6話『賢者、月夜に微笑む』
「よーし!俺、うまい店知ってるから教えてやるよ!」
「うん」
久しぶりの外食だ。
少し楽しみだ。
なんだかんだ、きのみとかしか食べてこなかったし。
「よーおっちゃん!」
「オーディン!来たか!」
どうやらオーディンはこの店の常連らしい。
「来たぜ!それに友達も連れてきたぞ!」
「どうも」
この店はお肉やらお酒やら、いろいろあるらしい。
なんというか……人間ってやっぱり食の文化が強い。
「何食う?」
「エレスオオカミのベル焼きと、ベルツェビールで」
「はいよー!」
久しぶりの外食だし、いっぱい食べていいよね。
「お前、ビール飲めんのか!?」
と目を見開いてオーディンが問う。
そういえば僕の年齢は言ってなかったな。
かれこれ、数百年は生きてるし。正確な年齢はもう覚えていない。
「ああ、少なくとも数百年は生きてるからな」
「ええ!? お前、俺より年下かと思ってたぜ」
そんな僕は、見た目だけで幼稚扱いされることが多い。心外だ。
「ふー、食った食った」
「美味かった」
満腹の腹を抱えて、宿へ向かう。
夜風が心地よく、ちょうどいい眠気が漂ってきたころだった。
「──あの…」
背後から声をかけられた。
高い声。女の子らしい。
僕が振り向くと、そこには杖を手にした少女が立っていた。
銀色の髪が月光に照らされて、まるで幻想のようだった。
「あなたの試合、見ていました」
「……?」
「よかったら、あなたたちのギルドに入っても良いですか?」
どうやらヘローとの決闘を見ていたらしい。
まあ、あれで少し有名になってしまったのはしょうがない。
「どうする、オーディン」
「もちろん! 絶賛募集中だぜ!」
すると彼女の顔には、小さな笑みが浮かんだ。
「私はアリス。賢者だけど、主にヒーラーです!」
ヒーラーか。
このパーティには脳筋しかいないから、ありがたい。
それに賢者なら、攻撃もできるはずだ。
僕は魔法使い……だけど、現時点ではレベルが低すぎて話にならない。
この出会いが、僕たちの旅をまた少しだけ色づけていく気がした。
「よーし!今日はすごい戦果をあげたぜ!」
「そうだな」
今日の朝に会ったばかりだけど、長い時間一緒にいた気分だ。
これから、どんな旅になるのだろうか――
月の光は、静かに僕たちを照らしていた。