカメラを使ったのだ。
そうして、改めて画面を悪魔の方へと向ける。
そこに映っているのは……。
「おぉ~!ちっちゃい我がいる!」
三等身ほどにディフォルメされたレヴィアタンの姿だった。
「これがアバターだ」
画面を興味深そうに眺めるレヴィアタンだったが、不意に真顔に変わる。
「なぁ……これに何の意味があるのだ?こんなクソと言うとクソに失礼なレベルにクソどうでもいいことをしろと、どこの誰が言った?」
「辛辣ゥ!まぁ最後まで聞け。これからは俺の能力の説明、その2だ」
「汝の?あの忌々しい能力か……聞きたくないのだが」
「 い い か ら !
俺の能力は何も、相手の力を奪ってリセットするだけじゃないんだ。他者から奪うだけの人生なんて虚しいだけだからな。実を言うと、その逆もできる」
「逆だと?」
「ゲームをクリアした者には、そのゲーム中に実装されているものの中から、任意のものを現実に召喚して与えることができるのだ!」
「現実に召喚、というと……そうか!」
少し考えてから、レヴィアタンもジンのやろうとしていることに合点がいったようだ。
「このアプリでアバターの容姿を変えて、それを現実のあんたに反映させる。
そうすれば、そのいかにも悪魔っぽい見た目も変えられる。人目についても怪しまれることもなくなるだろう」
「なるほど!……いやしかし、『ゲームをクリアしたら』と言ったよな?その着せ替えアプリとやらはどうすればクリアできるのだ?」
「明確なクリア条件は、ない」
「ないの!?じゃあ無理ではないか!」
「そうじゃない。ゲームっていうのはな?遊んで楽しむことが第一条件なんだよ。
さっきプレイしたRPGなら、ストーリーを完遂すること。そしてこの着せ替えアプリなら、アバターの容姿を変えることそのものが目的なのさ。
つまり、一度でも実際にアバターを変えてしまえば、その時点でゲームはクリアしたも同然ってわけだねぇ!」
遊んだその時点でゲームクリア、というわけである。
説明するジンとしても我ながら結構な屁理屈だ。
「んなめちゃくちゃな……それがまかり通るなら最早なんでもありではないか」
「そうだよ。ゲームってのはなんでもありなんだ。だから悪魔の精神まで摩耗させられるようなクソゲーだって作れるんだよ」
「うぅわ説得力が半端ない……」
とにかく、解決策があるというのは確かなことだ。
ジンは手にしたスマホをひょいとレヴィアタンに手渡した。
「ほら、早速始めるぞ。あんた自身でゲームを操作しなきゃ、あんたがクリアしたことにはならないからな」
「わ、分かった。えーっとコントローラーがないんだがどうやって操作すればいい」
「指で直接押すんだよ」
「ほぇ~っ、いろいろあるんだなぁゲームにも」
「まぁな。……とはいえ、そこまで複雑に見た目を弄る必要もないだろう。初期状態では使えるパーツも少ないからなぁ、増やそうと思ったら課金が必要になる」
「かきん?……って、何だ?」
「あんたは何も知らなくていい!!」
急に鬼気迫る表情で声を荒げるジン。
これにはレヴィアタンも思わずたじろぐ。
「ひぇっ!ニンゲンのする顔かそれ!?」
「あぁ、悪い、忘れてくれ。とはいえ初期状態でも、肌の色程度ならある程度幅がある。それだけでも十分普通の人に見えるようになるだろう」
気を取り直して操作に戻る。
スマホの画面をつんつんと押すレヴィアタン。
「ということは、【肌の色】を選択して……なんかいっぱい出てきたな。はは、緑色とかある!ははははなんだこれ!」
「興味があるなら選んでみれば?」
「選ぶわけがないだろうが本来の目的を忘れるな馬鹿め」
「…………(ちょっとした冗談だったのに)」
「とりあえず、この辺の色でいいだろう」
レヴィアタンが選択したのは、比較的薄めの肌色だった。
「ちょっとまだ色白だな。でもいいと思うよかわいいよ」
「かわいいとか言うな。……次は、眼だな」
「きらきらの【発光エフェクト】が付いてるから、それを外そう。それだけでも充分なはずだ」
「こうだな」
「よし。これで後は、【設定完了】をタップして、そのアセットを現実のあんたにも適応しよう」
「よし、【設定完了】!」
画面をタップする。
次の瞬間、レヴィアタンの身体が光に包まれた。
思わず驚嘆する悪魔。
「眩しい!自分が眩しい!」
「(重度のナルシストみたいなこと言ってる)」




