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四級小型船舶免許は十六歳以上なら誰でも取れるため、高校生の俺でも問題はなかった。資金の方も、アルバイトをしていたし、もともと金が欲しくてやっていたわけではないから、その貯金から賄うことができた。
俺は早速その日から、最短で取れるという泊り込みの講習に参加した。講習が始まって数日してから、俺は恵美に連絡をとることにした。
公衆電話の前を幾度も行きつ戻りつしながら、萎縮する気持ちを奮い立てて、ようやく受話器を上げた。
「あの、高村と申しますが…あ、あの、先日飛行機でお会いして…その、イルカの…」
「あ!」
と受話器の向こうから声がすると、続けて彼女の嬉々とした声が聞こえた。
「早速すみません。あの、それでどうでしたか?」
彼女の声は期待に溢れていた。俺は敢えて申し訳なさそうに言った。
「あの、実は、従兄が盆過ぎに東京でインストラクタ-向けの講習に参加するようで…」
これは嘘ではなかった。講習ではなかったが、彼は盆過ぎに東京へ出て来ることになっていた。
「…そうですか…」
彼女の落胆は手にとるように伝わってきた。そこで俺は、計画通り、こう切り出したのだ。
「従兄はいなくなるんですけれど、船を出すだけなら僕にもできますから、もしそれでよろしければ、ご案内しますが…」
その瞬間に、電話口の向こうで、落胆の空気の一変するのがわかった。
「本当ですか?!」
耳をつんざかんばかりの声だった。少々戸惑いつつも、予想通りの、いやそれ以上の反応に俺は満足した。
そして、恵美と再び盆過ぎに空港で会う約束を取り付けたのだった。