第1話・記憶喪失
喪失したモノは出来事と人物と思い出の記憶
つまり、知識だけが脳内に残っているような感じ
ちなみにプロローグの記憶なんてラストにぶっ飛んでますよ!
ネタバレすると超上空から墜落させられました
普通の人間だったら死んでるけど、肉体強化されていて助かったぜ!
意識を失ってからどれ位の時間が経ったのかは分からない
ただ漠然と眠りの淵を彷徨っていた俺は全身を襲う鈍い痛みによって意識を取り戻した
が、急に飛び起きるといったような事はできず、寝た状態のままである
「・・・・・・・あー、身体中が痛い。何もする気が起きない」
ぼやきつつも首を動かそうとするが、そこに骨の軋む嫌な音が響き動作を止める
痛みのせいで動かすことのできない身体を煩わしく思いつつも自分の置かれた状況を探る
それにしてもここは何処だ?
視界でしか周囲の状況を知る手段が無い俺はゆっくりと眼球を動かして周りを見回す
木で作られた天井に壁、俺がいる位置とは反対側に扉があり、俺はベットに寝ている
ベットの近くには外向きに開かれた窓があり、月明かりが部屋の中を照らしている
「なんだ、今は夜なのか・・・。じゃあ、ゆっくり寝るか」
心の中で「明日から頑張る」と思いながら、俺は急激な睡魔に襲われて意識を手放した
その後、俺が目を覚ましたのは太陽が昇り、誰かが部屋に入ってくる音がしてからだ
少し控えめに部屋の扉が開かれていく軋むような音に、浅い眠りの位置にいた意識が引き上げられる
一瞬、身体を警戒の為に強張らせるが、同時に痛みが襲ってきたので脱力する
どうしようか?と悩むが動くこともままならないので寝たフリをする事にした
( う~ん、寝たフリをしたは良いけど、この人が俺を助けてくれたのか?)
俺が寝たフリをしていることには気が付かないようで、部屋に入ってきた人物はどんどんとベットに近づいてくる
その人物は枕元の所で立ち止まり、屈むと俺の額に手を当てて何かを呟いた。
薄目を開けて顔を確認しようとしていた俺の視界に突如として青い光がいっぱいに広がる
青い光が全て消える頃には、身体中から僅かだが痛みが引いていた
「・・・ふぅ、よし!今日も魔法の調子は絶好調!」
グッと体の前でガッツポーズを取った少女は、自分の魔法に満足したように小さく鼻歌を歌いながら部屋から出て行った
後に残された俺は多少マシに動けるようになった身体をベットの上で僅かに起こす
扉の方を意識して耳を澄ませると足音が離れていくように聞こえるので当分戻っては来ないだろう
俺は先ほど見た光景を思い浮かべて「アレが魔法なのか」と1人で納得する
それと同時に少女が言っていた言葉にも疑問が浮んでくる
( さっきの少女「今日も」とか言ってなかったか?)
その言葉の意味するところ、それは俺が少なくとも数日は眠ったままだったと言う事
眠っていたのは身体が回復を優先していたから仕方が無いとする
残りの問題はだいたい3つ
何があって俺は気を失ったのか?
この怪我はどうして負ってしまったのか?
そして、俺がこの場所にいる理由・・・だ
1つ目は・・・、まぁ怪我が原因だと思う。それ以外に思いつかない
2つ目は不明。怪我をした理由も原因も全く思い出せない
3つ目は憶測だが、先ほどの少女が保護?してくれたのだと思う
しばらく考えた後、それら以外にも新たな問題が現れた
( 俺は・・・俺は・・・、誰だ?)
少し真剣に考えてみるが、何一つとして思い出せる事がない
俺に残っている記憶は昨日の夜、目を覚ました瞬間からだ
なぜ最初に疑問に思わなかったのか今更ながら不思議だが、体の痛みでそれどころではなかったのだろう
( 俺の名前は・・・分からないな。性別は男で、歳は18才ぐらいか?体型は普通だな、うん。・・・そういえば、身体の負傷具合は)
自分の負傷具合を確認するために手を見ると、頭の中で『物体識別』と声がした
視界に四角い枠に囲まれた文字列が現れる。まるでゲームのステータス画面のようだ
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名:ユミヤ・ユウ(18)
種:ヒューマン(男)
職:魔法使い(風)
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突然、頭の中で声がしたのには驚いたが、それは些細なことだ
それよりも、目の前の枠。これはどうやら俺のステータスを表示しているようだ
表示されている情報は少ないが、今知りたいと思っていた事が得られたのはラッキーだ
それにしても名は名前、種は種族だと分かるが、この職と言うのは職業でいいのだろうか?
