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Episode4・別世界の剣姫

木刀を手に、凛とセシリーは半眼状態で睨み合いを続ける。

どちらも譲れない、といった感じで場の空気はぴりぴりしていた。

こうして2人が剣を交わすのには訳があって……それは約一時間前にさかのぼるのだが──

セシリーは、おそらく俺たちの心配をして言ったのであろう、『殺されてしまう』という発言に、まさかの凛が、食ってかかったのだ。

俺たちのいた世界での最強女剣士……言い方はちょっと中二病ぽいが、それは間違いなく凛だった。

剣道という1対1の真剣勝負。

凄まじい身体能力で軽々と全国を制覇し、世界大会へと。ましてや、その世界大会でさえも、相手に一本も打たせる事なく圧勝で一位をとった。

セシリーは、文句のつけようがない最強剣士──彼女のプライドというものを刺激してしまった。


「勝負は私の管理下にある剣技場で行いましょう。使うのは木刀。怪我をされては困るからな」


「よーく言うじゃない?怪我をするのはあんたの方。最強であるあたしにたてつこうなんて一年早いのよ」


「ぬっ……」


セシリーは歯ぎしりをする。彼女にもプライドというものがあるのだろう。

そして凛の方は、もうなんて言うか……悪役にしか見えん。


「しかも一年ってなんだよ……はえぇな」


俺は2人の邪魔をしないようぼそりと呟く。


「んふふ〜面白いことになってますねぇ。優さん優さん、一年ですって〜ぷぷっ」


ミラーナは目を輝かせ、どこか楽しんでいる様子だ。


「やめとけ……聞こえたらまた襲われるぞ」


こっそりミラーナに呟く。

凛は腰に手を当て、まるで魔王のような顔で宣言する。


「いい?魔術はくれぐれも禁止よ?あたしに魔術を使えば、あたしの中に眠る魔力エネルギーが街を崩壊させるわ!」


平気で嘘つくな!こいつ!


「真剣勝負というのは心得ているのだが……たしか貴方さっき魔法を教えろと……」


「おだまりなさい。わたくしの力を見くびらないことね」


だから誰だよこいつ……。


「一瞬で終わらせてやる。私の斬撃をその身に刻むといい」


2人とも中二病ルートを進みつつあった……。


──そして現在に至る。

もう勝負は始まっている。2人とも言葉を発する様子はなく、また、動く様子もない。

互いが互いを警戒している様子で表情も変えない。

そして、俺とミラーナは端から見物、というわけだ。

──ぱんっ!!突然、剣技場全体に高い音が響き渡る。

凛が仕掛けたのだ。正面から真っ直ぐな、一太刀。

その速さは目で追うことができないほどのスピード。しかし、その高速の一振りを、セシリーの目は正確に捉え、受けとめていた。


「やるじゃん」


「そちらこそ。予想以上です」


2人はつばぜり合いの状態へと持っていく。

左右の足を上下左右と動かし、互いが競り合い力を掛け合う。

お互いの力は互角に見て取れた。

──だが、凛は一瞬に力を込める。その反動はかなり大きく、セシリーは大きく仰け反って、凛は一瞬の隙を逃さない。即座の追撃──‼︎

完全にセシリーは打たれる──と思った直前、セシリーは自ら仰け反った方向へと体重をかけ、大きく後ろへと。

その剣筋をすれすれの距離で回避したのだ。まるで体操選手のような柔軟さだった。

セシリーは即座に構えを直したが、刹那の隙も凛は許さない。

左足で床を思い切り蹴り、一気に距離を詰める。

距離を詰め加速の乗った一撃──かなり重いはずの一撃を叩き込む。

が、セシリーはそれを阻止。一歩に動かず阻止したのだ。

柔軟な体を捻り、回転力乗せた力技で受け止める。

たかが木刀でこんなに大きな音が……しかも互いの剣筋が全く見えない。凄いということだけは分かる。


「互角……ですか」


「いーえ?あたしのほうが上よ」


傲慢に語る凛。だが、それは間違いではなかった。

確かに凛の方が押している。セシリーはかなり押されている状況なのだ。


「次で……仕留めます。覚悟を。凛さん」


若干2人とも呼吸が乱れているように見えるが、その姿勢と威圧感は先ほどと全く変わっていない。

これが真剣での本物の戦闘だったらと考えると、背中がぞくりと震えた。

ミラーナも2人の勝負から目を離さないでいた。

セシリーは、後ろへと大きく下がり距離を取る。

そのまま構えを変え……脇を閉じ、剣尖けんせんを自身の後方へと持っていく。

この構えは……大した知識がない俺でも分かる。佐々木小次郎と同じものだ──!

