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確信

一昨年の春。

死のう、と決意したのは桜の花が散った頃。


二郎は普段乗りもしない電車を乗り継ぎ、初めて東京へ出た。長い長い時間、電車にゆられ景色が変わる様を眺め、まだ知らない東京に思いをはせる。

そして東京へ降り立った。しかしその瞬間、それは一瞬のうちに彼を飲み込んだ。見たこともないような人の数、落ちて来そうな建物、息も詰まりそうなスクランブル交差点。

こんなに人間はうじゃうじゃいるのか?

それは絶望に近い感情だった。

こんな人間の中で、私は一体何をするために……そうか!この人間の中で私は無意味な存在であり、この世界に私の存在する意味はないということなのか!

二郎はスクランブル交差点を行ったり来たり、繰り返した。そのうち、交差点の中心で空を見上げた。

死なのだ!生きる意味は死ぬためにあったのだ!

彼の中の決めかねていた死はその時、確実になった。

輪郭を表したそれに二郎は酔いしれた。

死こそ私の生きる意味であり、目的地だったのだ、と。


そう思うと、二郎の行動は早かった。

まず、死装束を買いにデパートへ行った。

デパートのような大型施設は二郎の故郷にはなく、かろうじて小さなスーパーがひとつあるだけだ。そんなスーパーしか見たことのない二郎はデパートの広いフロアや品物の豊富さに圧倒され、気恥ずかしさと不安のあまりコソコソと隅を歩いて紳士服売り場まで向かった。


「ああ」

紳士服売り場へたどり着いた二郎の目が輝いた。

目の前には漆黒のコートが一着。春には重たすぎる生地だからなのか、特価で売られていた。

「最後の一着なんですよ」

売り場の女性が微笑む。

「最後の……」

この服は私のためにあるようなものじゃないか。こいつはずっと私を待っていてくれたのだ。

「これを、ください」

二郎はその重いコートを大切に抱きしめた。これが私の死装束。これが私の生きる目的。

これが幸せなのか、そう思った。

デパートを出ると、次に死に場所を考えた。

ビルの上から飛び降り、それとも、公衆の前で自害でも、いやそれは秋津二郎の面白味が無い。

ふつりふつりと考えているうちに二郎はA公園にたどり着いた。木の風、ジョギングをする人、ギターを奏でる青年、シャボン玉を吹くおじさん。

ここだ。

ここが私の死に場所だ。

騒がしい東京の穏やかな場所。

やっと、やっとたどり着いた。私の目的地。私の生きる意味。私は私の死に場所と死に方を決める事だけに生きていたのだ。それが今日、決まった。生きる意味は死。

夕陽が傾く。

親子の影が二つ並んで伸びている。ギターを奏でていた青年も帰り支度を始め、シャボン玉を吹いていたおじさんも姿を消した。去りゆく今日を二郎は眺め、迫り来る夜に心を落ち着かせる。もう、夜は明けない。この夕陽も最後だ。

二郎は紙袋から漆黒のコートを取り出した。夕陽に照らされた黒は赤く、赤く燃えていた。袖を通してみる。少々重い。

「さて、と」

二郎はロープをA公園の隅の木にくくりつけた。結局、首吊りに決めたのだ。

「綺麗だ」

橙色の夕陽が公園の木々を照らし、落ちそうな闇が空の端からやってきて、なんとも幻想的な風景だった。

最後の景色にふさわしい。

二郎は持参した椅子に乗り、ロープに手をかけた。

「………」

細く息を吐いた。


「バカヤロー!」


読んでくださった方々、ありがとうございます。作者のぬーんです。

2話目でした。まだ続きます。

また機会があれば続きも、ぜひ。

次回もよろしくお願いします。

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