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ちょっと死神  作者: 青尾ウニ
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追い込まれたぞ!!

ポン太は力なくうなだれ、ポツリと呟いた。


「なぁ、他にないのか? なんかこう幸せそうなの」


「あなたが幸せを感じられるかどうか解らないけど、ひとつだけ裏技があるよ」


「裏技?」


「うん、これは誰にも秘密だけど…」


アコエルは、言葉の最後の辺りでポン太の顔をじっと見つめて黙り込んだ。


ポン太は次の言葉を待って、アコエルの視線を受け止める。


その妙な沈黙の後、アコエルが口に出した言葉はポン太の理解を超えていた。


「あなたが【死神】になればいいのよ」


「ゲッ!」


「死神になっちゃえば、ポン太のままの形で不死身だよ」


「俺が死神になるの?」


「別に難しくないよ。それに相手を間違っちゃっても、誰にもわかんないから大丈夫」


まさに【死人に口無し】である。聴いてるだけでポン太はめまいがしてきた。


「ひょっとしたらお前、間違って別人をあっちの世界に連れてったことはないだろうな?」


「へへへっ、何度かあるかも」


「あるかもじゃあないだろ!」


笑顔が恐ろしいと感じられる瞬間であった。そいつはカワイイだけに、よけいに不気味である。


頭のネジを何本も締め忘れているらしい。


やっぱり天使には向いていない。かと言って、死神のまま野放しにしていても迷惑である。


『俺が死神? こいつ、むちゃくちゃなこと言ってやがる…』


「良かったら、私の代わりに一回やってみて」


『代わりって、そもそもあんたバイトだろ』


「そしたら私も南の島に遊びに行けるし…」


『待て待て、俺のことほったらかすつもりか!?』


「青い空とまぶしい太陽! 素敵!」

 

『そんなの知らん』


「ねぇ、マンタって見たくない? それからイルカといっしょに泳ぐの…」


『はいはい……』


「ウィンドサーフィンも挑戦しちゃおかな」


『ご苦労なこってす……』


「これでもボディボードは自信あるんだから」


『さいざんすか』


「それと海に沈む夕陽なんて、ロマンチックじゃない?」


『俺は何の話を聴いてるんだ?』


「椰子の木のシルエットに空が紅く染まるの。ビーチに波の音が打ち寄せるの」


『ダメだこいつ、頭ん中で完全に南の島行っちゃってるぞ』


「キャーッ、運命の出会いがあるかも」


『それはナンパって言うんだよっ』


「ディナーはオシャレして、……あっ、そうだ。服はどうしよう」


『そんなもんどうでもいい!』


「ねぇ、お洋服選ぶの付き合って」

 

『……。』


「さっきから黙ってないで、なんとか言ってよ」


「…なぁ、俺、死神になるってまだ決めた訳じゃないけど?」


「えっ! それは困るよ。 じゃあ、お洋服選びながら話そっか」


「いやいや、頼むから先に説明してくれ」


「ワガママな人ねぇ…」



アコエルの話によると、死神には特別な資格みたいなものはいらないらしい。


本当は望めば誰でも死神になれると言う。


さらに神様にお願いする必要もなければ、了解もいらない。


望むだけでそれは自然と叶う。ただ、人間がその法則に気づいていないとのことだ。


神様ってのは、初めから何でも許しているから神様って呼ばれてると言う。


命の構造やらなんやらにも、法則があるけど、アコエルのオツムではこれが限界だそうだ。


それ以上のことを理解しようとすると、耳から煙が出る気がすると言って笑いこけた。


そして死神の仕事はいくつかあるが、そこに人の命を奪うことは入っていない。


それは単なる人間側の誤解やイメージに過ぎないらしい。


先輩に聴いたら、命って奴は不滅だから、奪いようがないと言ってゲームを続けたそうである。


死神の主要な仕事の一つに、寿命を終えた者の道案内である。


寿命を終えたばかりの彼らは混乱しているので、意識の切り替えができない。


そこで案内役が必要不可欠となる。


もう一つは【スカウト】である。ポン太のケースがこれに該当する。


つまり、寿命前でも死んじゃった方が良さそうな人物を選んであっちの世界に連れて行く訳だ。


無駄にすごしている命をリセットさせる為だ。


これには本人の自由意思もあるから、了解が必要となる。


当然、説得しなければならないので、はっきり言って面倒くさい。


変な奴に限って、必死になって粘るし、しがみつく場合が多い。


どっから見ても絶対に何の用も無いのに、この世にこだわる。


そこでベテランの死神は、手抜きをしてアルバイトに押し付ける。


それがアコエルの仕事であった。



「解った?」


アコエルが説明を終え、ポン太に確認をしていた。


「まあ、死神のことは大体解ったけど、いいのかな俺で…」


「平気、平気。適当にやって飽きたら、後はおっちょこちょいにやらせたらいいのよ」


「………!?」


「あっ!……」


「……おっちょこちょいは公園で見つけりゃいいのか?」


アコエルが両手で口の周りを押さえ、眼を開いて固まっていた。





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