4話『廃教会の主』
「ここ…か?」
「ここっぽいな」
ボロボロの外壁に、枯れた蔦が絡みついている。
中央には、例の鐘が鈍く光を放っていた。
「よし! さっそく調査するぞー!」
……はあ、めんどくさい。
僕は重たそうな扉を押し開け、中に足を踏み入れる。
埃が舞い、空気はどこか湿って重苦しい。
得体の知れない気配が、そこかしこに漂っていた。
「気をつけろ。ここ……ただの廃墟じゃないぞ」
オーディンが声を潜めて警戒する。
足元の瓦礫を踏み越えながら、奥へと進むと──
ガサッ。
「なんだ!?」
突然、獣のような魔物が祭壇の陰から飛び出してきた。
その姿は、この世のものとは思えないほど醜悪で、
鋭い牙をむき、瞳にはあからさまな殺意が宿っている。
「戦闘開始だ、油断すんな!」
オーディンが剣を抜き、一直線に突っ込んでいく。
僕は何も言わず、立ち尽くしていた。
……驚いたわけじゃない。
ただ、戦う気になれなかっただけだ。
こんな雑魚に、魔法を使うのは勿体ない。
「ファルカ!? 手伝ってくれよ〜!」
……仕方ない。基礎魔法くらいなら、くれてやるか。
「ファイガー」
火の玉が魔物に向かって放たれる──が、
命中しても煙すら立たなかった。
(効いてる気配はないな。まあ当然か。僕のレベルは1。基礎魔法じゃダメージにすらならない)
「ウギャアァァ!」
オーディンの剣が魔物を貫いた。
どうやら、彼が仕留めたらしい。
「えっ!? 倒したのか?」
数発の攻撃で崩れ落ちた魔物。
だが、これはまだ“始まり”にすぎない。
そう──直感がそう告げていた。
「こんな場所に魔物が潜んでるとはな……」
「廃教会、案外手強そうだ!」
僕たちはさらに奥へと進む。
そして──あの鐘へと近づいた。
「これが、例の鐘か……」
「妙に輝いてるな」
高価そうな見た目だ。触れてもいないのに、胸騒ぎがした。
その時だった。
──ゴーン。
鐘が鳴った。
僕もオーディンも、誰も触っていないのに。
「な……なんだ!?」
「ふむ……」
次の瞬間、思考が濁り、意識が霞んでいく。
身体が重い。まるで、空間そのものが鈍く濁っているような……
これは、鐘の音の影響か?
「後ろだ! ファルカ!」
バサッ──風を裂く音。オーディンの剣が宙を斬る。
廃教会の“主”が現れたようだ。
「気を抜くなよ!」
「貴様に言われる筋合いはない」
その姿は、異様だった。
蝶のように美しい羽を持ち、
口元には、まるで何かを吸うためのチューブのような器官。
「……おそらく、こいつが記憶喪失の原因だな」
チューブで、調査隊の記憶を吸い取っていた──そう考えれば、説明がつく。
「よし! いくぞ、ファルカ!」
「……ああ」
解析を開始する。
――解析開始。
(種別:魔獣クラスB/属性:炎/防御構造:花粉膜/弱点:羽)
(対応完了――超越開始)
「さてと……」
「消えてもらおうか」
僕は地面を蹴り、魔獣へと跳びかかる。
魔獣は反射的に防御膜を展開し、僕の体を絡め取ろうとしてくる。
だが、それは意味がない。
「無駄だよ。僕はすでに、貴様を超えているからな」
羽を狙って、渾身の回し蹴りを叩き込む。
魔獣の羽が砕け、体勢を崩して地面に落ちた。
そこへすかさずオーディンが剣を振り下ろす。
剣は見事に魔獣の体を断ち切った。
魔獣は叫ぶ間もなく、黒い霧となって消滅する。
……どうやら、主は倒したようだ。
「おい! 見ろよ!」
オーディンが何かを見つけたらしい。
僕は彼の元へ駆け寄った。
「これは……」
そこには、見るも無惨な家畜の死骸。
身体はしぼんだように萎れ、ハラワタは無惨に抉られていた。
「これが、家畜失踪の原因か……」
「まあ! ともかくこれで依頼完了だな!」
結果はどうあれ、事件の真相を突き止めた。
オーディンも、少しは自信がついたようだ。
それなら、まぁ──悪くない。