死神の願いって、変だろ
ギェーッ!
ポン太が悲鳴を上げていた。
「な、な、何で?」
「今ごろ驚かないでくれる。さっきから何度も言ってるじゃない、私は死神だって」
「影が無い!影が!」
「そんなこと知ってるわよ。影なんか無くったって、何にも困んないから、気にしないで」
そんな風に言われて、ハイそうですかとはならない。
絶対に気になる。
ポン太は影があって得したことは過去に一度もない。
実際、何かの役にたった記憶もなければ、影を褒められたこともない。
はっきり言って、いらない。
しかし、いくらいらない代物でも、捨てるのに困る。
ひょっとしたら隅っこぐらい燃えるかもしれないが、燃えないかもしれない。
そうなりゃ[燃えるかもしれないゴミ]である。
残念なことに、そんなゴミ袋は今のところ無い。
そんな訳で、影の無い奴は絶対に記憶どころか、地上にはいない。
「死神が何の用だ?」
世の中には知らない方が幸せなことだってある。しかし、ビビったポン太はうっかり聴いてしまった。
「あなた、死神が道をたずねたり、回覧板持って来たりする?」
「ひょっとしたらあるかも…いや、たまにはあるだろ」
「あなた22になったんだよね」
「いや、それは表向きの年で、ホントはきっと違う気がする」
誰が見ても完全に泳いでいる眼というのは珍しい。
「毎日が暇で、うんざりしてるでしょ」
「あの、そう見えるかもしれないけど、実は忙しい」
「たとえば?」
「え〜っと、毎日、世界の平和を祈っている。そうだ、世界平和を祈っちゃう」
言い切った後、ポン太は死神の顔を覗き込んだ。
「……。あなた、恥ずかしくない?」
「……だって…」
ポン太は、仔犬のようにしょんぼりとうなだれた。
「じゃあ、覚悟を決めてくれる?」
「嫌だ!」
「あなた、生きてても何んにもいいことないよ」
「絶対に嫌だ!」
「彼女だっていないし、お金だって無いし、きっと未来は真っ暗よ」
「大きなお世話だ」
「ワガママな人ね。だからモテないのよ」
「関係ないだろ、そんなこと!」
「なによ、私がこんなに頼んでるのに」
「…頼む!?」
その瞬間、死神が手のひらで口をふさいだ。
「今、頼むって言ったよな」
死神は肩をすくめ、ポン太の腕の辺りをたたいた。
「ハハハッ」
そして、屈託のない笑い声を上げていた。
「笑ってごまかすな。どう言う意味だ」
「バレちゃったなぁ、あなたが22で終わりって言うのは冗談だよ」
「冗談!」
「そ、冗談冗談、ほっといたら、いつまで生きるか解んないわ」
「じゃあ、ほっといてくれ。けど、何で現れたんだよ?」
「だから、頼んでるじゃない」
「俺に死んじゃえってこと?」
「そっ」
「……。バカ野郎! 他人に頼まれて死ねるか!」
「そこをなんとか、お願いっ!」
死神がポン太に両手を合わせていた。
「なんで俺なんだよ?」
「すごく暇そうだったから…」
手を合わせたまま、死神は固く眼を閉じている。