現実は夢の隙間
夢を見た……。
真っ暗な空間のような中を、
たった一人漂う夢を。
正確に言うと、
その不安感と絶望感を、
感じた瞬間に目が覚める……、
という夢を見た。
……と、いう夢を見て、
目が覚めた後に
「はぁ、夢か……。」
と、安堵する夢を見た。
その安堵の後に、
目が覚めるという夢を見た。
……後に目が覚める、
夢を見た。
……という夢を見た。
という夢を……。
という夢を見た。
という夢を……。
そのうち目覚めた時に、
「これもまだ夢の続きではないだろうか?」と思い、目を閉じると……、
はっ……と目が覚め、
「やっぱり夢だった。」と思う。
これすらどうせまた夢の続きだろう
と疑っていると、
やはりふと目が覚める。
いちいち
「はっ……」とするのだ。
しばらく呆然としながら、
瞬きを繰り返す。
「目が覚めた。やはり全部夢か……。」
そう思い、また目が覚める。
「はっ……。」とする。
どうせまた夢だろうと思いながらも、トイレに行きたくなる。
しばらく我慢していると、
……また目が覚める。
が、トイレにはやはり行きたい。
ので……、
「どうせ夢だろう。」と疑い、
「ならここでしてしまえ。」
と開き直る。
冷たい感覚が、
下半身に伝わるリアル。
「あっ、しまった!」と思った瞬間、
また目が覚める。
目が覚めた時、
そこにあるのは紛れもなく
“現実感”という奴だ。
夢から覚めた時に、
「夢だった。」
と感じる感覚が
現実を気付かせてくれる。
なんとなく、
嫌な夢を見たという
そんな感覚を感じながらも、
ベッドから抜け出し日常に入る。
するとまた目が覚めるのだ。
「はっ、夢か……。」
先程までの“リアル”は、記憶の中に溶けて行く。
しかし少しづつ、
夢から夢へ、
目覚めてからの時間が
長くなって行くのがわかる。
次第に、夢の延長なのか、
それとも本当に目が覚めているのかがわからなくなって行く感覚を覚える。
ある時は、朝食中に目が覚めた。
仕事で契約が取れた瞬間に目が覚めた。
久し振りに彼女と会う待ち合わせ場所で目が覚めた。
ホテルでキスをした直後に目が覚めた。
夜、眠りに着いた瞬間、目が覚めるとやはりいつもの朝だった。
数日間目が覚める事のない事もあった。
もはや、
一度目覚めて現実で眠りに付き、
新たな夢を見ているのか、
全てが夢なのか、
今は現実なのか、
まだ夢の途中なのか、
わからないまま日々を過ごすようになった。
しかし変わらず
目が覚めた瞬間は、
「はっ……」として、
「夢だったのか……」と思う習性。
夢で見た事のある場面に出くわすことは多々あった。
一日中の行動がわかる事もあったが、何処かで目が覚め、夢だった事を認識するのだ。
リアルでありながら、疑いを持ち、現実感が浮ついたまま過ごす日々。
ある時、いつものように、
いつ目覚めるのか、
それともこれは現実なのか、
わからないままの浮ついた日常で、
運転中、睡魔が襲った。
……
……はっ…と目覚めた時、崖から海へ転落していた。
「しまった!
夢は覚めていた。」
そう思った瞬間、
目が覚めた。
「はっ……
全部夢か……」
いつもと同じ夢からの目覚めだった
耳元で何やら声が聞こえてくる。
「先生……息子はこのまま回復する事はないんでしょうかねぇ……?」
「脳死からの意識回復はほぼ可能性がありません。」
「転落事故から命が助かったのは不幸中の幸いですが、植物人間として生きて行く事が良かったのか……悪かったのか。」
「もう一年になりますね。」
いつものようにリアルと夢心地の境界線で、二人のはなす会話だけが耳に入ってくる。
この夢はいつ目覚めるんだろうか。
またいつもの朝へ……。
いつもの朝へ…。
早く目が覚めればいいのに……。
早く目が覚めれば……。
早く……。
……
早く…。
【完】または、冒頭へ……。