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 案内された部屋に入ると、部屋の中央に置かれたベッドの上に小さな竜の幼生が眠っていた。

 足音を立てないようにそっと近づく。

 両手に乗るくらいの灰色の竜の幼生が弱々しく呼吸していた。

 これは…、竜の命と言うべき魔力が枯渇しかかっている。

 幼生は食物で魔力の補給をするという。

 成体になれば空気中から魔力を補充するようになるが、幼生は上手く吸収できない。

 そのため、人間と同じように食物から魔力を身体に取り入れる。


 まずは魔力の補給だ。

 私は魔力を細く細く絞って、過剰になりすぎないように竜の幼生に注いでいく。

 弱りきった身体に、過剰な魔力は害にしかならないだろう。

 私が魔力の緻密なコントロールをしている間にどうやら隊長が部屋に来たようだ。

 私の作業を食い入るように見つめている。

 しばらくすると、竜の幼生がピクリと動き、

 ゆっくりと琥珀色の瞳が現れた。


 《マ、マ…?》


「私はママではないよ」


 《マ、マ、ドコ?サムイ、ヨ》


「大丈夫。私はここにいる。今はゆっくり眠るといい」


 私は竜の幼生をそっと持ち上げると優しく抱きしめた。


 《ア、ッタ、カイ》


 再び眠りについた竜の幼生を撫でながら、私は竜騎士隊隊長に挨拶をした。


「はじめまして。魔導騎士隊所属シェラ・メーニンです。挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」


 ん?なんかどこかで見たことがある顔だ。

 いや、でも竜騎士隊に知り合いはいないはず。


「いや、こちらこそ助かった。私は竜騎士隊の隊長をしているハミル・レントと言う。協力感謝する!」


 ………ハミル!ハミルって!

 あれ?護衛騎士じゃなかったっけ?

 頭が盛大にパニックだ。


「それで、幼生はどうだろうか?」


 あぁ、今はそんなことよりこの竜の幼生だ。


「はい。とても母竜を恋しがっていますし、竜の命と言うべき魔力が枯渇しかかっていました。しばらくは私が付き添い、この子に魔力を補充します。自らの意思で餌を食べれるようになるまではつきっきりになりそうです」


 今は無理やり私の魔力で命を繋いでも、生きる意思のない生き物は淘汰されていくだろう。誰かが母がわりになり、この子に愛情を与えなければならない。


「魔導騎士隊の私がこの子を隊舎に連れて行くわけにもいきませんし、しばらくこちらでお世話になってもいいですか?」


 私の提案にハミルは大いに喜んだ。

 必要な物は揃えてくれるし、荷物も私の部屋から運んでくれるらしい。


「これからよろしく頼む。あぁ、それと竜騎士隊の隊舎と竜舎には陛下がよくお忍びで参られる。陛下自身も竜騎士なので当たり前だが、もし出会っても驚かないように」


 いや、驚かないほうがおかしいよソレ。

 ってことはイキナリ遭遇?

 まぁ、一目でバレるとは思わないけど、心の準備がねぇ?


「わかりました。なるべく驚かないように気をつけます」


 よろしく頼むと言うとハミルは部屋を出ていった。


「君は強い。これからずっと強くなるんだ。早く元気になれ」


 私は、小さな竜の幼生を抱きしめながら、いつまでも優しく撫でていた。


***


 あれから一週間の間に何度か幼生は目を覚まし、少しずつ現実を受け入れていった。

 その代わり、私に対する依存度が随分上がった気がするが…。


 《ママ!オナカスイタ!》


「はいはい、私はママじゃないったら!シェラ!言ってごらん?」


 《シ、シ、シラ、チェラ!》


 まだまだ、この子には難しそうだ。

 膝の上に幼生を乗せて、日当たりのいい場所で蜂蜜をあげるのが今の私の日課だ。

 随分食欲も出てきて、状態は安定してきている。

 本来の魔導騎士としての仕事はできないが、滅多にないこの暖かい時間がとても楽しい。

 幸い、陛下と鉢合わすこともなく、隣国との小競り合いも小康状態の今は皆にとっても良い休息だ。

 遠くから自分を呼ぶ声がする。


「シェラ。あぁ、ご飯の時間でしたか」


 近づいてきたのは、あの時竜の幼生の部屋まで案内してくれた竜騎士隊副隊長のルノだ。


「はい。この子も随分食べてくれるようになったので最近は外であげてるんです」


 ルノに撫でてもらって幼生は気持ちよさそうに喉をクルクルと鳴らしている。


「実は陛下が幼生に会いたいとおっしゃってて、今隊長室にいらっしゃってるんです」


 マジですか…。


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