3
マジですか…。
いきなりの試練です。
はっきり言って逃げ出したい。
まだそんな勇気持てません…。
なんて言い訳できるわけもなく。
「わかりました。ご飯も終わりましたのでこれから行きましょうか」
コンコンコン
「隊長ルノです。シェラと竜の幼生を連れて参りました」
中からハミルの声で入れと応答が届く。
「「失礼します」」
中に入ると竜騎士隊隊長の横に黒い髪、青い瞳の青年が立っていた。
「はじめまして陛下。魔導騎士隊所属のシェラ・メーニンと申します」
まずは第一関門クリアだ。
「あぁ、そんなにかしこまらないで、頭を上げて。その子が竜の幼生だね、私が会った時と違って、随分元気になったね」
竜の幼生は陛下に撫でられていたくご機嫌だ。
私はというと、陛下の額に目を向けていた。
私が刻んだ魔力の紋が額に輝いている。
ルーと別れて10年。森を出て人の中で暮らしてきた。
随分人間臭くなったと思う。
様々な人と出会い別れた。
それでもルーを忘れた事などなかった。
離れていてもいつも感じていた。
ルーの気配を。
鼻の奥がツンとするような、目の奥が熱くなるような感覚が私を支配してくる。
「あれ?君、シェラ?私と同じ色だね」
?ん?何が?現在追憶真っ只中の私は、陛下の言葉の意味がよくわからなかった。
「あぁ、ほんとですね、並んで立たれるとまるで兄妹のようですね。この国で黒い髪に青い瞳は珍しいですから」
ハミルが微笑ましいといった様子で見つめてくる。
やめてください。あなたはお父さんか。
我が子の成長を喜んでるような表情しないでくれ。
「そういえばそうだな。私も自分以外の黒髪は親族以外に見たことがないな」
離れていてもさみしくないように、ルーと同じ髪の色にしたのが裏目に出たようです。
「私は北から流れてきた元傭兵ですが、北では黒髪は標準装備です」
あぁ、標準装備とか言ってしまった…。
脳内はバースト寸前らしい。
ただでさえ慣れない敬語は、更に私を追い詰めていく。
「そうか、クククッ、標準装備か。面白いなシェラは。まだ幼生の世話に時間はかかるだろうが、頼んだよ」
面白い認定されてしまった…。
「はい。この子が自立するまで責任を持って面倒を見させていただきます」
***
ただいま絶賛日光浴中だ。
竜の幼生を膝に乗せたまま隊舎の裏庭でお昼寝が最近の日課になっている。
あれ?前にも同じようなこと言ったような…
とにかく、最近その日課が脅かされているのだ。
「やぁシェラ、今日も日光浴かい?幼生君も元気そうで何よりだ」
そう、陛下が毎日のように竜騎士の隊舎にやってくるのだ。
いや来るのはいいんだ。ハミル達と訓練をしているのだから。
だが、ついでとばかりにこうやって私を探して声をかけてくる。
まさか気づいてるわけではないだろうし、10年前とは顔が違うから気づくわけがない…
「シェラ?」
私が脳内会議をしているとルーは不思議そうな顔で覗きこんできた。
「うわっ!近いです!」
びっくりした。
「ハミル隊長達との訓練は終わったのですか?」
「いや、今日は竜騎士の模擬戦をやるから竜の準備をしている。私には専用の竜がいないから今日は見学なんだ」
竜騎士と聞いていたから専用の竜がいるんだって思ってたが…
「竜騎士と竜は絆で結ばれている。私はどの竜にもその絆が見出せないんだ。ただ、何故かどの竜にも乗れるんだ。不思議だろう?」
それ、多分私の所為です…。
本来竜と竜騎士は絆を結ばなければパートナーになれず、竜に騎乗もできない。
だけどルーには私の紋が刻んである。
竜の上位種の私の紋が刻んであるルーにはどの竜も逆らえないし、逆らわないのだ。
ようは、私の唾つけ状態のルーに、どの竜もパートナーになりたがらないが現状だろう。
いや、すみません。
「どの竜にも好かれているなんて凄いですね」
いや、ほんとすみません…。
***
いよいよ隣国との小競り合いが小競り合いで済まなくなってきた。
特別扱い中の私にも任務が入るようになってきて、俄かに軍内部が慌ただしくなってきている。
魔導騎士隊の仕事は単騎任務ばかりだ。
竜騎士のような華々しさはないが、情報収集や敵戦力の殲滅などの裏方仕事を1人から2人でこなす。
私の任務の間は幼生君は竜騎士かルーに預かってもらうが、まだ1日以上離れるのは無理がある。
だが、連れて行くわけにはいかず、1日以内で終わる仕事ばかり回されている。
ようは雑務だ。
「あぁぁぁぁ、雑務ー!もう嫌だー!」
最近よく一緒の任務に就くデールが、大きな愚痴をこぼしているが無視だ。
「最近激務すぎ…。しかも雑務多いし。今日だって敵戦力の偵察だし。殲滅じゃなくて偵察って何さ。こんなの平騎士にやらせりゃーいいじゃん」
無視だ。
「ちょっと、シェラ無視しないでよ。なんか俺、独り言のデカイさみしい奴みたいじゃん」
いや、独り言のデカイさみしい奴だし。
「仕事は仕事だ」
「相変わらず冷たいなぁ」
冷たくて結構。早く終わらせて帰らねば、またあの子がさみしい思いをする。
「よし、終わった。さっさと帰るぞ」
まだ、横でぐちぐち言ってるが無視だ無視。
「そんな事を言ってられるのも今のうちだぞ。開戦すれば家に帰れず戦場で毎日泥まみれだ」
もしこのまま開戦すればあの子を連れて行くしかなくなる。
私達魔導騎士隊は大量殺戮兵器として戦場に送り出されるだろう。
だから、今のうちにあの子を巣立ちさせたくて、任務を引き受けているのも事実だ。
最近では食物からではない魔力吸収もだいぶ覚えてきた。
寂しがりやは相変わらずだが、普通の竜の親子より早いペースで習得している。
「ふん、早く帰るぞ。転移門を開くぞ」
デールと2人で門をくぐり、私達は王都に帰還した。




