表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔が良いだけの用務員、何故か異世界で魔王になりました。  作者: 石動なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

9 用務員、冒険をする。


 ノアに連れられて透が向かった先は、結晶の森と呼ばれる場所だった。

 名前の通りその森は、生えている植物がすべて緑色の結晶だった。透の左腕とよく似た色だ。

 その様は異様ではあるが、太陽の光に照らされて輝く森は、神秘的な美しさも感じられた。


「はー……何かすごい場所ですねぇ」

「そうじゃな。この森は、今の緑の領地にしては珍しく、魔力を豊富に含む植物ばかりが生えておってな。大体が結晶化しておるじゃろう? あれがその証じゃよ」

「あ、つまり、ヴェルデ神の魔力を多く持っているってことですかね?」


 透が自分の左腕を指差して訊く。

 ノアは「その通りじゃ」と頷いた。


「ここで我らが探すのは、結晶化した林檎じゃ。結晶林檎と呼ばれている」

「おや、そのまんまですね!」

「ははは、そうじゃの。その結晶林檎じゃがの、魔力を多く含んでおるだけではなく、味も良いのじゃ」

「あら、それはすごい。魔力って確か……苦いんですよね?」


 治療院にある魔力抽出装置について話を聞いた際に、そんな話があったはずだ。

 だからたとえ林檎とは言え、魔力を多く含んでいるなら苦いはず――。

 しかし、その結晶林檎とやらはそうでもないらしい。 


「よう覚えておるのう。良い子じゃな」

「褒められましたね!」

「褒めたぞ~。話を戻すが、其方が言ったように抽出された魔力は苦い。しかし結晶林檎は、奇跡的に林檎そのままの味が残るのじゃよ」

「ははー。自然の神秘ですねぇ」

「其方はポジティブでいいのう」

「そんなに僕を褒めてどうするつもりです? イケメンにしかなりませんよ?」

「それがなければのう……」


 ノアから呆れた眼差しが飛んでくる。

 しかし透にその類の感情の視線はまったく効き目はない。慣れているからだ。


「ちなみにいくら美味いと言っても、結晶林檎はそのままでは食べられんぞ」

「あれっ、そうなんですか? 見つけたら試しに丸かじりしてみようと思ったのに」

「歯が欠けるぞ」

「そういうところまで普通の林檎ですね」

「其方の世界の林檎はどうなっておるのじゃ」


 どうなっていると言われても、そういう時もあるとしか言えない。

 透が「うーん」と唸っていると、ガサッ、と近くの茂みが揺れた。

 その瞬間、ノアは警戒するように目を細くし、スッと杖の先端をそちらへ向けた。


「さて、透よ。ここで一つクイズじゃ」

「おや、唐突。何でしょう、受けて立ちますよ!」

「うむ。結晶の森は魔力が豊富じゃと話したな。では、魔力が豊富にあると何が起こると思う?」


 茂みへ鋭い視線を向けたまま、口調だけはいつもの様子でノアが言う。

 透は目をぱちりと瞬いて思案し、ややあって「あっ!」と手を叩いた。


「骨狩りが集まるとか?」

「フッ……正解じゃ! 来るぞ!」


 ノアの口がにんまりと弧を描く。

 そのとたんに、茂みからばさりと、黒い泥のような化け物――骨狩りが現れた。

 しかも複数だ。


「うわーっ! 数多くないですかっ⁉」

「さあ、トール! こいつらを倒しつつ結晶林檎を採るぞ!」

「ノアさんの目が、何かいつもよりギラギラしてらっしゃるっ!」

「はっはっはっ! いやーこれだけの数を相手にするのは久しぶりで、血が滾るのぉーっ!」


 ノアはテンションまでだんだんおかしくなっていた。

 掃除道具を手にした透とほぼ同じである。

 透は「怖……」とつぶやいたが、本人も客観的に見たらこれと同じである。


 まぁ、それはともかくだ。

 骨狩りは倒すべき相手だし、倒さなければ自分たちがそこでジ・エンドである。

 透はくっと顔を上げると、魔石化した左手を骨狩りに向け、


「“星の欠片よ、降り注げ”!」


 ノアから教わった、透が使える唯一の魔法を放ったのだった。



       ◇ ◇ ◇



 結晶の森に到着してから、しばらく。

 透とノアの周りには、大量の骨狩りの死体が転がっていた。

 

