第一話『ひたすらに草むしり』
美しき女神様のおかげで、俺の第2の人生は、始まりから終わりを迎えていた。
女神様が俺の記憶に差し込んでくれた知識によれば、この世界の名は『アスール』というらしい。
この世界を生き抜くために、俺が与えられた力は一つ。『草むしり』というスキルだけだった。
最初は目を疑った。
この世界では、自身の力を示すステータスを意識の切り替えで、可視化することが出来るようだ。
そして俺のステータスのスキル欄にはひとこと、『草むしり』と書いてあるのだ……。
スキルの説明欄によれば、とにかく草をむしれば、経験値のようなものが貯まり、自身のレベルが上がるようだ。
こんな地味なスキルがあって良いのか?
俺の知ってるファンタジー小説やゲームでは、もっと派手で最強チックな力を手にするのが定番なのだが……。
女神様から与えられた知識によれば、この世界には魔物が存在するようだ。そんな世界を生き残るための生命線が草むしり……。
しかし、もとを正せば俺が、女神様の魅力について、深い追求を続けていたせいで、話をろくに聞かなかったことが現在の状況を生んだともいえる。
何事も物は試しだ、今はひとまず、このスキルを使ってみよう。
この世界で、俺が意識を覚ましたのがちょうど、町の近くの草原だったので、とりあえず草をむしってみる。
「……」
予想を遥かに上回る地味さだ。
ただの雑草をひたすらに引き抜く俺。
そうして、15分近くがたった頃、トランペットによるファンファーレが脳内に響いた。
与えられた知識によれば、これは、自身がレベルアップした時の音だったはず。
心なしか、先ほどよりも身体が軽くなった気がする。
あれ? なんか、この地道な感じ、案外嫌いじゃないぞ。
もとの世界での俺は、地道な作業が嫌いではなかった。
この地道だが、確実に成果が見える作業が癖になり、朝日の光が、夕陽に変わるまで、ひたすらに草をむしった。
レベルアップには2種類あり、力や体力など総合的な力を表すレベルと、スキルの熟練度を示す、スキルレベルがあるようだ。スキルのレベルが上昇する際には、鈴の音のような静かな音が脳内に響く。
身の回りの雑草をあらかた引き抜いた俺のレベルは、総合レベルが5になっており、スキルレベルは3に上がっていた。
これがどれ程の成果なのかはわからないが、先ほどよりも身体に力が溢れているのを感じる。
スキルレベルの上昇のおかげか、後半に引き抜いた雑草の中には、体力を小回復するという効果が付与された雑草が混じっていた。
俺はそれを女神様がくれたのであろう、小さな麻袋にしまった。
もう時間帯も夜に差し掛かってきている、今日は近くの町の宿屋に泊まるとしよう。
宿屋に泊まるお金は、先ほど摘んできた雑草の中に、いくらかお金に変わるものがあったので、それを売ったお金と、女神様から貰った支度金の中から払った。