8話「オーバードース」
「レベルアップ!」
「やったぜ!」
それどころじゃないんだよな。
傍から見たら僕らは魔獣の餌にしか見えないんだよな。
「オーディン、まだいるぞ」
「ええ!?」
気づいてなかったのかよ…
まあいいさ。
(種別:魔獣系/スキル:突進・咆哮/構造:突進依存型/弱点:側面への回避)
――超越を開始します。
「まとめてなぎ倒す」
というと僕は足を前に出し、連続キックをお見舞いしてやった。
――バタン
――バタン
次々と魔獣は倒れていく。
気づいた頃には魔獣は殲滅していた。
そこら中に魔獣の角やら牙やらが転がり落ちている。
「やったぜ!大量の素材!」
「これで強い装備が作れる!」
はあ、全く。
オーディンは強くなることに夢中になりすぎだ。
それに比べてアリスは…
「良かったね、オーディン!」
「へへっ」
なんだかんだこのパーティーも色が出てきた。
だけどまだなにか足りない気がする。
剣士、魔法使い、賢者。
他には…
「オーディン、レベルいくつになった?」
「えーっと…」
とは言っても、所詮はただの魔獣だ。
上がって10レベル程度だろう。
「ご…55!?」
「すごいじゃん!オーディン!」
いや、待て。
「55…?」
「うん!魔獣一体で結構経験値が入ってたから…たぶん一気に跳ね上がったんだと思う!」
オーディンはにやけながら、自分の剣を見つめていた。
たしかに強くなったのかもしれない。けど――
「オーディン、その急なレベル上昇、身体に違和感はないか?」
「え? 違和感? うーん……あっ、ちょっと手が震えてるかも」
それは――オーバーフローだ。
「アリス、彼のステータスを見てくれ。筋力と反応速度に異常な伸びがないか?」
「う、うん……あ、やっぱり! 数値が跳ねすぎてる! 体が追いついてないんだと思う!」
予想通りだ。
冒険者の体は、段階的な成長を前提に設計されている。
一気に強くなればなるほど、その歪みはどこかに現れる。
「すぐに回復魔法でバランスを取って。下手すれば身体が壊れる」
「ま、まじか……! せっかく強くなれたのに……!」
オーディンは悔しそうに拳を握りしめる。
でも、それが現実だ。
「強さには代償がある。俺たちはそれを忘れちゃいけない」
アリスが頷いて、彼の腕にそっと手を当てる。
淡い光が彼の体を包み、震えは徐々に収まっていった。
「……ありがとう、ファルカ。助かった」
「別に。僕はただ、壊れる奴と一緒に旅したくないだけだ」
「へへ、相変わらず冷たいなあ」
だけど、少しだけ――オーディンの笑い方が柔らかくなった気がした。
――そして、そのときだった。
「っ……!」
僕の目に、遠くの森の中で“何か”が蠢くのが映った。
(またか……)
いや、違う。あれは――
「来るぞ。今度のは、さっきまでのとは……格が違う」
次の“試練”が、迫っていた。