9話『動かぬ黒災』
なんだ…今の影は。
森の奥、視界の端で何かが蠢いた気がする。
空気が変わった。肌が総毛立つ。
「気をつけろ」
「ん?どうした?」
なんだ…この感覚。
身の毛のよだつような感覚は…
今までの何よりも恐ろしい生物がいる…
「身構えろ!?」
「え?」
ガルルルルル
そこには視界に収まらないほどの巨体をした、黒龍が目に入った。
こいつは知っている。
過去、勇者パーティーを幾度と壊滅に陥れた。
「あれは…」
「なんだ!?このでっかいドラゴンは!?」
伝説の黒龍『ドゥーラ』
「なんでドューラが!?」
「やはりこのあたりは奴の縄張りなのか?」
「戦うのか!」
馬鹿か?
あんな化け物と戦ったところで勝てるわけがない。
僕は超越者だが、ドューラの情報なんかひとつもない。
だってあの勇者パーティーですら勝てないんだぞ。
「無理だ、あんな奴と戦ったところで負けは確定している」
「そうだよ…あの勇者様ですら勝てないんですよ」
過去に魔王を倒した勇者『ヘルス・ファルカ』
僕の父だ。
僕の父は魔王を倒し、世界中から称え崇められていた。
そんな中、街に舞い降りたのがドゥーラだ。
父は僕を守るべく、ドゥーラと戦った。だけど手も足も出なかった。
回復なんて意味をなさないほどの火力に加えて、恐ろしく速い攻撃速度。
「こいつは…」
父に仇でもある、僕の中でドューラは倒せない無敵の魔獣と思っている。
ーーだけど…
「無茶振りだが…」
「オーディン、アリス」
「僕を守ってくれ!」
何いってんだ…
こんなバケモンから僕を守れって…
だけど、今の僕は違う。
平穏に生きていく為に…
「ここで貴様を消してやる」
「行くぞ!アリス!」
「わかった!オーディン!」
(種別:魔獣クラス測定不能/属性:闇・炎/防御構造:黒鱗/弱点:不明)
(対応不可――)
クソ、やっぱりダメか。
だけども、戦いの中で探す。
これが戦闘の基本だ。
「魔人斬り!」
「ヘルファイガー!」
ウギャァァァァ
ドゥーラが火を吹く。
「ウェーブウォール」
探せ、奴の弱点を。
奴を超える方法を。
奴の弱点と、奴のクラスを……!
――超越解析、再開。
(解析対象:ドゥーラ)
(進行度:3%)
(備考:解析不能領域多数)
(一部構造に干渉可能。しかし“殺しきる”術は現時点で存在しない)
「チッ…!」
「くっ…!」
オーディンが剣を振るう。
だがドゥーラの黒鱗には、かすり傷すらつかない。
「全然通らねえ!!」
「オーディン、下がって!」
アリスが補助魔法を展開する。
だが防御魔法すら貫いてくる火炎に、立っているだけで限界が来る。
「耐えきれない…!」
僕の身体が震える。
恐怖じゃない。怒りだ。
(僕は…また、守れないのか?)
(父のように――)
「……させるかよ」
僕の足が、自然とドゥーラに向かって動いていた。
考えた、少しだけでも奴の力を使えないのか。
解析度は3%
その3%だけでも使えないか…
ーーいや!僕ならいける!
解析中のドゥーラの“爪”構造を模倣し、一時的に再現した超越魔法。
たった3%でも、突破口はあるはずだ――!
「ドラグマクロー」
鱗を貫通し、突き出される爪。
かすっただけで肉が吹き飛ぶ。
「オーディン、アリス、時間を稼いでくれ!あと30秒あれば…!」
「えっ!? 何する気だよ!」
「大丈夫、今度は勝てる」
――僕の中に確信がある。
まだ解析は終わってない。だけど、分かる。
(こいつの黒鱗の一部が…わずかに、違う)
(あれが弱点だ…!)
(見つけたぞ、ドゥーラ。お前を超える鍵を――!)