俺は生まれ変わるぞ!
「ふざけんな! そんな訳ないだろ!」
「可哀想だけど、事実よ」
「いや、それはない。前世が自転車のチューブだったなんて話、聴いたこと無いぞ」
「私も初めて会ったよ、笑えるね」
「俺は笑って無い。人の前世をへらへら笑うな」
「怒らないでよ。だから、教えたくなかったのに」
「……ホントなのか?」
「ホント」
「……勘違いじゃなくて?」
「事実」
「俺の前世は自転車のチューブ?」
「ゴムのチューブ」
「あのチャリンコだぞ?」
「お買い物自転車のチューブ」
ポン太はその人生を想像した。
自転車のチューブと言う悲しい人生である。
…もし、その話がホントだったらエライことだぞ。
年がら年中、無理やり空気をパンパンに喰わされて、地面に押し付けられるんだ。
絶対に苦しいぞ。
しかも、お買い物自転車らしいから、乗っかるのは間違いなくババアだ。
チャリンコで買い物に行くようなババアは、ひょっとしたらデブかも知れん。
いや、多分デブだろう。何度もパンクしてるんなら、デブに決まっている。
旦那が仕事してる間中、ひっくり返ってテレビ観ながら堅焼きセンベイなんかをボリボリしてるに違いない。
これは重いぞ。
ダイエット番組を観ながら、(明日から痩せよう)とかなんとか勝手に考えながら、一袋平気で平らげるはずだ。
そんなババアが新聞のチラシ広げて、どっこらしょと声を出して起き上がる。
向かう先は近所のスーパーだ。
そこのタイムセールで喰い切れないぐらい大根とか玉ねぎを買いまくるに違いない。
(お一人様・一袋限り)なんて店の事情を無視して、知らん顔で何回もレジに並ぶぞ。
戦利品を手に入れたら、意味不明の厚化粧でニコニコするだろう。
そしてチャリンコに向かう。
そこでカゴが変形するまでぶっとい腕で押し込むはずだ。
カゴの奴も気の毒だ。
後ろの荷台には、きっとババアに瓜六つぐらい生き写しのガキが脚をブラブラさせてるぞ。
しつけなんて、ろくにしないからガキはアイスクリームで口の回りをベタベタにしてやがるに違いない。
「それじゃ、かえろうかね」なんて言いながら、下手クソなアニメソングを鼻で唄うだろう。
そんでもって、やっぱりどっこらしょって声を出しながらデカイ尻でサドル圧縮する。
サドルの奴の悲鳴が聴こえて来そうだ。
そんな時、俺だって死ぬほど耐えなくちゃならないから、声も掛けられない。
ひどい話だ。ババアの尻は、俺達の友情も圧縮するのだ……。
「ポン太、そんなに落ち込まないで」
アコエルがポン太に声を掛けていた。
「悪党の方がまだましだった…」
「そうかも知れないね、人間だし」
「人間が無理だとしても、キツネやタヌキ。なんならイボイノシシぐらいでいて欲しかった」
「動物だからね」
「動物が無理なら、百歩譲って、クワガタかサナダ虫ぐらいで手を打つ訳にはいかなかったのか…」
「せめて生き物だよね」
「生き物に手が届かないなら、熊のぬいぐるみとか床の間の壺でもいい。それも無理ならヤカンでも洗濯機でもいい」
「……なんか、悲壮感漂ってない?」
「なぁ、どこのどいつが、チャリンコのチューブに愛情を注いだり抱きしめたりする?」
「………。」
「チャリンコのチューブは、幸せを感じこと有る?」
「私にチューブの気持ちは理解できないよ」
「そうだろうな。チャリンコのチューブって、孤独だな」
「元気出しなよ、きっと、仲のいい友達ぐらいいたはすだから」
「買い物カゴとか、サドルのことか?」
「エッ!? 前世を思い出したの?」
「いや、なんとなく想像がつく」
「そうなんだぁ、やっぱりチューブだったのよ。きっと立派な自転車のチューブだったのよ」
アコエルの励ましは、むしろポン太の傷口を拡げた。
「…なぁアコエル、今度生まれ変わったら、俺は何になるんだ?」
「それは私には解らないよ、自分で決めることだから」
「エッ!? じゃあチャリンコのチューブだって、俺が自分で選んだの?」
「そうだね、その前の時に希望してるはずよ」
「待て待て、そんなもん自分で選んだって言うのか?」
「そうだよ」
「そんなもんわざわざ選ぶはずないだろ」
「そうだね、でも選べるのはざっくりとした条件ぐらいで後は神様の気分次第かな」
「ざっくりとした条件?」
「うん、希望する条件」
その言葉に、ポン太は自身の心の中を探った。




