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ちょっと死神  作者: 青尾ウニ
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ささやかな用事

ポン太達が降り立ったバス停は、学校の正門を前にしていた。


決して大きくはないが、その古びた木造の校舎は山間に美しく佇んで見える。


「中学校でしょ? なんか、いい味出してるよね」


アコエルはバスを跳ねるように降り、ポン太を見上げた。


「アコからはそう見えるだけで、中身はオンボロだよ。廃校の話もあるらしいし」


歩き出した二人は肩を並べていたが、その影はひとつでしかなかった。


ポン太の足元から伸びる影は濃い。


しかし、アコエルの足元に影は無く、ポン太は彼女が普通ではないことを心の隅で想い出していた。


「なんだかちょっと、寂しくなるね。素敵な学校なんだけどなぁ」


「まあな」


国道から脇に折れると、道幅は細く曲がりくねった道となっていた。


その道沿いに田畑を挟んで民家が点在している。


道の向こうから近づく人影があった。


かっぷくのいい老人が、ビニールの買い物袋を手にしていた。


ほどなく老人はポン太に気付き、一瞬驚いて笑顔を浮かべた。


「おや、帰っとったのか。奴め、ワシにはなんも言わんかったぞ」


「いや、今帰って来たとこ。仙吉さん、また飲み過ぎないでよ」


「知らんのか? こいつは昔から万病の薬じゃぞ」


老人は手にした酒ビンを持ち上げ、しわくちゃな顔で笑った。


「ま、元気そうだからいいけど」


「ハハハッ、そう見えるだけで、実はだいぶガタが来とるわい」

 

「自分で言うぐらいだから、やっぱ元気だよ」


「お前も街に行って口が上手くなったの。その調子で嫁でも、見つけて来んか」


「まだ、早いよ」


「そんなこと無かろう。まあ、モテん男はいくつになっても、まだ早いって言うがな」


「ひでぇな、けど、仙吉さんよりゃモテるよ」


「何を言っとる。ワシは婆さんどものアイドルじゃ。今度の盆踊りにでも来りゃ解る」


「酒臭いアイドルだな」


ポン太の隣でアコエルが笑いをこらえ、肩を震わせていた。


「それより、たまには帰って、そのむさ苦しい顔でも見せてやれや」


「……。」


老人はそう言い残して背を向けていた。


ポン太はアコエルと眼を合わせ、彼女は無言で頷いた。


「この村の名物ジジイだ」


「ポン太って、やっぱりモテなかったんだぁ」


「あのジジイの言うことはいい加減なの。俺だって彼女ぐらいいたさ」


「彼女が?」


「ああ、ガキの頃だけど」


「でも、結局振られたんでしょ?」


「余計なお世話だ、相手が黙って転校して終わりだ」


「それっきり?」


「そう、ある日突然いなくなった」


「なんか事情があったんじゃないの?」


「さあね、事情があったかどうか知らないけど、ひでぇ話だ」


そう言い、ポン太は複雑な笑いを浮かべて歩き出した。


しばらくして一軒の店があった。民家に手を加えた簡素な造りである。


ポン太は店先に一瞬立ち止まり、呼吸を整えて店内に入った。


そしてアコエルも自然と後ろから続き、狭い店内に吸い込まれていった。


手作りらしい木製の棚が壁いっぱいに並んでいる。そこに食料品もあれば、日用品もある。


この辺りの便利屋のような店であった。


「よう、どうした?」


店主らしい初老の男がポン太に声を掛けていた。


声を掛けるが、ポン太を見る訳ではない。食料品棚を整理しながらの会話であった。


「いや、別に何でも無いけど」


ポン太の口調も、どことなく素っ気ない。フラフラと棚に手を伸ばしながら答えている。


「そうか…」


「今、仙吉さんに会ったよ」


「ああ、さっき酒を買って行った」


「最近、どうなの?」


「店のことか?」


「まあ、それもあるけど…」


「俺か?」


「……。」


「俺なら問題ない」


「ホントか?」


「ああ、それより紹介したらどうだ?」


「何を?」


「そこの彼女だ」


「えっ!」


ポン太はアコエルと眼を合わせた。

 


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