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顔が良いだけの用務員、何故か異世界で魔王になりました。  作者: 石動なつめ


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7 用務員、異世界の食事をする。

 ルイに案内されて向かった魔王城の食堂は、透が勤めている学校の食堂よりもずっと広かった。

 体格や体の造りの違う様々な種族が集っているからだろうか。

 そんなことを考えながら食堂へ足を踏み入れると、ちょうど食事時でもあったようで、大勢の人で賑わっていた。


「うわ~良い匂いがする~……!」

「みぃ~……!」


 透と子猫が揃ってじゅるり、と唾を飲み込む。


「ふはっ! き、貴様ら……同じ顔……!」


 それを見ていたルイが、笑いを堪えながらそう言った。

 おや、と透と子猫は顔を見合わせる。そして同時に笑った。


「仲良しですねぇ、僕たち」

「みぃ~」

「ふっ、ふふっ……と、とにかく、こっちだ」

「あっ、はーい!」


 肩を震わせながら歩くルイの後ろを、トールはついて行く。

 すると厨房のあるカウンターの脇に、自動販売機サイズの魔道具が置かれているのが見えた。

 ルイはそこへ真っ直ぐに向かっている。


(これは……どう見ても……券売機?)


 魔道具をじっくり眺めて、透はそう思った。

 ちょうど透の世界にあるような券売機とそっくりである。

 メニューの絵がずらりと並び、その下にそれぞれボタンがついている。

 まさに券売機だ。透が目を丸くしながらそれを見ていると、


「好きなメニューを押すが良い。枠が紫色になっているのは、毒入りや特殊な素材が使われているものだから避けるのだぞ」


 ルイからとんでもない言葉が聞こえた。


「ど、毒ですか?」


 透はぎょっと目を剥いて訊き返す。

 するとルイは「ああ」と頷いた。


「毒を主食とする種族もいるからな。トールは……」

「ノー毒! ノー毒種族です! 猫ちゃんも!」


 首をぶんぶん横に振って否定する。

 ルイは「だろうな」と笑った。

 

「では、白い枠の方を選ぶといい」

「はーい。えーっと、どうしようかな……」


 券売機のメニューを順番に眺める。

 文字は相変わらず読めないが、絵から大体のイメージは伝わってきた。

 何となく見覚えのあるものもいくつかある。


(冒険は……さすがに食べ物では難しいですねぇ)


 何せ初めて食べる異世界の食事だ。慎重になった方が良い。

 透の世界だって、国が違えば出てくる食事も違う。それで腹を壊したという話も聞いたことがある。

 だから透は無難なものを選ぶことにした。


「とりあえず……僕はこれにしましょうかね」


 透はハンバーガーとよく似たメニューのボタンを押してみることにした。

 するとがこんと音がして、下の取り出し口に、トランプを数枚重ねたくらいの厚さのカードが落ちた。


「やっぱり食券みたいですねぇ」


 そうつぶやいてカードを取り出すと、ルイは目をぱちりと瞬いた。


「何だ、食券は知っているのか」

「あ、いえ、僕の世界にもあるんですよ。ちなみに猫ちゃん……動物の赤ちゃんが食べられそうなものってあります?」

「ああ、その子か。そうだな……ミルクが良いだろう」


 ルイは券売機の端にある、飲み物らしきものが並んだ場所から一つ選び、ボタンを押した。

 それからもう一つ、ルイ自身が食べる用のもののボタンも押して食券を拾い上げると「では、カウンターへ行くぞ」と歩き出した。

 券売機のすぐそばだ。


「これを頼む」

「よろしくお願いします」


 ルイがカウンターに立っている担当者に食券を渡す。

 透も同じように渡すと、一分も経たないうちに料理がトレーに載って出てきた。

 早すぎる。どういう仕組みになっているのだと透は目を剥きながら、出された料理を見る。

 ハンバーガーのようなもの、ナポリタンのようなもの、そしてミルクだ。

 二人はそれぞれにトレーを持つと、空いている席へと向かって、並んで腰を下ろした。


「トールはパンバーガーか。なかなか良いチョイスだな」

「あ、これパンバーガーって言うんですねぇ。ルイさんのそれは何ですか?」

「これか? ポポリタンだ。美味いぞ!」

「ポポリタン」


 パンバーガーにポポリタン。何だか名前までちょっと似ている。

 そう思って見ていると、


 「では、貴様にはこれだ」

 

 と、ルイが子猫へミルクを差し出した。

 子猫は透の腕からするりと抜け出すと、ミルクの匂いをすんすんと嗅ぐ。そしてすぐにペロペロと舐め始めた。

 どうやら気に入ったようである。

 その気持ちの良い飲みっぷりに、透も食欲を刺激された。


「それでは僕も……いただきます!」


 両手を合わせて挨拶し、パンバーガーを両手で持ってがぶりと大きく一口。


「――――!」


 透は目を見開いた。

 口の中にパンの香ばしさと、アツアツの肉汁がじゅわりと広がったのだ。

 咀嚼し、飲み込み、透はわなわなと震えた。

 少々風味は違うが、これは紛れもなくハンバーガーである。


「うわ、美味しい!」

「だろう!」


 透の歓声に、ルイが自分のことのように胸を張って笑った。

 そして彼女もポポリタンを食べ始める。

 パンバーガーがハンバーガーと似ているなら、きっとポポリタンもナポリタンと似た味をしているのだろう。


(今度試してみよう!)


