2話『街へ』
「でさでさ〜!」
うるさい。
いつもはクソ鳥の鳴き声で目を覚ますのに、今日はそれ以上にうるさいヤツがいる。
……なんで僕は、こんなヤツと一緒にいるんだろう。
「そういえば、お前さ、ギルドには入ってんのか?」
「いや、僕はそんなものには興味ない」
ギルド——冒険者に依頼を仲介し、報酬の支払いやランク評価を行う組織。
魔物の情報共有なんかもしてる、まあ面倒くさい場所だ。
もし僕が加入したら、依頼なんて山ほど来るだろうし、目立って仕方ない。
「なんでー?」
こいつは、どうして僕にこんなに絡んでくるんだろう。
他にも強いやつなんて、いくらでもいるはずなのに。
「うるさい。少しは静かにしてろ」
「えー、俺ら仲間じゃん!」
「もっと会話楽しもうぜー!」
……今さらだけど、こいつを同行させたことを本気で後悔してる。
「そうだな。お前はギルドに入ってるのか?」
「入ってるぜ! 俺が立ち上げたギルドにな!」
なんでだよ。
強いヤツがいるギルドに入ったほうが、よっぽど効率がいいだろ。
「もちろん、お前は俺のギルドに入ってくれるよな!」
「ああ、わかったよ」
反論するだけ無駄だ。
適当に相槌を打っておけば、満足するだろう。
「よっしゃ! じゃあ、俺の街に行こうぜ!」
「アイテムとかもいろいろ揃ってるしな!」
……めんどくさい。
わざわざ歩いて街に行くなんて、できれば寝ていたかったのに。
「はあ、わかったよ」
「よっしゃ出発だー!!」
オーディンの元気な声が森に響く。
そしてその十分後、僕はもうすでに後悔していた。
「なあなあ、そこの木、見てみろよ!でっけえよな!?」
「……」
「てかさ、魔物とか出てこねーかな? 俺、そういうの得意だし!」
「……」
「……なあ、聞いてる?」
「うるさい。黙って歩け」
——こうして、僕の平穏な日々は完全に終わりを告げた。
森の木々が開け、視界が広がる。
遠くに小さな城壁と、その内側に建ち並ぶ建物群が見えてきた。
「おっ、見えてきたな! あれが俺の故郷、『ベルツェ』だ!」
人の声、家畜の鳴き声、鉄と煙の匂い。
数年ぶりの“街”の空気に、僕は思わず眉をひそめた。
「ようこそ俺のホームタウンへ! さーて、まずはギルドに顔出すか!」
……頼むから、静かにしてくれ。
そう思いながら城門をくぐろうとしたそのとき。
「おい! そこの二人!」
城門の衛兵か?
できれば関わりたくないが、こいつらはなんで呼び止めてきたんだ?
「えっ!? 俺たち何もしてませんよー!」
バカ、それを言ったら逆に怪しまれるだろ。
「違う違う、さっき森の方からすごい轟音が聞こえただろ」
「君たちが森から出てきたから、無事かどうか気になってな」
……衛兵がまともで助かった。
「おう、なんか魔獣が暴れてたけど、俺が片付けといた!」
「……ああ、こいつに助けられた」
「え? あーそうそう、こいつが!」
衛兵の目が見開かれる。
「君が……ひとりで?」
……クソ、余計なことを言いやがって。
「ああ」
「す、すごいな……さすが冒険者……!」
「ただの一般人だ」
「えっ」
「じゃあ、通らせてもらうよ」
「ま、待ってくれ! もしよければ、ギルドに詳細を報告してくれないか?」
「最近あの辺りで魔獣が活性化していて、調査を進めているところなんだ」
「あーちょうど、今からギルドに行くとこなんだよ!」
オーディンが満面の笑みを浮かべて答える。
……まあ、そうなるとは思ってた。
僕らは門を抜け、街へと足を踏み入れた。
石畳の道、行き交う人々、威勢のいい商人の声、軋む荷馬車の音。
騒がしくて、でもどこか懐かしい——街の喧騒。
「いや〜、やっぱ街は落ち着くな! 森の虫の音もいいけど、この雑音が最高だよな!」
「……それを雑音って言うな」
「ほらほら、ギルドはこの先だぜ!」
やかましい声をBGMに、僕は中央通りを歩く。
すると、オーディンがふいに足を止めた。
「ん……あれ?」
彼の視線の先。
ギルドの建物の前で、数人の冒険者たちが言い争っている。
「なんだ、また喧嘩か?」
「いや……あれ、ギルド前だろ?」
オーディンの顔から笑みが消え、真剣な表情になる。
……面倒な予感しかしない。
そして僕の予感は、大抵、当たる。