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超越者はただ静かに暮らしたい  作者: りーく/Leak
燃えぬは、草木の魂か
11/28

11話『生命の息吹は屈せず』

逃げた……?


黒い翼を大きく広げ、ドゥーラは高空へと飛び去っていった。


灼熱の風が止み、地鳴りもおさまる。


一瞬、世界が静寂に包まれた。


「え……終わった……の?」


アリスが呆然と呟く。

その手からは、詠唱していた魔法の光が静かに消えていった。


「まさか、逃げたのか?」


オーディンもまた、剣を構えたまま空を見上げる。

その視線の先にあるのは、どんどん遠ざかっていく黒い点――


だが、僕は違和感を覚えた。


(……逃げた?)


(本当に……?)


次の瞬間だった。


【超越解析:反応再発生】

【警告:魔力濃度、異常上昇】

【災厄の兆候を検出――】


「……違う」


僕は呟いた。


「逃げたんじゃない……あれは、“溜めてる”んだ」


「え?」


「空で――何かを……!」


ゴォォォォオオオッ!!!


天空が爆ぜた。


さっきまで黒い点だったドゥーラが、まるで災害の化身のように、真っ黒な雷を纏い始める。


その体が膨れ上がり、周囲の空間が歪む。


「もうダメだ!?」


アリスが叫ぶ。大地が裂け、空は血のように染まり、全てが終わる予兆を孕んでいた。


だが。


「……ダメじゃないさ」


僕は静かに、目を閉じた。


「真の勝者は、何事にも屈せず争い続ける者のことだ」


(この瞬間を待っていた)


【超越解析、再構築完了】

【対象の構造・属性・核位置を完全特定】

【超越魔法:最終方程式・発動可能状態に移行】


「やっとだ。こっちも――“準備は整った”」


目を開ける。世界が、まるでスローモーションのように映る。


黒雷をまとい、世界を飲み込もうとするドゥーラの姿。


その胸の奥に、脈打つ漆黒の核――それが、奴の“心臓”。


「見える、見えるぞ」


僕は静かに、詠唱を始めた。


「――超越魔法、最終方程式」


「《エクシード・フィネス》」


空が割れた。


僕の背後に、無数の魔法陣が重なり、黄金の光が降り注ぐ。


それは、核を破壊するためだけに創られた、世界でただ一つの魔法。


「アリス、オーディン!頼んだ!」


「任せて!」


「この一撃を通すためなら……命だってくれてやる!」


アリスが防壁を展開し、オーディンが突進する。

二人の行動が、ドゥーラの攻撃の起動をずらす。


そして、その隙間を――


「穿て!」


放たれた一閃は、黒雷すら貫き、真っすぐに“核”へと突き進んだ。


ドゥーラの瞳が、驚愕に見開かれる。


その一瞬が、決着のときだった。


ドォォォン――!!


核が砕けた。


その音は、まるで大地が歓喜するかのように、空に響き渡った。


黒雷が弾け、巨大な影が崩れ落ちる。


ドゥーラの咆哮は、もうなかった。


ただ、静かに――その身体は灰となって風に溶けた。


「……やった、のか?」


オーディンが膝をつき、空を見上げる。


アリスは防壁を解きながら、深く息を吐いた。


「終わった……本当に」


僕は一歩、また一歩と前に進み、ドゥーラがいた場所の中心に立つ。


残っていたのは、小さな黒い結晶だけ。


「これが……“災厄の王”の核か」


そっと手に取る。


【超越魔法、強化因子の回収を確認】

【特異存在ドゥーラ――完全排除】

【戦闘評価:SSS+】

【称号付与:“災厄を断つ者”】


(……ようやく、超えたんだ)


この手で、超越の意味を掴んだ実感があった。


アリスとオーディンが僕の元へと歩いてくる。


「……ファルカ、あなたって本当に……何者?」


アリスの問いに、僕は少しだけ微笑んで言った。


「ただの旅人さ。ちょっとばかり、しつこくて、諦めが悪いだけのね」


オーディンが笑う。


「それで、十分すごいよ」


空は澄んでいた。黒い嵐はもう、どこにもない。


こうして――


“黒龍ドゥーラとの死闘”は、幕を閉じた。

【あとがき】


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


これにて第1章「燃えぬは、草木の魂か」、完結です。


この章のテーマは「屈しない生命」でした。

植物は、たとえ焼かれても、その根や種から何度でも芽吹きます。

戦いの中で、ファルカや仲間たちが見せた“しぶとさ”や“諦めの悪さ”――それこそが、この章の核心だったと言えるでしょう。


黒龍ドゥーラとの戦いは、ただのバトルではなく、彼らが「何者であるか」を問われる戦いでした。

それを乗り越えたことで、少しずつ彼らの旅が本当の意味を持ち始めていきます。


そして、ファルカの魔法――《エクシード・フィネス》の名の由来について。


「フィネス」は“精巧さ”、“繊細さ”を表す言葉。

「エクシード」は“超越”。

つまり、《エクシード・フィネス》は、「精巧にして、すべてを超越する魔法」という意味を込めています。


今後も、彼のこの魔法が、物語をどう動かしていくか――ぜひ楽しみにしていてください。


次章「灰の中の新芽」では、Bランク昇格後の新たな冒険と、少しずつ広がっていく世界が描かれます。


それでは、また次の話でお会いしましょう!


――Leak


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