17話『塔を貫く角龍』
なんとかモディアスの横を通れた。
このまま塔に入れたらいいのだが…
生きると言うのはそう単純なことではない。
ゴオオオォォオッ!!!
モディアスが吠える。
僕は恐怖で振り向けない。
だが、振り返らなければならない。
それが生きると言うことだ。
「オーディン、アリス」
「モディアスの弱点を探してくれ」
この世界は弱肉強食だ。
どれだけ強くともそれ以上の者が
狩る。
そんな世界で生きるには、振り向かなくてはならない。
「避けろ!オーディン、アリス!」
振り向くとそこには突進の準備をしていた、モディアスが。
ゴオオオォォオッ!!!
と咆哮と共に豪速で突進してきた。
あの攻撃を喰らえば、串焼きにされているだろう。
「なんとか……避けたか」
砂を巻き上げながら、モディアスはその巨体を止める。
地面には深く抉られた轍。一歩でも遅れていれば、今ごろ三人ともただの肉片だった。
「ファルカ、あれ……背中が弱い!」
アリスが叫ぶ。後衛で冷静に観察していた彼女の瞳が、確かな確信を持って僕を見つめていた。
「突進のあと、魔力の揺らぎが一瞬止まった!背中の装甲が開くの!」
「よし、ローディン!そっちから回り込んで背後に誘導できるか!?」
「任せとけ!俺の脚力、舐めるなよ!」
ローディンが疾風のように砂を蹴った。
その姿を目で追いながら、僕はまた《エクシード・フィネス》を呼び起こす。
「再解析開始……対象:モディアス」
あの突進、角の角度、踏み込みのタイミング。全てが脳内に組み上がっていく。
そして——
「……解析完了」
体がまた、“あの感覚”に包まれる。
この一撃で仕留める。
「今だ、ローディン!」
「おらぁああああああッ!!!」
ローディンが砂塵を巻き上げて左から挑発し、モディアスが怒りの咆哮と共にそれを追う。
背中が露わになった——
「いけ!ファルカ!」
オーディンの掛け声と共に、剣を投げてきた。
僕はそれを掴み…
「《超越魔法・瞬剣式》」
僕の身体が消え、次の瞬間にはモディアスの背に跳び乗っていた。
そして、背面装甲の綻びへ、刃を一点集中させる。
「これが、“弱点”だッ!!」
ズドォォン!!
鋼を裂く音。毒が飛び散り、空間に紫煙が広がる。
モディアスが、苦しげな咆哮を残して崩れ落ちた。
しばらく、誰も口を開けなかった。
「……倒した?」
「いや……気を抜くな。Sランクがそんな簡単に終わるはずが——」
ズズ……ズズズ……
大地が震える。モディアスの巨体が、まるで“地下へと引きずり込まれる”ように沈んでいく。
「……自ら潜った?」
「まさか、再生のために……」
モディアスの姿が消えたあと、砂漠には静寂が訪れた。
「……行こう。塔が、待ってる」