「うむ。なかなかの数を屠ったのう」

「ちょ、ちょっと……休憩を……休憩をぉ……」


 遅いかかってきた骨狩りをひと通り倒し終え、ようやくお代わり(・・・・)がなくなったタイミングで、透はその場にへろへろと座り込んだ。

 魔力酔いではなく、魔法を連続して使い続けたことによる疲労だ。


 疲れ切ってぐったりと項垂れる透。その頭を、ノアが撫でて「ようやった」と褒めてくれた。

 褒められるのは嬉しいが、今はそれに返事をする体力もない。

 それでもと透は何とか顔をあげて、気の抜けた笑顔だけ浮かべておいた。


 するとノアの後ろで、何かがチカッと光ったのが見えた。

 しかも一つじゃない。複数個所でチカチカと、太陽の光を浴びた何かが煌めいている。

 あ、と透が口を開けた。


「ノアさん。あれってもしかして、結晶林檎ですか?」


 指差して訊くと、ノアが「む?」と振り返る。


「おや、ここにあったか。ああ、そうじゃよ。あれが結晶林檎じゃ、よう見つけたな。どれ……」


 ノアは杖の底で地面を叩く。するとその体がふわりと空中に浮かび上がった。


「あっ、いいなー!」


 それを見て透は目を輝かせた。

 空中浮遊、空を飛ぶ。それらは人類の浪漫である。

 透の歓声にノアは口角を上げながら、枝に生る結晶林檎の近くまで飛んでいく。

 そして一つをもいだかと思ったら、透に向かってひょいと投げてよこした。


「わっと」


 透は何とか両手でキャッチする。

 手の中でキラキラと輝くそれを、不思議な気持ちになりながら、透は軽く掲げてみた。


「あっ、僕の顔が綺麗に映る……意外と重くないですね?」


 見た目だけなら鉱物なので、もう少しずっしりくると思ったが、手に持った感じは、香りも含めて林檎そのものだった。


「もとは普通の林檎じゃからの。重さに関しては、そう大きく変化しないんじゃよ」


 ノアはそう言いながら、杖をひょいと動かした。

 すると透の手から結晶林檎がふわりと浮かび上がり、ぱんっ、と賽の目切りになった。


「上を向いて口を開けてみよ」

「あ、はい」


 言われた通り、透は顔を上げて口を開く。

 すると賽の目切りにされた林檎が、ぎゅっ、と絞るように集まって、果汁がぽたぽたと透の口に落ちた。

 とたんに透は目を大きく見開く。


「美味しい!」

「そうじゃろう、そうじゃろう」


 ノアが満足そうに頷く。


「えー! 林檎ジュースじゃないですか、これ! 僕、大好きなんですよ林檎ジュース! 昔、斎藤さんからもらったお高い林檎ジュースの味がします!」

「ははは、それは良かった。体の方はどうじゃ?」

「体?」


 トールは首を傾げて、自分の胸に手を当ててみる。

 そう言えば、何だか体がじんわりと温かくなっている気がした。それに先ほどまで感じていただるさが和らいでいる。


「何だか体の疲れも取れるような……?」

「其方の疲労の大半は、魔力を連続で使用したことによるものじゃからな。使った魔力を補充してやれば元気になるのさ」

「そうなんですねぇ。異世界面白いなぁ……。確かにこれなら子供たちも喜んで飲んでくれそうですね。苦いのがダメなんでしょ?」

「ああ、よく分かったな?」

「あはは。僕のとこでもそうですよ。薬が苦くて飲めないって。ま、大人もですけどね」


 実のところ、透も苦い薬はそんなに得意ではない。

 もちろん大人だから苦くても飲めるが、どうせ飲むなら美味しかったり、何の味もしなかったりする方がありがたいのだ。


「そうか。……本当は、もっと頻繁に採りに来てやりたいんじゃがのう」

「骨狩りがこれだけいると危険ですよねぇ」

「ああ。それに採り過ぎて骨狩りの餌が足りなくなると、新たな餌場を求めて移動してしまうからの」


 透の世界でも、食料不足で獣が人里に現れるという事態が頻発していたし、採り過ぎればそのもの自体が絶滅してしまうこことだってある。

 要はバランスが大事なのだが――色々な立場から考えると難しい問題である。


「結晶林檎、栽培できたらいいのに……」


 ぽつりとつぶやくと、ノアが目を丸くした。


「栽培?」

「あ、ええ。果樹だから数年かかるでしょうけれど。魔王城の安全な場所で、骨狩りが来られないように厳重に囲って、みたいな感じで栽培できないかなって」

「ふむ……二代前の魔王も同じようなことを考えておったなぁ」

「そうなんですか?」

「ああ。そのために金をつぎ込んで、魔王城の資金が一時危なくなったことがあったのじゃよ」


 おや、と透は目を瞬いた。

 聞き覚えのある話である。


「前の魔王様、だからこその節約?」

「そういうことじゃ。困ってはおったが、誰もそのことに対しては不満は言わんかったよ」

「そっか。良い魔王さんだったんですね」

「……そうじゃの。不器用で、優しい魔王じゃったなぁ」


 ノアは懐かしそうに目を細め、空を見上げた。

 結晶林檎の木の隙間から、木漏れ日がさらさらと降り注いでいる。


(きっとその魔王さんは、ノアさんにとって大事な人なんでしょうね) 


 ほんの少し寂しげな横顔を見ながら、透はそう思った。


「しかし、栽培か。我らでは上手くいかなかったが、異世界の人間なら違う視点があるかもしれんのう」

「……言っておいて何ですが、植物栽培は僕、プランターでミニトマトを育てるか、学校の花壇に水やりするくらいしか経験がないんですよ。なので専門知識はちょっと……」

「安心しろ、そこまで期待しておらんよ」

「それはそれで悔しい!」

「其方、面倒くさいなぁ」

「取り柄です! あっ、顔もですけど!」


 結晶林檎のおかげで回復した透は、いつもの調子を取り戻し、元気に胸を叩く。

 ノアは呆れ顔を浮かべて「やれやれ」と小さくため息を吐いた。


「まったく、そういうところまで似ておる……」

「え?」

「何でもない。栽培に関してじゃがな、魔王城に栽培施設があるんじゃよ。見てみるか?」

「おっ、あるんですね?」

「ああ。手入れはしておるが、本来の意味での稼働はしておらんがのう。戻ったら案内してやろう」

「ありがとうございます! では……」


 透はにっと笑って立ち上がり、


「頑張って収穫しましょうかね!」


 結晶林檎の木を見上げ、気合いを入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