Vol.4 少年の過去 (あの日の始まり)
…あなたは今でも僕を見てくれているでしょうか?
…あなたが言っていた強さを僕は手に入れたのでしょうか?
…あげたかったよ、あなたが好きだったマスコットのキーホルダーを‥‥‥。
‥‥‥母さん。
少年
『‥‥‥。
…ゆれている
…まだ、そっちに行きたくない‥‥』
男
「…起き‥‥だ。‥‥校‥‥遅刻す…ぞ‥‥」
少年
『‥‥‥うるさい。
…なんだこいつは。
…ムカツク』
そして、僕はまだ重い体をゆっくり起こし、鋭い眼光で自分の父親である男を睨めつけ、口を開いた。
少年
「…うるさい、バカ」
まあ、いつもの朝だ。こうやっていつも、父さんが起こしてくれる。
父さん
「と…、父さんにむかってバカとはなっ…なんだ!!」
感謝はしている。父さんが起こしてくれなきゃ、いつも遅刻だ。たが、やっぱり朝起きるのがとてもつらい僕には、僕を起こすやつがむかついてたまらない。僕はすごい目つきをしながら、ベットからおりる。
父さん
「…母さんを起こしてくれ」
父さんは少し引きつった顔をしながら言った。一緒の部屋で寝ている父さんが起こせばいいとも思えるのだが‥‥‥。これは、父さんには無理な話だ。僕の低血圧は母さんからの遺伝。母さんの低血圧は僕と比べても次元が違う。言うなら、超低血圧…。そして、母さんをおとなしく目覚めさせることができるのは、今のところ僕だけだ。
少年
「‥‥‥わかったから、むこう行ってくれる。いつまでもいられるとうざいよ。」
父親
「‥‥‥。」
ごめんとは後で思うのだが、これは遺伝なので仕方ない。
そして、僕は制服に着替えはじめた。制服は少し大きい。母さんが大きくなるといって、少し大きめの制服を選んだのだ。着替え終わり、上着をもつと目覚めの悪いメスライオン(母さん)を起こしに行った。
母さんは幸せそうな寝顔をしている。
少年
「はぁ‥‥」
ため息をつくと、僕は母さんの肩を揺り動かした。
母さん
「…ん‥‥」
少年
「母さん朝だよ…。起きて…」
ビュッ!!
ピタッ!!
母さんの鉄拳が僕の顔面スレスレで止まる。これが父さんなら、顔面に受けとめて鉄拳が止まる。そしてさらに、『死ね』や『クズ』など、とうてい一児の母とは思えぬ言動と、暴行を加えて部屋から追い出すだろう。その時には、心も体もボコボコだ。
鉄拳には慣れたとはいえ、驚くものは驚く。まあ、それで毎朝、僕の頭が完全に目覚めるが…。
母さん
「‥‥大和。…もう朝…?」
少年
「…そっ…そうだよ」
母さん言わく、僕に起こされるのはとてもさわやかに目が覚めるらしいが、どう見てもとても機嫌が悪そうにしか見えない。
少年
「…早くおりてきてよ。朝飯食べよう」
母さん
「はぁ〜いぃ‥‥」
僕は母さんを置いて、リビングにおりていった。キッチンでは父さんが朝食をつくっている。母さんが料理が下手というわけではない。父さんが、ある日の朝、機嫌が悪かった超低血圧の母さんに、包丁で殺されかけたからだ。それ以来、父さんは、朝、母さんに凶器を握らせないようしている。
父さん
「…母さん起きた?」
少年
「…起きたよ」
しばらくして、母さんがリビングにおりてきた。そのときには、テーブルにはトーストにエッグ、ソーセージ、サラダ。そしてコーヒー(僕は牛乳)の朝食セットができていた。
父さん
「…ゆっ、由美。‥‥‥おはよう」
母さん
「…あなたの声、頭に響くからやめて」
父さん
「…すまん」
父さんの精一杯の朝のあいさつを、母さんはひどい一言で返した。
少年
『…父さんは何で結婚したのかな?
母さんにたぶん間違いで何度も殺されかけているのに…。』
僕はいつもそう思っていた。
朝食を食べおわり、歯を磨いて、髪をとかし、八時。ちょうどいい時間だ。この頃になると、母さんの機嫌も少しよくなる。
父さん
「行ってくるよ」
父さんが玄関で靴を履きながら、母さんに言った。
少年
「待って、僕も行くよ」
僕は父さんのあとを追うように靴を履いた。
母さん
「あなた待って」
父さん
「…なっ、…なんだい?」
父さんは少し戸惑っている。僕もドキッとした。
母さん
「今日は給料日でしょ。ちゃんと、見せてくださいね」
さすが、母さんだ。父さんをしっかり管理している。父さんは戸惑いはなくなったみたいだが、まとうオーラが気のせいか、少し重くなった気がする。
父さん
「‥‥‥わかった」
少年
『…父さん…』
母さん
「いってらっしゃい♪」
僕と少しテンションが低い父さんは家を出た。
少年
「…ばれたと思ったよ」
父さん
「…あぁ…」
父さんの声は小さい。
少年
「父さん、ちゃんとケーキ買ってきてね」
父さん
「…わかってるよ」
そういうと父さんはニコリと笑った。
…それはいつもの朝だった