プロローグ
スキル名『草むしり』
植物を採取するたびに経験値が貯まる。
スキルレベルに応じて、採取した植物に特殊効果が付与される。
これが、異世界に飛ばされた俺に与えられた、唯一のスキルである……。
ことの発端は山の日だ。
山の日とは、山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝することを目的に制定された、比較的新しい祝日である。
そんな新たな祝日を楽しむべく俺は、近所の登りやすい山へと向かったのだ。
そして俺は山菜採りのついでに山道に生えた雑草を摘みとっていた時に死んだ……。
なんで死んだかって?
山にいたスズメバチに刺されたからさ。
アナフィラキーショックによる呼吸困難で死んだようだ……。
* * *
意識がとぎれ、再び目覚めた時には、一面真っ白な空間に、黒いイスだけが置かれた空間にいた……。
そこで、30分ほどの時間が過ぎた頃だろうか、俺の前に絶世の美女が現れた。
「お待たせしました。今日は随分と死者が多いものでして。私は日本の死者を担当する女神の、テミスと申します。貴方は、草刈傑さんで間違いないですか?」
「あ、はい……」
気の抜けた返事をしてしまった……。
それも仕方がないだろう。目の前の女神様があまりにも美し過ぎるのである。
その瞳はエメラルドで出来ているかのように美しい緑色に輝いており、肩まで流れる金色の髪は、あらゆる輝きを閉じ込めたかのように美しく煌めいていた。
「えっと、スグルさんの死因は山で雑草を刈っている際に、ハチに刺されて死んだということで間違いないですね?」
「多分、そうです……」
女神様のお声はまるで、ハープの調べのように穏やかなものであった。正直このお声を拝聴する為に死んだのかな? と自身の死を前向きにとらえる程である。俺の返事も自然と惚けたものになる。
「あのですね、天界の規定により、善行を積んでいる際に死んでしまった、20歳以下の人間には、死んでしまった世界以外の世界で、生き返るという選択肢が与えられています。もちろん、そのまま天国行きも選べます」
「あ、じゃあ生き返る方向で」
女神様のあまりに立派な胸部に、人間が持つ知的探究心が刺激され、話の内容などは全く入ってこず、適当な返事をする俺。
「では、この中から、お好きな世界をお選び下さい」
そう言って、女神様は様々な異世界が紹介されているパンフレットを見せてくれた。
しかし、女神様のあまりにも扇情的な、おみ足が、学術的観点から気になりはじめていた俺は、もうそれどころではない。
「あ、じゃあ、これで」
適当に生き返る世界を選ぶ俺。なんか、魔法とか書いてあるし、楽しいでしょ。
「では、その世界ですと、一つスキルを身につけて生き返ることが出来ます。条件としては、自身の死因にまつわるスキルになるのですが、スグルさんの場合ですと、状態異常の完全無効化や、全ての攻撃に一撃必殺の毒を付与するスキルなどがありますね」
そう言って、スキルに関する小冊子をくれる女神様。
やべぇ、冊子もらう時に指が触れ合った。
やわらけぇ……。
「あ、スキルですよね? これでいいです」
そう言って、冊子の中から適当なものを指差した。
「え? 本当にそれでいいんですか?」
それでいいどころの話ではない、こちらはそれどころじゃないのだ。女神様の金色に輝く、美しくも滑らかな髪が時折左右に揺れる際に、一瞬だけ顔を覗かせるうなじが、泡沫の夢のごとく、現れては消え、現れては消えるので、もはや、俺は気が気ではないのだ。
「ありがとうございます」
とりあえず、色々な意味を込めて、感謝の意を示しておいた。
「向こうの世界での必要な知識は、ある程度記憶に入れておきますので、安心して下さい。で、では、よき人生を送れるよう、祈っております」
その女神様の言葉を合図に、また俺の意識が途絶えた。
世界で唯一のフィロソファーという連載もやっております。よろしければ、そちらもどうぞ。