平成24年10月18日(木)
「この指輪彼が買ってくれたの」
自慢げに右手を見せられて、けっとばかりにそっぽを向く。
気持ちが良いくらいの快晴だったので気分良くショッピングをしていると、中学時代のクラスメイトに偶然出くわしてしまった。
友人と言うほどの付き合いはなく、そう言えばクラスメイトだったなぁと名前を挙げられて初めて思い出す程度である。
しかし何故か
「久しぶりー元気?暇ならちょっとお茶しない?」
と誘われ、傍のカフェでコーヒーを飲んでいる。
会ってから数十分経ったが彼女の自慢話は尽きる事がない。いい加減聞き飽きてきた私の相槌も適当になってきた。
「見て、シックなブレス。これも彼が買ってくれたの」
「同じ物が百均で売っていたらショックなブレスだよね」
「彼にね、お返しに何かあげようと思ったんだけど何も要らないって。その気持ちだけで十分だって。だから私、彼の好きなトリュフを作る予定なの」
「なんならカカオから作れば?」
「彼からの告白でね…君の陽だまりのような笑顔が好きです。付き合ってくれませんか?って。すっごくドキドキして泣いちゃいそうだったの」
「陽だまりね~日替わりの方が新鮮じゃない?」
「この間のデートでは水族館に行ったの。魚がキラキラして綺麗だった~」
「ディナーは回転寿司に決まりだね」
「この服も彼が買ってくれたの。大き目のボタンが凄く可愛くて」
「うん、ボタンがドアノブみたいで良い感じが出ていると思うよ」
「……………」
「……………」
適当に返事をしていた私に気付いたのか、彼女は不機嫌そうになって黙り込んだ。
「パフェ食べたら甘くなっちゃった。何かさっぱりするもの飲みたいなぁ」
「ホットチョコレートは?」
指輪を弄りながら、メニューを広げていた彼女の手が不自然に止まった。
結局、彼女は何も飲まずに、用事を思い出したと席を立った。会計を持って行ってくれたので、奢ってくれたようだ。
良い人だったのかもしれないと少し後悔した。