佐々木小次郎は、通常より長い刀を使い、相手からはその長さの見えない構えを取り、通常では届かない距離からの斬撃で相手を仕留めるというもの──。

……が、この場合。完全に木刀の長さは同等。凛の方が身長が低いというものあるが、それだけでは大してリーチが変わることはない。

一体何を……?

真正面である、凛の位置からはセシリーの剣は見えない。

凛は踏み出そうとして──動きを止める。セシリーが微塵もこちらの動きに反応しないからだ。

凛は今までに、こんな構えをした者との試合経験はなく、焦りと緊張感に、かなり動きを煽られていた。

なんなのよこいつ……リーチは変わらない。後ろに構えるメリットなんて、剣を振った際に勢いは乗るって事だけ。威力だけの一振り?だけどデメリットの方が大きい。隙を作る、こちらの攻撃に即座に対応できなくなる事。

何を考えているのか……。だけどおそらく考えられる事は、カウンターを狙っているという事。

あえて……相手に乗ってやろうじゃないの──。

凛は頭の中で作戦を練り、相手の動きを先に予想する。次で決める──っ。

一方でセシリーの表情はかなり冷静──だが。

内心はかなり焦っている。

ここまでの実力とは思っていなかった──

振りは速く、剣が通る道筋に一切の無駄がない。かなりの……実力者。

どうする。どうする。どうする──。

迷いは捨てろ。できる事は1つしかないのだから。

まともに打ち合いをすれば負ける、残るのは、あの技のみ……それにカウンター乗せる。

一撃にかける──!

張り詰めていく空気──。

足の指をうまく使い、ミリ単位で距離を詰めていく凛。

酸素を鼻から息を吸い、口から吐き。吸う。

そして────


「やぁあああ──っ‼︎」


凛の小さな体から出せるとは思えないほどの超高速、大げさにいうと、光にさえも追いついてしまいそうな斬撃を繰り出す。


「はぁああっっ」


しかしセシリーも一瞬の動きさえも見逃さない、体を鞭のように捻り、右手で木刀を思い切り投げるように押し出す──全身の力全てを木刀の握られたその左腕へと込め……!

柔軟すぎる体は獲物を捕らえた蛇のように唸り、伸び、伸び、伸び──骨がないのではないかというくらいにまでリーチの伸ばして行き、凛の首を捉え──!!


「「──────」」


その凄まじい光景に俺もミラーナも目を見開く。

体の柔らかさと捻る勢いを利用して……リーチを伸ばした……⁉︎

10メートルほど離れたこの場所にも、その斬撃から生み出された風が吹く。

まるで次元の壁を超えてしまったのではないかというような息を呑む戦いで、勝負が今──

凛の首へと、全神経からの超斬撃、物理法則を無視したかのような一撃が迫り──!

……それは、ものすごい音を立て──

“空気だけ”を切り裂いた。


「う──っ……!」


セシリーの脇腹から、鈍い音が響き、セシリーは膝をつき……勝敗が決まった。

凛は、セシリーの斬撃を超ギリギリの所で、掠る程度に肩で受け止め、それを壁のように利用して斜めへと、移動し、半月を描くように脇腹へと自身の高速の一振りを穿つと言う凄まじく、並外れた業をやってのけたのだ。


「セシリーナ。あんた、今までで一番の強敵だったわ──まっ、あたしに勝つなんて100年早いけどね?」


凛はウインクしながら敗者へとそう告げると、剣を収めセシリーの手を取った。

セシリーも、負けたのに悔しそうな顔はせず、どこか清々しい笑顔でその手を取ったのだった。


「貴方はどうしてそこまで強くなれたのですか?」


すると凛はセシリーの耳元で何かをそっと囁いていた。


「………ずっと………に…………から」


口の動きからはなんて言ってたからよくわからなかったけど、その時の凛は、今までに見た事ないほどカッコよく、そして頼り甲斐のある幼馴染に見えてしまった。

何かあっても凛なら簡単に事を終わらせてくれるのではないのか──なんて言う安心感。だけど、それとは別の何か複雑な感情。

ミラーナは「凛さんの機嫌を今度から損なわせないようします〜」なんて言っているくらいだ。

ずっとバカでわがままな妹みたいに見ていた幼馴染が、想像できないほどの努力をして強くなっていた。

──近かった人が遠くに感じた。

俺は、この時──異世界に来て初めての“ある感情”を抱いてしまった。



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