 そんなことを思いながら、透はパンバーガーをもう一口食べた。美味しい。


「いや~、美味しいですねぇ! 僕のところにも似た料理があるんですけど、それと味も似ていて、食べているとほっとします!」

「それは何よりだ。普段食べているものが食べられないと、大変だからなぁ」

「おや、ルイさんにはご経験が?」

「ああ。魔王になるために、各地で学んできたからな。その地の料理も色々食べた。南へ行った時は、香辛料の強い食事が多くて少々大変だった……」


 ルイが遠い目になった。

 透は何となく分かる気がすると思いつつ――食べる手を止めた。


「……すみません。そんなに頑張っていたのに、僕が奪っちゃった形になって」

「構わん。そのようなことで目くじらを立てるような、狭い心はしておらんからな」

「でも怒っていたような」

「気のせいだ」


 ぷいっ、とルイはそっぽを向いた。

 時々ではあるが、諸々の素振りが子供らしい雰囲気を感じる。


(そう言えばこの人、何歳くらいなんでしょうねぇ)


 ノアにはうっかり聞いてしまったが、さすがにルイに歳を訊くのはダメな気がする。

 ルイの竜のような尻尾をちらりと横目で見ていると、


「ああ、トール。ここじゃったか。ルイも一緒か。二人とも、楽しそうじゃの」


 食堂の入り口からノアがひょいと顔を出し、透たちを見つけて近寄ってきた。


「ノアさん」

「ノア様」

「トールの診察をと思ったが、どうやら元気そうじゃの」


 ノアは笑って透たちの向かい側に座った。


「ご心配をおかけしました。あの、どうして僕、倒れたんでしょう?」

「魔力酔い――魔法を使う時に練った魔力に酔ったのじゃろう。ヴェルデ神から魔力を受け取った時は平気そうにしておったから、問題ないと思うたのじゃが……初めて魔法を使うのに無理をさせてしまった。すまんかった」


 申し訳なさそうに頭を下げるノア。

 トールはそれを見て慌てて首を横に振った。


「あ、いえいえ。お気になさらず! 魔法使えるの楽しかったですし!」

「じゃが……」

「本当に! 教えていただいたあの魔法、かっこいいですね! 星の欠片よ~って!」

「ぐっ!」


 とたんにルイがごほごほと咽た。


「ルイさん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈……ノア様! 初心者に何という魔法を教えているのですか!」


 ルイは涙目になりながらノアに怒る。


「よりにもよってアレ……!」

「そ、そんなにまずい魔法なんですか?」

「まずいも何も……別名で神殺しと呼ばれるほどに強力な魔法だぞ!」

「物騒!」

「はっはっはっ! まぁ良いではないか、戦いに慣れておらん奴に骨狩りの相手をさせるなら、そのくらい強力な方が安心じゃろうて」

「そういう話では……!」


 呑気に笑うノアに、ルイは頭を抱えてしまった。

 綺麗な魔法だな~と思っていたが、想像以上に恐ろしいものだったらしい。

 気楽に使うのは止めようと透は心に誓った。


「はぁ、何か妙に疲れた……」

「大変じゃのう」

「ノア様、誰のせいだと」

「はっはっはっ! ああ、そうだ、ルイ。ところで、トールの件は何か進展があったか?」


 楽しそうに笑っていたノアだったが、ふっと表情を真面目なものに戻し、ルイにそう訊ねた。


「はい。城下町から離れた場所にある小屋や塔などから、召喚に使われたと思われる道具が見つかりました」

「道具ですか?」

「ああ。召喚用の魔法陣を書いた紙だ。分割されていた。恐らく、アレを置いた場所を経由して魔力が流れることで魔法陣が描かれ、召喚術が完成するのだろう」

「えーっと……」


 丁寧に説明してくれたのは分かるが、いまいちイメージが浮かばない。

 透が眼鏡のフレームに手を当てて、何とか想像していると、


「つまりじゃな、星座のようなものじゃ。星と星を結ぶことで、人は夜空に星座を描くじゃろう? あれと同じことが魔法陣でもできた、ということじゃよ」


 ノアから補足が入った。

 それならば分かると透は頷く。


「はー、何かすごいですねぇ」

「ああ。このような術が使える魔導師は限られる。よほど実力がある者だぞ」

「そんな人が、一体何の目的で僕みたいな平凡を地で行くイケメンを呼んだんですかねぇ」

「其方は自分の顔に対しての自信がすごいのう」

「ふふん、自慢ですからね!」


 透が胸を叩いてニッと笑うと、ノアとルイは思わずと言った様子で苦笑したのだった。


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