何も思い出せないが、魔法使いなどと言った職業は俺は聞いた覚えがないハズだ
しかし、悩んでもハッキリとは思い出せないので、この疑問は保留することにした
話は若干それてしまっていたが、当初の目的は達成できた
そして、思わぬところで自分の名前と年齢が分かったが、表示された枠は1つではなかった
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名:白い包帯 | 名:回復魔法(水)
種:回復補助 | 種:残留魔力
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どうやら『物体識別』とは人間の他にも道具や魔力の情報も僅かだが教えてくれるようだ
しかし、視界に入る全ての物が対象になる訳では無いらしくテーブル等の物は特に表示されていない
痛む身体を押さえベットから起き上がり、床の上に立つ
立ち上がった瞬間、痛みでは無いが身体のあちこちに違和感を感じる
服の裾を捲ってみると身体には丁寧に包帯が巻かれていた
怪我の処置をしてくれたであろう少女に感謝しつつ順々に包帯を解いていく
包帯の下には赤黒くなっている部分が肉体の所々に残っていて鈍い痛みを発している
( 本当に何をどうやったらこんなに大怪我をするんだ?)
怪我の様子を見ると全身に均一ではない数と大きさで殴られたような痕
その傷の近くに付随するように細かな切り傷が殆んど治りかけだが残っている
傷を見ていると再び頭の中で『物体識別』と声がすると同時に白い枠が現れた
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名:打撲(中) | 名:擦過傷(小) | 名:骨折(中)
種:負傷 | 種:負傷 | 種:負傷
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かなり大雑把に傷の具合が表示された枠を見て、俺は自分の身体を触る
骨折がどこかにあるのであれば、触った時の痛みで判ると思ったからだ
腕と足には異常が無く、胸の辺りに触れたときズキリと痛みが走った
「肋骨が折れてるのか・・・、内臓に刺さってないなら別に良いけど」
確認を終えた俺は扉の前まで歩き、扉を開けようとすると向こう側から足音が聞こえてきた
まだこの部屋に来るとは限らないが、念のため扉が開いた時に死角になる扉の裏に移動して待機する
どうせ、扉の向こう側から人がいなくならないことには出ていけないのだから
少しすると足音はこの部屋の前で止まり、扉が控えめに開かれていく
新しい包帯と水の入った桶を抱えた少女が視界に入ると『物体識別』が発動した
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名:アリス(???) | 名:魔水
種:ウィザード(女) | 種:回復補助
職:僧侶(水) |---------------
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表示された枠の中には一部不明な部分があったが、それよりも気になるのは種族の方である
少女の外見は人間と全く変わらないが、どうやらウィザードと呼ばれる種族だったようだ
そんなことを考えられているとは露知らず、少女はベットの中に誰もいないことに気が付くと残された包帯を見つめ、静かに呟いた
「大変です、あの人が消えてしまいました」
全く大変そうに聞こえない声色に今朝とのギャップを感じたが、1人しか居ない状況でテンションが高くても怖いので黙って聞き耳を立てる
少女は顎に手を当てて、悩むような仕草をするとベットの横にある窓に身を乗り出して、外に向かって呼びかけた
「すみません、そちらに誰か行きませんでしたか?」
「――――――・・・」
「ええ、そうです」
「――――――・・・」
「黒い髪の男の子で、このベットに寝ていました」
「――――――・・・」
窓の外には木々が生い茂り、他に人がいる様子は無いが少女は言葉を続ける
俺には、その言葉に返事は無く少女がただ1人で話しているように見えたが、少女には何かが聞こえたようだ
「そうですか、ありがとうございます」
外に向かって礼を言うと少女は扉に歩き寄り、開けっぱなしになっていた扉を閉めた
当然、その後ろに隠れていた俺は他に隠れることも出来ずに突っ立った姿勢のまま少女を見下ろす
