Vol.5 =new morning=
…出会いとは不思議なもの。意図的にせよ、偶然にせよ、お互いに何らかの感情を生み、つなげる。 …あの方はあの少年に出会い、どんな感情をもたれたのだろう‥‥?
…雀が鳴いている。大和の部屋にはカーテンの隙間から、日差しが差し込んでくる。そして、扉が静かに開く。
大和
『‥‥うっ‥うぅ‥‥す‥‥せん‥…。
‥‥なんで‥僕‥‥おどされ‥‥‥』
夢をみていた。うれしそうな笑みの少女が、僕を精神的に陥れる夢だ。
男
「大和君…、おきてください…」
大和
「‥‥うっ!!‥‥ん‥‥」
薄い光が入ってくる。僕は静かに薄く目を開いた。目の前には、さわやか顔の男が、僕を起こすために僕の体を揺らしていた。
大和
『‥‥‥。
…誰だ?…この男は?』
そう思いながら、いつも起こしてくれる父さんに言っている暴言を吐く。
大和
「…うるさい、…死ね」
男
「うわっ……事前にわかっていたとはいえ、かなり傷つくな…」
男は少し傷ついような顔をする。だが、僕は無視して、再び目をつむる。まだ、目覚ましはなっていないはずだ。
男はため息をつき、懐に手をいれた。
ゴリッ
男
「あと三秒数え終わるまでに、起きてくださいよ」
3‥‥、2‥‥、1‥‥‥
大和
「…って!!?うぎゃぁーーー!!!」
ガタタッ!!
僕はベットから、緊急回避。床に転げ落ちた。金髪の男が拳銃を懐になおしている。
男
「まったく、お寝坊さんですね」
男の顔はさわやかでうれしそうな『笑顔』だった。
大和
「殺す気かぁーーー!!!?」
男
「ん〜、場合によってはそうなりますね」
僕の心臓は破裂しそうなほど、驚いていた。だか、男は何も悪気がない顔をする。
大和
「てか、おまえ誰なんだ!!?どうして、なぜ僕の名を知っている!!?」
目の前の男など知らない。僕の友人にも、知人にも、親戚にだって、こんなやつを見かけたことなど…
男
「俺ですか?俺はお嬢様専属のボディーガードの中村 レイですよ。覚えてないんですか?ほら、昨日の夜から、一緒に同居をはじめたじゃないですか。大和君の名前を知っているのは、お嬢様があなたのプロフィールを見せてくれたからですよ」
瞬間、さっきまで見ていた悪夢が、現実の話だったことを思い出し…、
大和
「そっ‥‥そうだった‥‥たしか、一緒に」
僕の顔が暗くなり、僕の気持ちが、絶望という名の沼に沈んでゆく。
レイ
「あぁ、落ち込まないでくださいよ」
大和
『‥‥こいつは人の気も知らないで‥‥』
レイ
「ちゃんと生活費は払いますから」
大和
『‥‥‥そこを落ち込んでるんじゃないだろ(怒)』
眠気がすっかり覚めた頭を動かし、時計をみる。…五時四十八分。…はっ、早すぎる。
大和
「まっ、まだ一時間は寝れるじゃないか…!!?僕の至福の睡眠時間を返せぇ!!!」
レイ
「いや〜、お嬢様の命令ですから」
大和
『やつの差し金か!!?』
そう…、やつとは、昨日突然、家にやってきた危険ガールのことだ。きっとこの命令も、うれしそうな笑みをして、だしたんだろう。
レイ
「『どんな手を使っても確実に起こせ』『二度寝するなら永眠させてやれ』と言われていますんで、起きてください」
僕は主人に忠実で、一般市民を朝から襲ってきたクソ野郎を強く睨めつける。…が、それ以上はもちろん恐いので、素直に言うことを聞き、リビングへ朝食を作りにおりていく。気分は最悪だ。一階の洗面所で顔を洗う。鏡に映る僕の顔は疲れているようだ。リビングに行くと、リビングはもとどおりだった。ガラスはちゃんとはめられており、壁に銃であけられた二つの穴さえない。
大和
『…いつのまに』
実は、大和が寝ているとき、幸の手配でガラスも、壁の壁紙も、きれいに補修されたのだった。ガラスはすべて防弾ガラスに変えられたのだが…。
僕は朝食をつくろうかと思い、キッチンをみるとセミロングの女の人がいた。たしか、春菜という名前の人だ。
春菜
「…おはようございます、大和さん…。…朝食は作らせていただきましたが、めしあがられますか…?」
大和
「えっ?あっ、はい…」
…正直驚いた。まさか、朝食をつくってくれているとは思ってもいなかった。しかし、全身黒スーツにふりふりエプロンはどうかと思うが…。
春菜
「…とりあえず、テーブルに座ってお待ちください…」
大和
「あ…はい…」
