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逢い~愛  作者: 坂口 玲
13/17

6-2

 やがて空港につくなり、「金はいらんから、早く行きな!」と運転手はドアを開けてくれた。「ありがとう!」と怒鳴るように叫んで、俺は走り出した。


 空港のロビーにはすでに報道関係者とそして多くの悲痛な面持ちの人々が集まっていた。情報!情報がほしい!俺は前を駆けていた地上職員の男を捕まえ「情報は?新しい情報は!」と怒鳴った。


「申し訳ありません。現在確認中ですので」


 男はそう言うとまた駆けていき、奥に消えた。俺はただ呆然と立ち尽くした。


 間もなく、現場に急行した自衛隊のヘリコプターが機体の残骸を空港近くの丘に発見したという情報がもたらされた。ロビーは絶望の空気に包まれた。そして、遺体発見の第一報が届けられた。途端、ロビーにはこれまで以上の悲痛な叫びがあがった。


 報道関係者はいち早く遺族の言葉を得ようと躍起になった。そのうちの一人が俺のもとへとやって来た。新聞記者らしい。


「今のお気持ちをお聞かせ願えますか?」


 激しい憤りに全身の毛が逆立つようだった。


「今の気持ちだと!ふざけるな!」


 俺が怒鳴ると、その記者はさも当然というような顔をしてこう言ったのだ。


「真実を伝えることが我々の義務です。ですから、みなさんにも御協力いただかなければなりません」


 気付いた時には俺の右手の拳がその男の左頬を捉えていた。


「今の気持ちだと!御協力くださいだ?ふざけるな!」


 俺は馬乗りになって、殴りつけた。すぐに警官が駆けつけた。俺は暴れ回ったが、そのまま空港内の駐在所に連行された。


 俺の興奮はしばらくおさまらなかった。


 純粋に記者に対する怒りもあったが、同時にそれは不安な感情を別の形で爆発させた結果だったのかもしれない。我を失った俺は駐在所でもなお暴れようとして、警官に何発か殴られた。


「お前さんなあ、いくら気が立っているからって、ブンヤを殴っちゃいかんぞ。まあ、お前の殴ったのはあれだ、正義面吹かした新聞の記者でな、わしらの間でも評判はよくないんだが、しかし、暴力沙汰はいかんな。記事に書かれた日にゃ、暴行罪で訴えられても文句は言えん」


 年老いた警官は咳払いをして続けた。


「まあ、あの記者もあとでとっちめておいてやるから、そう心配せんでいい」

「あの、情報は、新しい情報は入っていませんか」


 俺がたまらずに訊くと、別の警官が、死者がまたさらに数人確認されたと答えた。他の乗客の家族のいるところで自分も情報を待ちたいと言ったが、しばらく出すことはできないと言われた。情報はこちらにも入って来ることになっているから、そのときは必ず伝えてやる、と言って俺をなだめた。



 それからどれくらいたったころか。日の出の近付いた頃だったように思われる。生存者三名を確認、それ以外はほとんど絶望的という情報が伝えられた。生存者のうち、一名は男性、残り二名は女性。うち一人の女性が乗務員。俺はすぐにその客室乗務員の氏名を確認してくれるよう頼んだ。そして、まもなくその名が伝えられた。


「E.NAKAMURA」


 名札からそう確認されたらしい。それは紛れもなく、恵美のことだ。恵美は生きている。俺は警官にその旨を伝えて、慌てて駐在所をあとにした。


「無事でよかったな」


 年老いた声がその背中を押した。



 空港は閉鎖されたため、タクシーやその他の交通手段全てが消滅していた。乗客の家族はみな近くのホテルに集められ、航空会社からの発表を待っているという。俺もそのホテルへ行かざるを得まい。恵美がどこの病院に収容されたかもわからない。


 とにかく、残っている職員にホテルの場所を訊こうとしたところ、背後にクランクションの音を聞いた。振り返ると、あの運転手が窓から顔を出して


「乗りな!」


 と叫んだ。俺はタクシーに走り寄り「生きてる!生きてるんだ!」と繰り返し叫んだ。


「俺も気になっちまってよ。帰っても良かったんだが」


 運転手は照れ臭そうに言った。


「しかし、生存者にお前さんの知り合いがいるってのかい。そりゃ良かった。他はもうだめだって聞いたから…」


 俺がホテルに向かってくれるように言いかけたとき、彼はそれを遮って言った。


「病院に行きたいんだろ」

「でも、どこかわからないから」


 俺がそう言うと、彼は手を挙げて俺を制し、車に備え付けられた業務用無線で話しはじめた。


「H病院らしい」


 ややあって、彼はそう言った。


「わしら、こういう情報にかけては鋭いんでな」


 そう少し誇らしげに言うと、運転手は思いきりアクセルを踏み込んだ。



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