見上げてくる少女の目には小動物を見るような優しい光が灯っていた
「初めまして、おはようございます」
「えっと、はい、おはようございます」
「よかった、目が覚めたのですね」
胸に手を当ててホッと安堵の息を吐き、肩を撫で下ろす少女
その姿を見て「目を覚まさない可能性もあったのか!」と戦慄を憶えながらも俺は感謝の言葉を口にする
「危ないところを助けてくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ無事でよかったです」
「・・・ところで、あなたは誰ですか?それとここは何処でしょうか?」
不信感では無く、興味と言った感じで出来るだけ自然体で疑問を投げかける。
ちなみに先程から丁寧な言葉(自称)を使っているのは、俺が初対面の人に慣れていないだけだ
「そうでした、アナタは異世界からこちらの世界にいらっしゃったのでしたね」
「(異世界?)・・・ええ、そうです。でも、どうしてそれを?」
「話せば長くなります、その前に新しい包帯を巻いてしまいましょう」
少女はそう言うと手を叩き、光る文字と模様を空中に出現させた
それに連動するように包帯と水が動き出して俺の体に巻きついていく
あっと言う間に全ての包帯が怪我の箇所に巻きつき終わると少女はベットに腰掛けて、隣の空いているスペースに俺を招いた
「では、最初に私がアナタを助けた理由をお話しましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「私は数日前に氷神【ゼベル】様より神託を受けたのです」
「・・・ひょーじんゼベル?さま?」
「ええ、氷神【ゼベル】様は私達のような魔術師を祝福してくださる偉大な神様なのです」
どうやら俺は神様のお告げによって一命を取りとめたらしい
別に神様の存在を疑っている訳では無いが、特別信じている訳でもないので無言で頷きながら少女の話を聞く
「氷神【ゼベル】様は水と氷の魔力を持ち、さらに時を止める力を持っていると言われています」
「その凄い神様は、あなたに神託で何を告げたのですか?」
「そうでした、氷神【ゼベル】様は『私の元へ訪ねてきた異世界の人間をサポートしなさい』とおっしゃられたのです」
神様について熱く語り出しそうになった少女の話の腰を折り、本来の話に戻ってもらう
しかし、その行動とは裏腹に心の奥底ではギラリと鋭く光る想いがあった
「(うっおおおぉぉ!な、なんだって?水と氷の神様だって!しかも、時を止める力まで持っているなんて凄過ぎる!全く以って俺の理想だぜ!その力を奪ってやりたい)・・・つまり、あなたは俺のアドバイザーと言うことですか?」
「そう言う事になりますね。こちらでの生活を手助けさせてもらいます」
「なるほど、とても心強いですね。これからよろしくお願いします」
そう言って手を伸ばした時に気がついた
まだ俺と少女はお互いに自己紹介をしていないのである
「そういえば、まだ自己紹介をしていないですね?俺の名前はユミヤ・ユウです。ユウって呼んで下さい」
「分かりました、ユウ。私の名前はアリスと言います。分からない事があったら何でも聞いてくださいね?」
自己紹介が終わると握手をした。アリスさんの手はとても柔らかかく、温かかった
それと別にさっきは聴くことの出来なかった部分を詳しく聞くことにする
「じゃあ、さっそく質問しちゃいますけど、結局なんで俺は大怪我をしていたんですか?」
「そうです、それを話し忘れていました。では、私が神託を受けた日の事から話さないといけません」
アリスさんは立ち上がると「少し待っていてくださいね」と言い残して部屋から出て行ってしまった
残された俺は特にすることもないのでベットに腰掛けたまま足を揺らす
しばらくすると、お洒落なティーポットと華柄のカップ2つを浮ばせ、アリスさんは鼻歌を歌いながら部屋に戻ってきた
その調子のままティーポットからカップに紅茶を注ぎ、俺に手渡すとアリスさんも自分の分を注ぐと歌うのを止めて話始めました
「お待たせしました。それでは、お話させていただきますね?・・・そう、あれは1週間前の事でした。―――・・・
すでに主人公の方は相手の名前も把握してました
けど、自己紹介って大切ですよね!知らんけど!
それと、この小説は1週間周期で更新しようと思っています
現実だと結構忙しくって、時間も無いし
そもそも拙い思考能力で短時間で画期的なひらめきができないんです