女の人の手料理食べるの久しぶりだ。いつも、父さんのしょっぱい料理か、コンビニで買ったものだったから、少しうれしく思った。
だが、ここでふっと気付く…
大和
『‥‥‥そういえば、やつの姿が見えない。どこにいったんだ?』
辺りを見わたしても、やつの姿がなかった。僕は気になり、春菜さんに聞いた。
大和
「あの、‥‥やつ‥‥じゃなくて、‥‥‥さち‥‥はどこに行ったんですか?」
春菜
「…呼び捨てで、名前を言われるなんて、そんなにも仲がよろしんですね…」
大和
『…この人は、昨日のどこをみたらこんなことを言えるんだろう』
春菜
「…用事があると言われ、早朝にお出かけになりましたよ…」
大和
「そうですか」
僕は内心、安堵の気持ちでいっぱいだった。以外と平穏な日々が過ごせそうだと。
しばらくすると、僕の前には純和風の朝食が用意されていた。
大和
「…おいしそう」
レイ
「春菜さんの作る料理に、まずいものなんてないですよ」
いつのまにか、レイが隣で朝食を食べていた。
大和
「おまえいつから…!?」
レイ
「さっきからいましたよ」
大和
「いや、いなかっただろ!?てか、さちのボディーガードしなくていいのかよ!?」
レイ
「いや、お嬢様強いですしね。今日はめんどくさいし、ゆっくりしたいからいいかな〜っと思って…」
大和
『こいつ、ボディーガード失格だよ…』
レイは『何も心配いらない』という顔をして、朝食を食べている。
レイ
「食べないんですか?」
大和
「…あぁ、食べるよ。いただきまーす」
メニューはご飯に味噌汁、鮭に、漬物だった。まずは、味噌汁からだ。
大和
「…うまい」
完璧を思わせた。旨味、具の火通し加減。なにより、父さんの作る味噌汁よりしょっぱくない。鮭も、うまかった。焼き加減は申し分なしだ。漬物は………市販だった。
大和
「うまい、うまい♪」
箸が快調なペースで進む。そんな様子をじっと見る人がいた。視線がすごく気になる。
大和
「‥‥‥あの‥‥、おいしいですよ…」
春菜
「…そうですか…」
なおも、こちらに視線が伝わり続ける。僕の箸は、だんだんと動きが遅くなる。
大和
『‥‥食べづらい』
そしてついに、箸が止まる。すると、レイが驚いたように小声をかけてきた。
レイ
「…大和君、死ぬ気ですか!?…春菜さんは食べ物に対して、とてつもなく厳しい人なんですよ。‥‥‥残したりしたら、殺されちゃいますよ‥‥!!」
自分の耳を、今の言葉を疑った。
大和
『…殺されるって、どういうことですか!!?』
ふっと春菜さんのほうを見る。こちらを睨め付けて、右手に包丁をしっかりと握っていらっしゃる。それを見た僕は急いで、残りの朝食を口にかけこむ。
大和
「‥‥ごっ!!‥‥‥ごちそうさまでした‥‥」
春菜さんの殺気らしいもの徐々になくなった。
大和
『寝起きも…、食事も…、命懸けでしないといけないなんて、やっぱり、今の僕に平穏な日々なんてあるわけないよな‥‥』
僕は深いため息をつき、皿を春菜さんに渡し、出掛ける準備をしはじめた。
レイ
「どこにいくんですか、大和くん?」
大和
「バイト。…昼飯はあるもの使っていいから、適当に食べといてよ。」
春菜
「…何にもないのにですか…?」
大和
『…やばい、また春菜さんの機嫌が悪くなってる』
春菜はどこからだしたか、ナイフらしきものを持っている。
レイ
「春菜さん、買いに行けばいいじゃないですか」
大和
『レイ、ナイスフォロー♪』
しかし、レイが大和にフォローなど考えるはずがなかった。レイは冷たいオーラがでている春菜に、ポケットから何かを取り出し渡した。
レイ
「ほら、一万円札ですよ。さっき、机の引き出しの中で見つけたんですよ」
大和
「…って!!?それ俺のへそくりぃぃぃーーー!!!?」
しかし、もう大和には手出しできなかった。一万円札は、春菜にわたってしまったからだ。
春菜
「…じゃあ、つかわさせてもらいます…」
大和
「…いや…、‥‥あっ、あぁ‥‥うぅ‥‥」
何も言い返せるはずがなかった。レイは生活費は自分達で払うと言っていたのに、たぶん、忘れているようだ。
大和
「‥‥‥(涙)。‥‥バイトに行ってきます‥‥」
大和は、自分の一万円札に別れを告げ、家をでた。
…その後、この一万円はおつりさえも大和には戻ってこなかったらしい
to be continued