5話『勝つ為ではなく理解する』
「いやー、なんとか倒せたな!」
「そうだな」
なんだかんだオーディンと旅をして楽しいと思えてきた。
まだ旅は旅は始まったばかりだが、これからきっと共に背中で語り合う仲になるのかな…なんて考えていた。
「おかえりなさいませ!冒険者様!」
「たっだいまー」
「よかった!無事だったのですね!」
「おうよ!このオーディン様があんな虫ケラに負けるわけがないだろー!」
イキってやがる。
やっぱりオーディンはうるさい。
静かに暮らしていたかった。
「ちっ、生きていやがったか…」
「お!てめーは!」
はあ、めんどくさいから早く寝たい。
もう夜だし…
美味しいご飯を食べて…
「なんだ?俺のギルドの奴にそんな態度とっていいのか?」
「あなたは…」
「ん、誰だ?このデカブツ?」
はあ、また厄介ごとに…
「オーディン、早く飯食いに行こう」
「ああ?誰だテメー?」
クソ、こいつの喋り方が癪に障る。
一発やってもいいんだが…
って違う。僕の魔法は超越する。
別に最強になる魔法じゃないからな。
「僕はファルカ、オーディンのパーティに入っている魔法使いだ」
「律儀に自己紹介するじゃねえか」
「俺はヘロー・スピーツ。この街で一番強い冒険者だ」
一番強い冒険者か。
聞いたことないが、変に首を突っ込むのはやめておこう。
「よろしく、ヘロー」
「ヘロー・スピーツ!?」
「ふん、やっと俺の恐ろしさがわかったか」
全く、気が強い奴らが合わさったら大変だ。うるさくて仕方がない。
早く飯も食いたい。
「もういいか?オーディン」
「ああ、飯食いに行くか!」
やっと飯が食える。
僕はこれまで動物と触れ合って、飯食って寝るしかしてこなかったしな。
「行こう、オーディン」
「おい、待てよ。どこ行くんだ?」
ヘロー・スピーツがこちらに歩み寄ってくる。
その態度は明らかに喧嘩腰で、まるで通せんぼするかのように僕たちの前に立ちはだかった。
「お前ら、調子に乗ってんじゃねえのか?」
「……何が言いたい?」
僕が目を細めて尋ねると、ヘローは鼻で笑った。
「ただの駆け出しが廃教会の主を倒した? ギルドで聞いたぞ。いい気になるなよ」
ああ、なるほど。そういうことか。
噂になってたのか、僕たちの依頼達成が。
「気に食わねぇんだよ、お前みたいなガキがイキってるのがな」
「はあ〜〜!? イキってんのはテメェの方だろうが!」
オーディンがすぐさま噛みつく。
熱血で単純、いつものオーディンだ。だけど、こういうときは頼もしくもある。
「……決闘でもしたいってこと?」
僕が静かに言うと、ヘローの目がギラリと光った。
「へっ、話が早くて助かるぜ」
「や、やめとけそこの冒険者! こいつ、ギルドの中でも本当にトップなんだぞ!」
後ろから誰かが止めようとしていたが、僕は肩をすくめた。
「いいよ。形式的にギルドの決闘を申請するなら、受ける」
「へへっ、言ったな」
ヘローは舌なめずりをしながら、ギルドの決闘係に手続きを申し込んでいた。
どうやら、もう後戻りはできないらしい。
「ふふん、後悔するなよ?」
「別に、後悔するような力の使い方はしない」
僕は言葉の裏に含みを持たせた。
そう、僕の超越魔法は──最初から“勝つ”ための力じゃない。
相手を“理解する”ための力だ。
「オーディン、飯はあとでだな」
「だ、だな……けど無理すんなよ?」
「大丈夫。ちょっと、解析するだけだ」
◆
決闘場に立ったヘローは、巨大な斧を肩に担いでいた。
筋骨隆々、いかにも“最強”の象徴といった感じだ。
「じゃあ──始めるかァッ!」
地を割るような踏み込み。
彼の一撃は、確かにギルド最強と呼ばれるだけの重みがある。
けれど、僕はその場で動かず、ただ目を閉じた。
──解析開始。
(種別:人間/職業:戦士系/スキル:「爆斧」/構造:筋力極振りタイプ/弱点:反動/精神コントロールに難あり)
(解析完了。超越可能。)
僕はその場で目を開けた。
「これで終わりだ」
彼の斧が振り下ろされる寸前、僕はその勢いを横にずらす。
反動を殺す術を知らない彼の攻撃は、自滅同然に体勢を崩した。
「なっ──」
その隙を突いて、僕は彼の足元を蹴り払う。
完璧なバランス崩し。攻撃ではない。ただ、“構造的に勝てない”ようにしているだけ。
ドサリ、と音を立てて彼の体が崩れ落ちた。
「……終わり?」
「……ああ」
会場が静まり返った。
まるで、何が起きたのかわからない、といった様子だ。
「て、てめぇ……なにした……?」
「君を、ちょっと理解しただけだよ」
◆
「勝者、ファルカ!」
決闘係の宣言と同時に、オーディンが駆け寄ってくる。
「お、おいファルカ!やるじゃねぇか!」
「まあね」
「す、すげぇ……あのヘローを、無傷で倒すなんて……」
周囲の冒険者たちの目が変わる。
最初は見下していた眼差しが、今は畏れと尊敬に変わっていた。
……でも。
(やっぱり、目立つのは好きじゃないな)
「……飯、食いに行こう。今度こそ」
「お、おう!」
僕は静かに歩き出した。
この力は、誰かを打ち負かすためじゃない。僕が僕として、静かに暮らすための力だ。
それを、忘れないようにしよう。