カイタン大公
あの若神官とあってからもう7年が経ったのか...。あいつ、仲間にするとかなんとか言っていたが、結局のところあの日以来一度も会っていない。
この7年で俺は官僚の頂点と言われる宰相府国務官になった。この国には内政は内政府、外交等は外政府が担当していて、そのさらに上にあるのがここ宰相府である。皇帝の直属の機関で、宰相府のトップに君臨するのが大宰相。帝国のNo.2である。そして宰相府での事務や連絡を担当するのが俺たち国務官だ。
今日もいつもどおり大門をくぐり、巨大な壁で囲まれた帝丘へと入る。丘の頂上には宮殿があり、その周りに中央官庁が配置されている。俺は宮殿のすぐ側にある宰相府の建物に入った。
「よおガーソン、今日は大仕事になるぞ」
話しかけてきたのは同じ国務官のヨリトだ。
「ああ。たしかどっかの皇族が皇帝陛下と話がしたいとかなんとかいうやつか?」
「おい、お前他人事みたいに言ってるけどな、その皇族はカイタン大公なんだぞ。しかも今回の担当者はおれたちだ」
「カ、カイタン大公!?そんなこと聞いてねえぞ!」
カイタン大公は前代皇帝の甥にあたる超有力者だ。たしか、もし父親が生きていたら今頃は皇太子だったらしい。
「おれもさっき聞いたばっかりだ。陛下と謁見する前にまず俺たちが大公と話をする予定になっている。場所は宮殿の大控え室だ。」
ヨリトとともに国務官の正装をし、大控え室で待機した。控え室のくせに天井がばかみたいに高かった。
「ガーソン、前代皇帝のこと覚えてるか?」
「ああ。五代皇帝のことだろ」
五代皇帝は生まれた頃から病弱だった。それを利用したのが皇帝宣命局長(皇帝の最高命令を発行する役)のテンルだ。テンルは自らの立場を利用し自分のほしいままに政治を支配した。それに反発しテンルを失脚させたのが今の皇帝タニスダである。その後間もなく五代皇帝は死去し、タニスダが即位した。
「テンルのことがあってから陛下とカイタンはそうとう対立しているらしい。何が起こるか分からないから気をつけろ」
ヨリトはそっちの事情にはかなり詳しい。
「もしなにか無礼でもあったらその場で打ち首もあるかもな」
「おいおい、冗談はよしてくれ」
やつがしょうもないことを言った直後、ノックの音が聞こえた。
「大公様のお出ましです」
「きた」
二人の間に緊張が走る。そしてすぐに扉に向かって大きく頭を下げた。
この国では貴いお方の前では相手に許されるまで頭を上げて顔を合わせることができない決まりとなっている。
扉が開く音がした。そして大公が入ってくる足音。
「まあまあ、二人とも、頭をあげてくれ」
ん?どっかで聞いたことあるような声だ。
顔を上げるとそこにはやはり見たことあるような顔が... あれ?
おい...まさか...嘘だろ!?
「あ、あなたは!」
向こうも気づいたらしい
「あっ!」
こんなことってあるのかよ!
そう。そこにいたのは7年前に会ったあの若い神官だった。
歴代皇帝一族はざっとこのようになっています。
大教祖
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初代皇帝
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二代皇帝
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三代皇帝 四代皇帝
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現皇帝タニスダ カイタンの父 五代皇帝
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皇太子ナルハコ カイタン大公
ヨリト:上府国務官
タニスダ:現皇帝
カイタン大公:前代皇帝の甥で有力皇族