表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

Episode8・戦いは終わり…

目を瞑り、現実から逃避する──

なぜだか、時間はとても長く感じて、真っ暗なはずなのに、一瞬強い光が射した気がした。

死との直面で感じたものは……恐怖──なんかではなくて、無力感とでもいうべきなのだろうか。

全てを投げ出して、現実を受け入れて、あとは死ぬだけ。

──もう、何も考えなくていいや。


……………………………………………?


痛みを感じない、死んだのか?

──否。死んでしまったのなら……そんなことを思考することさえ不可能だろ。

ならばこれは……


ぱんぱんと、胸元を叩かれる感覚。


「ゆーちゃん……」


凛の声だ──なんで凛の声が聞こえる?

そうか……

そうだ──俺は、生きている。


そっと、どこか遠い世界から戻ってくるように目を開く。

凛が、俺の腕の中で顔を赤く染めて、じっと見つめてきていた。


「ゆーちゃん……恥ずかしいから……」


「わっ、わるい!」


急いで俺は腕を離す。

あんな状況だったとはいえ、なんて大胆なんだ俺!


「どうなったんだ?」


無数の刃は、もうどこにもない。

床には、赤い液体が無造作に散らばって、血だまりを作り出していた。


「完全に……眼中に……なっ……かったです……わっ……」


声の主の方へと目を向けると、そこには狂人──リズがまばゆい光の十字架に張り付けられ、残った左手、両足には、同じ光で作られた矢が刺さっていた。


「やるじゃないの、あいつ」


「あいつって?」


他に誰かいたっけな?


「ミラーナよ。居たの?って感じだわ」


「完全忘れてた!」


言われてみると……と思い視線を彷徨わせると、やや遠距離に彼女の姿はあった。

リズへと手を向け、その手からは、魔術を唱える際に発生すると思われる、見慣れた光が。

そして、その隣には、痛々しげな姿で、立っているのがやっとといった様子のセシリー。


「形成逆転、っと」


俺は立ち上がって、動くことのできないリズへと近づく。

きっ、と鋭い眼光で睨みつけてくる。

全く……どこまでもプライドがお高いことで。


「寝てろ──」


全身に残っていた力全てを込めて、リズのみぞおちへと正拳突きをぶち込む。

リズの意識は、すぐに飛んで、首はがくんとうな垂れる。


「ミラーナー!気ぃ失ってるからもういいぞ!」


光で形成されたモノは、瞬時に形を失くし、無造作にリズは床へと投げられる。

命がけだった戦いの終わりに俺は安堵する。

安堵すると同時、体の力は抜け、視界が暗転していった──

やっと、終わったんだな──




───どこだここ……?

ぼやけた視界はだんだんと鮮明になっていく。

体に染み付いたソファーの感触。


「おれんち?……いてて」


ゆっくりと体を起こす。

少しな動作でさえ、身体中が痛い。

貫かれた肩には包帯が巻かれ……他の場所の痛みは、どうやら筋肉痛のようだ。

無理もない。あそこまでの激しい運動はさすがに慣れてないからな。


「あ、起きた。もう大丈夫なの?」


「ああ。まだ体が痛むけど……もしかして俺、気絶したのか?」


「そうよ!ビックリしたんだから!」


「そっか」


どうやら、俺はあのあと疲れて意識を失っていたらしい。

3人からその後のある程度の説明をされる。

セシリーの邸は壊滅状態、重傷者多数。幸いなことに死人は出ていないそうだ。

あの場所に滞在するのは難しいと判断した結果、凛が俺を、ミラーナがセシリーをこの家まで運んでくれたらしく、今に至る。

セシリーは、しばらくここにいさせてくれないかと頼んできたので、迷うことなく許可した。


「なぁ……気になってたんだが、ミラーナ。そのタンコブどうしたんだ?」


びくりとミラーナは肩を震わせる。

ちら、と一瞬、凛の顔を見た──そうかそうか。凛にやられたんだな。


「分かった、なんとなく分かってたけど。お前も大変だな」


「ねぇ、なんかあたしが悪者みたいになってない?」


「いや……どっちもどっちだと私は思うのだが……」


凛がちょっと不機嫌そうに言うと、セシリーが仲裁に入ろうとする。

何があったのかは知らんが、気になる。


「俺も気になるから聞こう」


「別に大した話じゃないですよ〜!」


慌てた様子で阻止するミラーナ。

基本マイペースそうなこいつが慌てるってなんか珍しい。

これは絶対……


「なんか隠してるだろ……?」


「いえいえ〜隠してなんか〜」


「──はーん?あんたのせいであたしたち死にかけたんだけどねぇ?」


は──?


「まてまて、どういうことだよ?」


セシリーはなぜか苦笑していた。

凛は、若干お怒りの様子で口を開く。


「ゆーちゃんが寝てる時にこのアホから聞いたこと話すわね。まず、あたしとゆーちゃんが死にかけていた時、こいつに助けられた。それは事実。でも、なんか疑問に思うことない?」


疑問……?考えてみてもわからない。

助けられたのは事実だし。なんだろう。


「特にないかな」


「そう?なんでもっと早く助けなかったとか思ったりしない?」


「言われてみれば、そうだな」


ミラーナの顔はみるみる真っ青になっていく。

なんか、悪さがバレた子どもみたいだな。


「じゃあ、なんですぐに助けなかったか考えてみて!」


「それは……あれだろ?あいつ、あの変なカチューシャつけてて最初は魔術効かなかったし……ん?でも言われてみれば結構早い段階であれ投げ捨ててたな」


こくこくと頷く凛。

まるで授業でも受けているような気分だなこれ。


「そう。あれを取らないと自分も魔術を使えない、だけど相手の魔術も攻撃可能にする。だからその段階で、本当はミラーナも戦闘に参加できていたはずなのよ」


「なるほど、ようするに……」


「あんた、ちゃんとゆーちゃんに言いなさいな。ゆーちゃんビビって泣いてたんだから」


「な──────っ⁉︎ ちがっ!あれは──!やめろおおおお!」


みんなこっち見てんじゃねーか!

羞恥で顔が真っ赤に染まっていくのがわかる。

くそう!それは禁句だろ!

ミラーナじゃなくて俺が一番ダメージ受けてるよ今⁉︎


「すぐに助けられなかったのは〜……えっと〜」


「なにかあるならちゃんと聞いてやるよ」


俺は暴露されたことに挙動不審になりながらミラーナの言葉に耳を傾ける。


「怒りません〜?」


なんだ、そんな可愛い顔するなよな。惚れちまうじゃないか。


「うん。怒らない」


優しい言葉で答える。


「実は実は〜、突然眠気が襲ってきて……直前まで寝てました〜」


タンコブ追加あああ──っ!


「怒ってるんじゃないぞ。これは俺の涙のぶんだ」


「ひどいですよぅ〜」


涙目になるミラーナ。

何してくれてんだ!全く。


「まぁでも、みんな無事でなによりだな」


3人とも頷く。


「何か忘れてる気がするけど、疲れてるし、俺はもう一睡しようと思う。狭いけど、この家適当に使ってくれ」


そうみんなに告げて、寝室へ向かおうと歩き出したそのとき──

リビングの隣のにある和室へと繋がるふすまが開き、聞き覚えのある声が部屋に響いた。


「全く、騒がしい連中ですわ。こんな阿呆どもに負かされたとなってはわたくしはもうお終いですわね」


平然とした面構えで和室から登場したのは、あの忌まわしき狂人、リズ・スペルビアだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