12話「灰の中の新芽」――第2章・開幕!
「世界は、まだ静かに崩れている」
災厄は去った。
黒き竜を打ち倒し、森に再び陽が差し込んだ。
だが、それはほんの一時の安寧に過ぎない。
世界は依然として、深い眠りの中で蝕まれている。
誰にも気づかれぬまま、ゆっくりと、確実に。
それはまるで、焼け跡から芽吹く新芽のように、静かに息を吹き返していく。
“終わった”と思った者たちが、再び歩み出すとき――
そこに待つのは、さらなる現実。
魔王の影、腐る世界、目を覚ます神々。
超越者アルス・ファルカの旅は、まだ始まったばかり。
第二章、開幕。
黒き災厄が消え去ってから、三日が経った。
空はすっかり澄み渡り、あの黒雷に覆われていた空とはまるで別物のようだった。
森に吹き抜ける風はどこか柔らかく、命の気配を取り戻した大地は、まるで「再生」の鼓動を打っているかのようだった。
「……平和って、こんなにも静かなのね」
アリスがぽつりと呟いた。
小さな焚き火の前で、湯気の立つスープを木の器に注ぎながら、彼女は遠くの空を見上げている。
「ドゥーラがいなくなって、森の魔力濃度も安定してきた。まるで、毒が抜けていくみたいに……」
「なら、しばらくは安全そうだな」
オーディンが焼いた肉を串からかじりつつ、にやりと笑う。
「いやぁ、それにしてもあの一撃はしびれたな、ファルカ!」
「……そうか?」
僕は静かにスープを啜りながら、少しだけ肩をすくめる。
心のどこかに、まだあの“核”の感触が残っていた。
(……災厄を断ったはずなのに、何かが胸の奥に引っかかっている)
「ファルカ、これからどうするの?」
アリスが僕の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
僕はスープの器を置いて、そっと立ち上がった。
「――旅を続ける。世界はまだ、静かに死にかけているから」
風が吹く。
草木の間を抜けていくその風に、どこか焦げた灰の匂いが混じっていた。
(新たな災厄の芽が、もうどこかで……)
そして、物語は次なる章へと進み始める――
「ーーと言うことで、Bランク昇格試験を受けてください」
「ええー!?あのバケモンドラゴン倒したんだぜ!?」
全く、いつもの日常が戻ってきてしまった。
「私自身も、ギルドマスター様も
S級冒険者に認定したいんですが…」
「大丈夫だ、もちろん昇格試験は受ける」
昇格試験とはいっても、所詮はBランク。SSSの化け物を討伐した僕らからしたら余裕だ。
「えーっと…ドスカルチョの討伐…と」
「ファルカードスカルチョってなんだ?」
ドスカルチョは霧の大河に棲む、大型のカピバラ型の魔獣だ。
動きは緩いが一撃がとても強力だ。
「ドゥーラの弱い版」
「それって強いんじゃ!?」
そんなことない。
あくまでもBランクの魔獣だ。
とにかくBランクに上がりたい自分と、目立ちたくない自分がいる。
だが今は本能に従うしかない。
ーー1日後
「よし、まずは情報収集だな」
オーディンが手を叩きながら言う。
「ファルカ、森の様子はどうだ?」
僕は立ち上がり、森の気配を探る。
(灰の匂いは薄れてきているけど、まだ完全じゃない…慎重に行こう)
アリスも装備を整えながら、小さくうなずく。
「回復魔法は万全にしておくわね」
僕たちは静かに、しかし確実に次の一歩を踏み出す準備を始めた。
霧の大河の向こう――新たな試練と、新たな出会いが待っているなど、まだこの時の僕たちは知らなかった。