2-2.『このゲームは、貴方の価値観を完膚なきまでに破壊する』 ~某大手レビューサイトより抜粋
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昼下がりのレンビッツ。
ジンが宿泊する宿の一室にて、悪魔の悲痛な声があがる。
「そんな……我は、我はこんな哀しい男をこれから敵として倒さなければならんのか」
部屋の隅に置かれたモニターを食い入るように眺める悪魔レヴィアタン。
彼女は今、先程とは別のゲームをプレイしている最中だった。
―――次世代機による現実と見紛うグラフィック。
仲間となるキャラクターすべてに独自の強みがあり、組み合わせ次第で千差万別な戦法を編み出せる緻密なゲームバランス。
そしてなにより重厚なストーリー展開。
ジンが元いた世界において、全世界800万本の売上を達成した怪物級の超名作ゲームだ。
『次世代ハードに移行するにつれソフトの開発費が高騰し、現代はゲームを作ることそのものが困難な時代へと突入した。
そんな中で、これだけの作品を生み出す情熱が業界に残っているという事実は、我々ユーザーにとってはこの上ない希望である。
ゲームにはまだ未来があると、そう気づかせてくれたのだ』
~某大手レビューサイトより抜粋
そんな名作を、悪魔レヴィアタンは今プレイしていた。
今はちょうど序盤の山場、最初のボスとも呼べる強敵と対峙している場面である。
だがその敵には、想像を絶するような哀しい過去があったのだ。
「だ、だが、こいつを倒さなければ世界は滅びることになる。我が背中には、多くの無辜なる人々の生命が背負われているのだ。
……よかろう、我は戦うぞ!」
戦う覚悟を決めるレヴィアタン。
しかしその決意を嘲笑うかのように、画面上に二つの選択肢が表示された。
【戦う】
【戦わない】
「嘘だろぉ!?ここに来て選択肢なんて……戦わなくてもいいというのか!?
いや、駄目だ。この男とて多くの人を殺した。ここで戦いを放棄すれば、殺された者達の無念はどうなる!そうだ、これは戦争なのだ。
相手がどんな者であろうと、どんな人生を歩み、今どこかの誰かを愛していようと、戦わないという選択肢などない!」
《【戦う】》
【戦わない】
他の道を選ぶことも出来るかも知れない。
そんな期待を噛み殺しながらカーソルを合わせ、決定する。
次の瞬間、画面が暗転しボス戦に突入した。
物悲しくも勇壮なフルオーケストラサウンドが鳴り響く。
「ああああああ~~~~~!!ボス戦の曲かっこいい~~!
やめてくれよこんなの泣く~~~!」
※※※
それから、またしばらくの時間が経った。
宿屋の一室。ベッドを椅子代わりにしてコントローラーを握りしめるレヴィアタンは、半ば放心状態になっていた。
あれからさらにゲームは進み、彼女は多くの敵をその手にかけてきた。
「……ジン」
彼女の呼びかけに、悪魔がゲームをプレイするのを外の市場から買ってきた果物やら腸詰め肉を焼いたものやらをおやつ代わりに貪りながら観戦していた男が返事する。
「もぐもぐ。なんだ?もぐもぐ、美味いなこの街の食べ物、さすが農耕地だ」
「我は本当に、このまま世界を救っていいのだろうか?多くの生命を救うために、それ以上に多くの生命を殺めてきた。本当にそれでいいのだろうか?」
たかがゲームに何を真剣に……などとは言わない。
優れた創作、優れたゲームのストーリーというのは、現実の物事と同じように人の心を打つものだ。
「さぁな。
だが、世の中はそういうものだ。個人個人の独善で他者の幸福に優劣をつけて、それに自分の中で折り合いをつけていくしかない。それが生きるってことだ。
俺はこのゲームをプレイしてそんな感想を抱いた」
「そうか……我にも、そうやって割り切ることが出来るのだろうか」
そう呟くレヴィアタンの眼に涙が滲む。
『鬼の目にも~』ならぬ悪魔の目にも涙か。
「どうだろうな。どうもあんたは少し疲れたらしい。長時間のプレイは身体に悪いぞ、ストーリーはまだ途中だがちょっと休憩でもしてみるか?
ほら、窓を見てみろ」
「うわぁ……朝焼けだぁ。もしかして夜を明かすまでずっとプレイしていたのか?完全に時間を忘れていた。っていうかなんか身体が重い、もしやこれが空腹?」
レヴィアタンがげっそりとした様子で腹部を押さえる。
彼女はかなり長い間ゲームをプレイしていた。
先程クソゲーを遊ばされた分も合わせれば、そのプレイ時間は半日を優に超えている。
精神的な高揚感とは別として、さすがに肉体的な疲労が蓄積している。
「おのれぇ~、本来ならば我は摂食などする必要はないというのに、汝が能力リセットなんぞするから……責任を取れ!
っていうか汝だけ何を食っているのだ羨ましい!」
「もぐもぐ、また『責任を取れ』かぁ。分かったよ、そんなら今から改めて飯でも食いに行くか。この宿の近くにいい食堂があるんだよ、一緒に行こう」
「よし、連れて行け」
早速彼の言う食堂に馳せ参じようと、ベッドから腰を上げるレヴィアタン。
だが。
「いやちょっと待てぇー!これだよこれ!」
思い出したように叫び声を上げながら、自分の顔を指差してジンに詰め寄る。




