平成24年4月1日(日)
やるべき事が沢山ある時に限って部屋の掃除がしたくなるのは何故だろうか?心理学上証明出来ないものだろうかと思いながら掃除機を取り出す。
埃と奮闘する事三十分。
床はすっきりとしたが、棚に収まらなかったごちゃごちゃしたものが目障りだ。いらない物だが、捨てるには惜しいと中途半端な物である。
それらを大きめの袋に纏め、物置となっているクローゼットに投げ入れた。山積みされたそれらはジェンガのように不安定で、重いものを下へ移動させ崩れないように安定させた。
そんな風にクローゼットの中を動かしていると奥の方から見覚えのないダンボールが出てきた。
何だろう?とガムテープを剥がし、中を覗き込む。
入っていたのは、捨て去りたい過去の思い出だった。
家庭科の授業で作ったティッシュカバー。
型紙通りに作ったはずだが、何故か中央とは外れた場所に穴があり、ティッシュを取り出すことが出来なかった。
再提出にされたミニトマトの観察日記。
ミニトマトの観察日記だったのだが、途中から茎についているアブラムシが主役となった。
ミニトマトと同じ大きさのアブラムシがリアルに描かれている。アブラムシの成長日記となり、再提出を命じられた。
十センチくらいの毛糸の固まり。
編み物クラブに入ったが才能がなかったようで全く上達しなかった。やけになって編んだものは用途不明の不思議な物体だった。
私はそれに【毛玉】とタイトルを付けて提出したが、翌日先生に呼び出された。
そのような物がごろごろとダンボールの中に詰め込まれている。
中でも私が最も自己嫌悪に陥ったのは、親しい友人と交わしていた交換日記だった。どのノートも途中で終わっている。
友情の証と始めた交換日記を途中で面倒臭くなった私は、再三の催促を無視してノートを放置した。
ノートは全部で八冊あった。
ぱらぱらと捲ってみると、友人のページはぎっしりと書かれている。それに比べ私の書いたページは余白が目立つ。
今日は消しゴムのカスをのりで固めて練り消しを作ろうとした、などと内容もくだらない。
友人はクラスの情報や個人の秘密事など充実した内容を書いているにも関わらず、私は馬鹿丸出しの文章だ。
掃除用のホースにクレンザーを詰めて次に使う人を困らせてやった、テスト範囲の部分だけ教科書を切り取って持ち帰ったら怒られた、嫌いな男子と隣同士になったので机を持って廊下に逃亡したなど中学生の女の子がやることではない。
交換日記を読んでずーんと落ち込んだ。
過去の自分が恥ずかしげも無くこのような事をやっていたのだと信じたくは無い。
しかしこれは全て事実であった。
落ち込んだままダンボールを漁っていると、見覚えの無いノートが出てきた。
表紙にはダイアリーと書かれている。中を見てみると
【○月○日、誕生日に日記帳を貰ったので、今日から書こうと思う】
とだけ書かれていた。
その次のページからは真っ白である。何も書かれていない。三日坊主と言う言葉があるが、私はそれ以下である。
三日坊主は出家をしたものの、辛い修行に耐えられず直ぐに辞めてしまった人を指す。そこから転じてすぐ物事に飽きてしまう人を指すようになった。
三日坊主以下の私は、【出家しようかな?やっぱり止めた】と直ぐに思い直し出家する事すらしない怠け者である。
「…………よし」
私はこの日から日記を書くことにした。この日記帳を書き終える事が出来れば、過去の情けない自分とはお別れである。
本堂 まいな、29歳。図書館業務委託スタッフ。社会人歴6年半、未婚、彼氏持ち。
そんな私が、馬鹿みたいなきっかけで日記を書き始めることにした。